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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

去勢の鎮痛にブトルファノールかフェニルブタゾンは?

2010-01-10 | その他外科

去勢手術後の痛みを楽にしてやるために、ブトルファノールがフェニルブタゾンより効果的かどうかを調べた報告がJAVMAに掲載されていた。

                        -

Analgesic effects of butorphanol tartrate and phenylbutazone administrered alone and in combination in young horses undergoing routine castration.

通常の去勢を受けた若馬での酒石酸ブトルファノールとフェニルブタゾンの単独と併用の鎮痛効果

     Macarena G. Sanz, Debra C. Sellon, Julie A. Cary, et al.

目的

通常の去勢を受けた若馬で、酒石酸ブトルファノール、フェニルブタゾン投与、それらの併用の鎮痛効果を比較すること。

デザイン

ランダム化された対照臨床試験

動物

36頭のオーナー所有馬

方法

馬は、ブトルファノール単独0.05mg/kg筋肉内投与を手術前、そして24時間中に4時間ごとに受けた。あるいは、フェニルブタゾン単独4.4mg/kg静脈内投与を手術前、その後2.2mg/kg経口投与を3日間12時間ごとに受けた。または、ブトルファノールとフェニルブタゾンを前述の量、投与された(各グループ12頭ずつ)。

単独の薬で治療された馬は、グループ間の治療プロトコールのバランスを取るために、適切なプラセボ薬を投与された。

すべての馬は麻酔され、塩酸リドカインがそれぞれの精巣に注入された。一般所見、生理学的数値、血漿コルチゾール値、体重、飲水量が、手術前と、手術後時間ごとに記録された。

麻酔導入・覚醒は主観的に評価された。

痛みの徴候の観察項目は、視角アナログ評価法と数値化された格付け評価を用いて評価された。

結果

手術前と比較すると、どの処置グループでも術後はずっと、消化管音、排便、血漿コルチゾールの明らかな変化が認められた。手術後横臥していた時間はブトルファノールとフェニルブタゾンを投与された馬で長かったが、どの時点においても、測定項目や痛みの徴候はグループ間で大きくは異ならなかった。

結論と臨床的関連

リドカインの精巣内注射をして、通常の去勢を麻酔下で受けた若い馬へのブトルファノールの投与は、フェニルブタゾン投与と観察上は同じ鎮痛効果を示した。ブトルファノールとフェニルブタゾンの併用が、それぞれの単独投与より優れているとは明らかではなかった。

(J Am Vet Med Assoc 2009; 235: 1194-1203)

                         

ワシントン州立大学からの報告。序文には・・

動物福祉の考えかたの普及により、「残酷でない」処置方法が求められている。去勢前後の鎮痛方法の評価が増加しているが、馬の去勢については鎮痛のプロトコールや手術手技についてあまり研究は行われていない。

イギリスの282人の馬医師についての調査では、45.4%の獣医師は去勢後、補助的な鎮痛剤投与をしておらず、17.7%は場合によっては鎮痛剤を投与し、36.9%はいつも鎮痛剤を投与していた

(イギリスは世界で一番動物福祉が進んだ、あるいは進みすぎた国だと思う)

調査に答えた40歳以上の獣医師は、去勢後鎮痛剤投与しない率が、30歳以下の獣医師に比べて約3倍だった。

というようなことも書かれている。

                        -

残念ながら、ブトルファノールの注射をしても、従来行われることが多かったフェニルブタゾンの投与より鎮痛効果があがるということは確認できなかったようだ。

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去勢後の腸管脱出は、去勢後1日以内に多いことが報告されているが、ひょっとすると去勢後の痛みと関係するのではないかと考えたりするがどうだろうか・・・・

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7 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
昔、去勢後に腸が飛び出してきた馬を見たことがあ... (はぐれ者)
2010-01-10 19:31:52
昔、去勢後に腸が飛び出してきた馬を見たことがあります。
すぐにいなくなってしまったので、その後どうなったかわかりません。
そのような馬の治療は可能なのでしょうか?
返信する
>はぐれ者さん (hig)
2010-01-10 19:50:20
>はぐれ者さん
 治療は可能ですが、全身麻酔・開腹手術ができる施設・外科医でないと厳しいでしょう。

 去勢手術後の致命傷になりかねない併発症なのですが、開放式で行うと防ぎようがありません。
返信する
痛みの徴候の観察項目を具体的に知りたいですね。 (豆作)
2010-01-11 07:27:40
痛みの徴候の観察項目を具体的に知りたいですね。
「視覚アナログ評価法」
「数値化された格付け評価法」
どのようにしてやるのか。
これは馬以外でも応用が可能でしょうか。
牛のもあったら、具体的項目を知りたいところです。
返信する
>豆作先生 (hig)
2010-01-11 16:55:51
>豆作先生
 では、長くなるので記事にしましょう。子羊、子豚などでもずいぶん研究されているようです。去勢や断尾が多くて、数がそろえやすく研究しやすいからでしょうか。子牛の去勢についての報告もあります。Res Vet Sciってどこの雑誌だろ・・・?
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去勢レベルの外科侵襲ではブトルファノールの出番... (zebra)
2010-01-12 23:17:12
去勢レベルの外科侵襲ではブトルファノールの出番はないのかも知れません。
親知らず抜くのにも局麻とNSAIDですから。
あれもこれもといたずらに保険をかけるような処置はうまくありませんね。

痛み兆候のスコア化は人間でも相当難しいらしいですから、統計処理上のテクニックと割り切って考えたほうがよいと思います。
この手の論文は採用されるまで結構時間がかかって膨らんでいくように思えます。

Research in Veterinary Scienceなら英国誌のようですね。。
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>zebraさん (hig)
2010-01-13 04:52:26
>zebraさん
 去勢レベル。というのは程度が軽いということですか?だとしたら、違うと思います。
 
 人間は主訴が得られますが、たしかに主訴に頼るのも客観性にかけますね。いかに客観的に痛みを評価するかは、「統計処理上の問題」ではなく、この論文の大きなテーマであり、この分野に興味を持つ人にとっても重要なことでしょう。

 審査でクレームがついても追試は不可能でしょうね。
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去勢はおよそ生命の維持に必要のない処置ですから... (zebra)
2010-01-15 02:13:20
去勢はおよそ生命の維持に必要のない処置ですから、倫理的に疼痛管理が訴求される格好の対象かも知れません。
鶏の卵も半分生まれた雄雛の行方を考えるととても食べられないと私は思うのですが、動物愛護の精神からはどのように考えられているのか興味があるところです。

侵襲のレベルは開腹手術に準ずるとは思いますが、切開の大きさは腹腔鏡手術を大きく超えると考えるべきでしょうか。

痛みは主観的共感でしか表現できないように思えます。
客観的なスコアで評価できるのは生理的興奮を伴う精神的抑圧とでも表現される行動でしょうか。
それらしい表現項目を羅列していけば有意差を出しやすくなりますが、各々がパラレルであれば恣意的になってしまいます。
逆に人で言うところの痛みにはいくつ項目を並べても表現できないものも存在していると考えます。
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