平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

占星術殺人事件 島田荘司

2008年02月07日 | 小説
★久しぶりに小説。
 島田荘司「占星術殺人事件」。
 名探偵・御手洗潔が登場。

 事件の内容、真相についてはネタバレになるので書かないが、人体を繋ぎ合わせ得て一体の人間を造るアゾート殺人の猟奇性、昭和11年の2・26事件、軍の特務機関・雉機関などの舞台設定などがぐいぐい読ませていく。
 そしてあっと驚く真相、トリック!
 やっぱり探偵小説は面白い。
 一応、昭和11年だったから成立したトリックだということを書いておく。

★さて、こうした事件の他に魅力的なのが探偵・御手洗潔のキャラクターだ。
 ホームズを「ホラ吹きで、無教養で、コカイン中毒の妄想で、現実と幻想の区別がつかなくなっている愛嬌のかたまりみたいなイギリス人」と評す御手洗(その理由は彼なりにちゃんと通っているのだが)はかなりのひねくれ者。

 その根底にはこんな人生観、人間観を持っている。
 ちなみに彼は占星術の占い師だ。

「こうやって毎日星の動きを追っかけながら暮らしてるとね、この惑星の上でのわれわれのささいな営みのうちには、空しくなってしまうような種類のものが、いかにも多いのさ。
 その最大級のやつが、他より少しでも所有の量を増やそうとするあの競争だ。あれにだけは、どうにも夢中になれない。宇宙はゆっくり動いている。ちょうど巨大な時計の内部みたいにだ。われわれの星も、その隅っこの、目立たない小さな歯車の、そのわずかな歯の一山だ。僕ら人間なんてのはそのてっぺんに住みついているバクテリアといた程度の役どころだよ。
 ところがこの連中ときたら、つまんないことで喜んだり悲しんだりしながら、ほんのまばたきみたいな一生を大事にしながら送っているのさ。しかも自分が小さすぎて時計の全体を眺められないもんだから、自分たちはそのメカニズムの影響を受けないで存在しているんだとうぬぼれている。なんて滑稽なんだろうね。バクテリアが小金を貯め込んで何になるんだ?」

 占星術師ならではの人間観だ。
 達観している。確かに大宇宙に比べたら人間は小さい。
 こんな彼だから世俗的な成功にNOと言う。

 事件を解決した御手洗。
 昭和11年から誰も解けなかった事件。
 その栄誉が与えられてしかるべきだとワトソン役の石岡は思うが、御手洗はこうコメントする。

「この部屋は脳ミソの代わりに野次馬根性しかつまっていないような得体の知れない低能でいっぱいになるのさ」
 つまりマスコミが押しかけるということ。
「僕は今のこの生活が気に入っているんだ。このペースを、頭をどっかに置き忘れてきたような連中に乱されたくないね。
 翌日仕事さえなきゃ好きな時間まで眠れる。パジャマのままで新聞も読める。好きな研究をやり、気に入った仕事だけのためにそのドアを出ていく。嫌な奴には嫌な奴だと言えるしね。白を白、黒を黒と誰に気がねもなく言うことができる。これらはみんな、世間から相手にされないルンペンと言われることと引き替えに、僕が手に入れた財産だ」

 何かを得れば何かを失う。
 こういう生き方もある。
 要は自分が何を大事に思って人生を生きるかだ。
 他人がそうしているからという人生だけは避けたい。



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読書メモ『占星術殺人事件』 (自由の森学園図書館の本棚)
面白い。傑作だと思いました。 でも、色々なミステリを読んでしまったあとの者から勝手に言わせてもらうと、最高とまでは言えないような気がする。けれど読まないのは損だなぁ、これは。 作家・島田荘司のデビュー作。そして名探偵・御手洗潔の初登場作品。 ...