馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

第43回生産地シンポジウム

2015-07-17 | 学会

きのうは恒例の生産地シンポジウム。

第43回だそうだ。

私はその31回に参加してきた。

急患や、入院畜がいて参加しなかったこともあったかもしれないが・・・

ことしは、画像診断が午前中のテーマ。

生産地シンポジウムの第1回あたりのテーマは子馬の虚弱や腰痿や白筋症が混同されて取り上げられていた。

その頃から思えば日本の馬獣医学もずいぶん進歩したものだ。

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西日本は台風接近中だった。

関西から来ていた方たちは帰りついたのだろうか。

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シンポジウムの前日は、

当歳馬の下顎骨折のプレート抜去。

3歳あがり馬の下顎骨折のプレート固定。

LCPをMIPOで。(なんのコッチャ;笑)

午後は関節鏡手術。

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とうちゃんに耳の毛、散髪された

けっこう涼しくなった

                         

 

 


DIC

2015-07-14 | 馬内科学

DIC;Disseminated intravascular coagulation

播種性血管内凝固

「播種」とは種蒔き(播き)みたいにあちこちでたくさんという意味。

あちこちの血管内で凝固が起きてしまう。

血液は固まる機能を持っているし、血管内で凝固して血栓ができたらそれを溶かす機能も体は持っている。

血栓を溶かす機能は線溶と呼ばれる。

血栓溶解ではなくて、線維素(フィブリン)溶解なのだろう。

凝固亢進と線溶亢進が同時に起こり、あちこちの血管内で血栓形成と出血が起こるのがDICだ。

とても重い状態で、対処方法は考えられてはいるが、予後は悪い。

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ヒト医療ではDICの原因は、悪性腫瘍、白血病、重度の感染症、熱傷、外科手術などがあげられるが、馬では重度の感染症や消化管破裂で経験することが多い。

牛では壊疽性乳房炎が典型だろうか。

いずれもDICに対応するより原因疾患が治せないのでそのまま予後不良になることが多い。

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DICは病名というより状態あるいは現象の呼び名なので診断というより評価と呼んだ方が良いかもしれない。

古典的には原因疾患、症状と経過、そして血液検査では血小板の減少、フィブリノーゲンの減少、PT・APTTの異常、で判断する。

FDP(Fibrinogen Degradation Products フィブリン・フィブリノゲン分解産物)がヒトでは測定される。

昔、若かった頃、馬で測ってみたらどの馬もとんでもなく高かった。

測定方法がおかしかったのか、寄生虫性血栓を持っている馬ばかりだったせいかわからなかった。

まあ、せっかく測ったのだからきちんと記録して学術報告しておけばよかったかもしれない。

しかし、まだインターネットで文献検索もできない時代だった。

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さて、先日の大腸炎で死亡し、剖検でDICを起こしていたと思われた子馬。

来院時の血液検査では、白血球は50,400/μl。

血小板は新鮮血で測ったにも関わらず測定不能だった。

凝集していたのだろう。

フィブリノーゲンは残念ながら測定していない。

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きょうは、子馬の肢軸異常のsingle screw。

2歳馬の去勢。

1歳馬の腕節の2日経った外傷の縫合。

2歳馬の頚の血腫?の切開。なんだ?

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北海道も急に暑くなった。

それも蒸し暑い。

その耳の毛と、首周りと、散髪しようか?

えっ?嫌だ?

どうして?

 

 

                    


子馬の大腸炎からのDIC

2015-07-13 | 馬内科学

前日から下痢をしていた子馬が朝、かなり具合が悪いと思ったら、昼には立てなくなったとのことで夕方来院。

子馬の様子を診て、「厳しいですよ」と言ったが、なんとか治療開始する。

口粘膜はチアノーゼ。

持続点滴して、酸素吸入して、抗生物質投与して・・・

入院厩舎で立てるようになり、蠕動も少しは出てきて、いくらか改善傾向かと思ったが、

夜、別な繁殖雌馬の開腹手術を終えて入院厩舎に居たら、突然倒れて死んでしまった。

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剖検すると、全身諸臓器の漿膜面に点状出血。

小腸粘膜は腫れているがさほど出血していない。

大腸の粘膜はひどい。

壊死と言ってよい状態で、ほとんどバリア機能を失っていただろうと思わされる。

肺も点状出血。

膨らんでしまってしぼまない。気管支枝が閉塞してしまっているのだろう。

典型的な大腸炎とエンドトキシン血症とDICだと思われる。

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若い獣医さん達、それから獣医科学生諸君、DICって言うけど何のことだか説明できるかい?

播種性血管内凝固?

じゃあ、DICって何の略?

診断は?治療は?予後は?原因は?

答えは明日にしようか;笑

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とうちゃん、ひなたぼっこしてないでアソブべ~

これほしかったら取ってミレ~

ヨダレでベトベト~

取ったらカムゾ~

あ~おもしろかった

 

 


20年前に他の地域の大動物診療について気になったこと

2015-07-12 | 想い出

もう20年以上前だろう、遠方の農業共済組合が獣医師を研修に寄越していた。

何名かの獣医さんが交代で数日間ずつ滞在していった。

若い先生だけではなく、40を超えた診療所長クラスの獣医師も来ていた。

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そのかなり年配の先生が、まだ30前後だった私の手術を観て、

「メスの持ち方が違う」

とおっしゃった。

「ハアッ?」という感じだった。

メスの持ち方には何種類かある。

目的にあった持ち方をすれば良いのだが、その先生は数種の持ち方をご存知なかったのだろう。

指導する立場になるには、自分がやっている方法だけでなく幅広く基本を身につけておきたいものだ。

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その年配の先生は、北海道へ来て風邪気味だったらしく、薬品棚の動物用アンピシリンを私に打ってくれという。

「イヤですよ」と断った。

ペニシリンショックを起こして死なれたら「頼まれました」では済むまい。

奥さんは看護婦さんだそうで、風邪をひくといつも奥さんにうってもらうとのことだった。

ほとんど全ての風邪は細菌感染を伴わないウィルス感染で、抗生物質投与は意味はない。

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牛の第4胃変位の手術で閉創していたら、

「丁寧に縫うんですね。私達は4糸くらいしか縫いません。」とのことだった。

「それで癒合しますか?」と尋ねたら、

「いいえ、癒合しません。でも、イイんです。」という答えだった。

何がいいんだろう?

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抗生物質も注射投与せず、バイアルの蓋を開けて、粉を傷口にふりかけるとのことだった。

アンピシリンの注射薬は液に溶かしてさえも、傷につくととても染みて痛い。

それで、筋肉注射するより静脈内投与してやりたいと私は思っているが、その遠方の診療所がどうして粉のままふりかけるのか聞いてみる気もしなかった。

たぶん、注射用シリンジや針の費用が惜しいとか、手術時の抗生物質投与は保険給付にならないから、という理由だったのだろう。

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その地域の家畜診療のレベルはあれから向上したのだろうか。

ふと、思い出して気になった。

月末、全国の若い産業動物の獣医さん相手に数時間の講習をしに行く。

ちゃんと準備して、まじめにがんばろうと思う。

へたしたら35℃を超える真夏日になるらしいけど;笑。

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きょうは、当歳馬の両前肢球節内反の矯正手術 single screw。

2歳馬の前眼房出血の検査。

午後は、当歳馬の球節内反の矯正手術をもう1頭。

1歳馬の腰痿の頚椎X線撮影。

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好天続きで牧草はとてもよく乾燥して輸入牧草のような色に仕上がっているそうだ。

うちの芝生(ただの雑草だけど;笑)は刈ったあとは茶色い。

海が見える広い芝生(ただの雑草だけど)で用足しする幸せな犬。

ナッ?!

 

 


コードレスDR更新

2015-07-10 | 整形外科

コードレスDRが更新された。

と、言うか、3年使って来たDRが故障し、修理に出したら「修理不能」だった;涙。

水分が浸み込んで腐食していたらしい。

どうやらきのう今日の問題ではなく、1回のアクシデントでもなさそうだった。

暑い中、長時間撮影を続けたレポジトリー作業のときにパネルを持っていた者の汗か?と思ったりもするがわからない。

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今度のDRは防水。

通信用の大きな箱は不要になった。

結局、要るのはパネルとノートパソコンだけ。

(と思っていたら、x線撮影装置を往診に持って行くのを忘れそうになった;笑)

ノートパソコンもモニターの解像度が進歩したようだし、新しいせいか送受信が速い。

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信じられない進歩だ。

しかし、すっかりそれに慣れるというか甘えてしまうもので、もう撮影したら現像するという意識はなくなってしまう。

とにかく撮影したら速く画像が見たいだけ。その数十秒が待ち遠しくイライラしたりもする。

手術中のX線画像を手術室内ですぐに見られないと耐えられない。

器械が進歩し、世の中が変化し、人は余裕と寛容性を失うんだな・・・・・・笑。

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今日は、2歳馬の去勢。

繁殖雌馬の子宮内膜炎。

当歳馬の腹腔内膿瘍。

4歳競走馬の左右腕節と球節のchip fractureの関節鏡手術。

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関西から帰ってきたら北海道は好天で爽やかだ。

緑が美しく、風が吹きぬけて、とても心地よい。

空が広く、道が広く、人が少なく、ワンコが走り回れて快適だ。

性質(たち)の悪い病原菌でドロドロの病巣を覗き込む仕事でも、

関節の中からいくつも骨片を引っ張り出し、軟骨を削る仕事でも、

北海道はイイよ;笑。