馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

舌の裂傷

2006-10-02 | その他外科

 ディープインパクト残念!!Photo_142

3着だからたいしたものなのだけれど、一度は先頭に立っただけに残念。

素晴らしい力を持っていることは世界に証明した。

しかし、慣れない環境、コース、重い斤量、時差、レース間隔、前を走らなければならないレース展開、すべてが敗因になったのだろう。

世界の中で競うことはたいへんなことだ。

挑戦した関係者の皆さんに敬意を表したい。

そして、たぶんその意味を理解してはいないディープインパクトに、「お疲れ様」。

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 馬は舌を切ってしまうことがある。

ハミで切ることが多いようだ。落ちたときに乗り役が引っ張ってしまうとか、馬が自分で手綱を踏んでしまうとか。

私自身は舌を縫合したことはない。

しかし、今まで運ばれてきて、切れた舌を縫合してもくっついた記憶がない。

いつも唾液で濡れていること、動き続ける組織であること、弾力があまりない組織であること、などが癒合しない要因だろうと思う。

ただ、癒合しなくて舌に大きな切れ込みが残っても大丈夫なようだ。

それで、最近はどの程度の傷か聞いて、よほど傷がひどいか、傷が新しくないときは「縫っても癒合しませんから」と言ってきた。

P3310004 この馬の傷もひどかった。

ほとんど舌がちぎれたようになっている。

ただ、2本おおきな血管が切れずにのこっているのも見えた。

Equine Surgery 3rd.ed. には舌の縫合方法が載っている。

P3310005 それを参考に、S先生が縫ったのが右。

 なんとうまく癒合した。

下の写真は縫合から26日後。

P4260009P4260010これからは「縫っても駄目です」ではなく、縫ってみなければなるまい。

縫合方法もだが、糸の選択、傷の新しさも、鍵かな?

 

 ちなみに、時代劇などで舌を噛んで死ぬシーンが出てくるが、あれは嘘だ。舌を噛み切るのはたやすくないし、出血はするが死ねるほどではないそうだ。