ちょっと信用してみようかなと思える関係を!

2016-09-21 17:57:32 | 日記
 私がひきこもり状態にあった若者を支援していた頃、「ひとりじゃない、就活講座」というものを若者たちと一緒に運営していたことを以前に掲載したことがありますが、そこに参加なさっていたUさんとの出会いで、支援者であった私もいろんな意味で学ばせていただき、一歩成長させていただいたなあと思っています。

 Uさんは自分と親や友人が見ているものが違うと感じていました。表面的に見えるものと、自分の抱えているものが違うのに、いつも表面的な部分で自分を判断されているようでした。親や他人から自己規定され誤解されて生きてきたと言います。自分の気持ちを相手に伝えたいけれど、届きません。だから、「自分で解決しなければ」「こんなことに悩んでいるのは自分だけなんだ」「ずっと良い子でいなければいけないのかなあ」「自分の病気は心配される病気ではないのかなあ」と思うようになり、感情を押し殺していきます。

 誰も自分のことをわかってくれない、それがつらくて仕方がなかったと言います。そのつらさが身体にあらわれ、腹痛や過呼吸になってしまいました。

 大学では腹痛や過呼吸などで、授業中に担架で運ばれることが何度もあったと言います。「みんなに申し訳ない」という気持ちでいっぱいでした。そして、大学を中退します。その頃からUさんは「泣かない子」になってしまいます。Uさんは決心し、相談に来ます。

 Uさんは「はじめて相談に来て、今までの自分の経緯をじっくり聴き取ってもらったことが嬉しかった。自分の生い立ちを丁寧に聴いてもらえたこと、自分を認めてもらえ、知ってもらったことが嬉しかった」と言っていました。

 他人から自己規定され誤解されて生きてきた悩みを打ち明け、はじめて「自分自身を受け止めてもらえた感覚」を得ます。

 Uさんは、その後、アルバイトに挑戦したり(アルバイトは週5回)簿記講座(検定試験満点合格)やヘルパー講座(ヘルパーに2級取得)に参加したりと、積極的に動きはじめ、「勇気を出して友だちをつくってみたい」と思うようになっていきます。私からの提案に積極的にかかわりはじめたのは「自分の悩みを聴き取ってくれた信頼できる大人からの提案なら、ちょっとは信用してもいいのではないか」とUさんは述懐します。

 Uさんが言われた「自分の悩みを聴き取ってくれた信頼できる大人からの提案なら、ちょっとは信用してもいいのではないか」という言葉は、非常に意味のある言葉だったと今振り返っても思います。信頼できる人からの提案を信用してやってみようかと思える関係をいかに支援者がつくっていけるか、ということがいつも私は問われているのだなあと思うのです。

 私はUさんの言葉のように人から言っていただける、そんな関係を切り結べるよう、日々取り組んでいるところです。


参考文献
・山田育男「『ひとりじゃない、就活講座』活動記録」『高校生活指導』

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かしの木元気プラン ~健康アドバイザーとしての役割~

2016-09-17 23:07:41 | 日記
 先日、私たちのグループホームではじめて防災訓練を開催したことをブログに掲載させていただきましたが、その防災訓練の進行役に私の友人であるKさんのことについて書かせていただきました。Kさんはかつて私がある法人に勤務していた時の同僚で、私が最も信頼してきた友人です。

 現在は精神障がい者が働く就労継続支援A型事業所に勤務されていますが、本来の姿は温熱療法や整体等を専門にする療術師です。Kさんによれば、これまで肩こりや腰痛等の慢性症状の方から、寝違えやギックリ腰のような急性症状の方、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症のような重症の方、自律神経失調症や美容で悩んでいる方を診てこられています。

 私たちのグループホームに健康アドバイザーとしてぜひKさんに来ていただきたいと思ったのは、Kさんとのかわわりを通して、入居者の方々の「こころとからだ」を楽にし、自分のパワーを発揮していただきたいという思いがあったからです。

 グループホームを開設する際、私たちが大切にしたいと思っていたことは、以下のことでした。

「障がい者の方々が大切にされる住まいと暮らしを守るため、グループホームの空間を快適にする必要があるとともに、障がい者の健康を第一に考え、手厚い人的援助だけでなく、人の精神に良い工夫を凝らし、「いやしのあるグループホーム」の運営を心掛けていきたいと思っています」

 そこで、当法人は「いやしのあるグループホームづくり」を心掛けるために、①相談しやすい環境、②アロマ等で香りのよい空間をつくる、③お身体のメンテナンス、④気持ちの落ち着く音楽を流す、⑤香りのある飲み物を用意する、など、様々な環境を整えていくことを考えています。

 グループホームで「香り」を大切にするのは、リラックスをしたり気分を切り替えたり集中力や作業効率を高めたりする効果があり、入居者の心を落ち着かせ、より充実した生活が送っていただくためです。現在、私たちのグループホームにはリビングや玄関等に「お香」を焚くことがあります。入居者の方々に少しでもリラックスや気分転換をしていただければと思い、はじめています。

 もちろん、「香り」だけではほんとうの意味での日々の疲れを癒すことはできないと考え、入居者の「お身体」のメンテナンスに力を入れはじめています。それは、日々の疲労を気に掛け、お身体をほぐすことが心身の解放につながると考えているからです。

 私たちのグループホームの「強み」の1つとして、入居者の「こころとからだ」を楽にしていただく取り組みを行っているところです。

 「こころとからだ」を楽にすることは、入居者が安心して生活できるポイントであると考えています。

 そこで、私の友人であるKさんに依頼し、「こころとからだ」をテーマにした「かしの木元気プラン」の取り組みをしていただいています。

 グループホームは入居者の日中活動を下支えする生活の土台をなしていますが、その「生活の土台」を構築するには、「こことからだ」のサポートなしでは困難です。また、そのテーマをグループホームのプログラムとして位置づけることは他のグループホームではあまり取り組んでいないと思います。私たち法人は、そうした従来のグループホームのあり方に疑問を強く感じてきました。したがって、私たちがグループホームをつくる場合、その点に重きを置いて取り組むことができないかと考えたわけです。

 友人のKさんは、私たちの構想に賛同してくださり、「かしの木元気プラン」と題したプログラムを作成してくださいました。

 かしの木元気プランの趣旨は以下の通りです。

「こころとからだと生活への統合的なアプローチによって、当事者の健康、安心感、活動力、創造性、勇気、精神的豊かさを取り戻していきます。
 また、自己受容を促すことにより、自己肯定感を高めながら自由な自己表現ができるように共に取り組んでいきます」

 かしの木元気プランの活動内容としては、①りらっくす運動、②ぽかぽかセラピー、③お料理、④レク・ものづくり・外出・地域ボランティア活動などの企画、などがあります。

 現在は①の「りらっくす運動」を中心に取り組んでいます。りらっくす運動は、「誰でもやさしく安全に行うことができる、体操と呼吸法のプログラム」です。「りらっくす運動」の目的は、①体のバランスを整える、②健康の維持と身体機能の向上、③心身のリフレッシュとリラクゼーション、④自己観察と自己受容、の4つです。

 第1回目の「りらっくす運動」では、入居者の方々が積極的に取り組んでいただいていました。Kさんのポイントとしては「気持ち良いところをわかるようになることが目標」「自分のからだを知る」ことでした。

 目的には「体のバランスを整える」「健康の維持と身体機能の向上」「自己観察と自己受容」というのが掲げられています。「体のバランスを整える」には、気持ち悪いところに着目するのではなく、「気持ちの良いこと」をすることが何より大切だとKさんは語ります。人は気持ちの良いことをし続ければ気分も良くなるし、自己肯定感も高まってきます。それと同じことですね。また、「今、自分の体の調子はどうなんだろう?」と考えることは、自分の体について冷静に観察することであり、自分の調子が悪いことをありのまま受け入れることこそ大切なことだとKさんは強調します。

 私はKさんの言われることは、生活するうえで非常に大切なことだと思いました。

 Kさんの取り組みは、7月からはじまっていますが、今後は私たちのグループホームの大切な位置づけとして取り組んでいきたいと考えています。
 将来的には、Kさんの取り組みをグループホームだけにとどめずに、地域に暮らす障がい当事者の方々等にも提供できる活動にしたいと考えています。

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はじめてのグループホームでの防災訓練

2016-09-11 10:56:31 | 日記
 2016年8月28日(日)の午前9時30分、私たちのグループホーム1階台所に集合していただき、入居者と一緒にはじめての「防災訓練」を行いました。本来は、小中一貫校・村山学園にて総合防災訓練に参加する予定でしたが、雨で中止となり、急きょ、私たちのグループホームで防災訓練を行うことになったのです。

 防災訓練の進行役は、私の友人で、私たちのグループホームの健康アドバイザーをしてくださっているKさんが担当しました。Kさんは私たちのグループホームの入居者パーティーや、入居者の誕生日会等に積極的に参加してくださっている、信頼できる私たち法人の応援団の1人です。
 また、Kさんは7月よりこころとからだと生活への統合的アプローチによって、当事者の健康、安心感、活動力、創造性、勇気、精神的豊かさを取り戻す取り組みを入居者に提供してくださっています。そのため、入居者の方々はKさんを心から受け入れているようで、Kさんの指示にしたがって、スムーズに防災訓練が進められました。
※急きょ、グループホームでの防災訓練となりましたが、Kさんはかつて精神障がい者の方々が暮らすグループホームで防災訓練のチーフをされていたこともあって、その経験を活かし、すぐに防災訓練内容を組み立ててくださいました。この場を借りて感謝申し上げます。

 防災訓練の目的は以下の通りです。
・助け合いながら団体で行動する。
・お互いの安全の確認と落ち着いて安全な行動がとれるようにする。
・「誰かがしてくれる」ではなく、各自が責任を持って、役割を行う。
・避難場所と避難場所までの経路を周知する。

 設定:グループホームでスタッフが昼食準備中。Jさんはスタッフと一緒に台所におり、Yさん、Oさん、Sさんは、2階の自室で待機。料理中に地震が発生、調理台に置いていた野菜の袋が転がり、火が燃え移ってしまう。

 当日の流れ
 9:30 グループホーム1階台所に集合。
 防災訓練の詳細を説明します。
①備品チェック ②避難場所 ③消火器の位置確認
10:00 訓練開始 
10:02 地震発生(振動時間、1分間)
    
【1階】台所で調理中。ガスコンロ使用。
① スタッフ火を消す。(すでに野菜の袋に火が燃え移っている)Jさんに机の下に身を隠すよう、声掛け。
② 揺れがおさまるまで、テーブル下に頭を入れて待つ。
③ スタッフJさんに、2階にいる方を呼んでくるように声掛け、同時に消火活動に入る。(すぐに鎮火)
④ Jさん揺れが収まったら、2階に上がり「Yさん、Oさん、Sさん大丈夫ですか?台所に降りてきてください」と大きな声で掛け。
⑤ 備品を取りに自室へ。部屋履きを履く。準備したら台所で待機。
   
【2階】Yさん、Oさん、Sさん
① 揺れがおさまるまで、頭を隠して待つ。
② 揺れがおさまり、Jさんの呼び声がかかったら大きな声で返答する。
③ 備品を持って玄関へ行き、1階のいる人が無事か確認する。
  ※揺れが収まるまで、決して外へ飛び出さないこと。

9:50
【合流】 
① お互いケガがないか確認し合う。
② スタッフ GH責任者へ連絡。全員無事であることと、これから市立第九小学校へ移動することを伝える。
③ 持ち物確認。  
     
10:00
【避難】 グループホーム→市立第九小学校まで
①スタッフ隊列を指示する。前方より、スタッフK、J、O、S、Yとし、縦1列に整列して移動。
②Yさん後方から隊列と安全確認を行う。隊列が乱れたり、車などが通る際は声掛けで知らせる。
※移動中、危ない所には近づかない。道が塞がれている場合は、違うルートで行く。
     
10:05
【避難先到着】
① Yさん点呼を行う。(人数はそろっているか?ケガはないか?)スタッフへ報告する。
② スタッフGH責任者へ全員の無事と避難先到着の旨を報告する。

10:10
【終了】全員一緒にグループホームへ戻る。

10:15
【振り返り】グループホームにて防災訓練の振り返りを行う。GH責任者も合流。


【入居者の感想】
Yさん:避難する際、右よし左よしと指先確認をすることで、周りの状況を見るのが安全の基本になる。周辺は集合住宅なので、瓦礫は少ないかもしれないが、ドアを開けるときも落下物などに気をつけないといけない。ドアを固定するものがあった方がよいのではないか?緊急時の1次避難場所以外の避難場所も確認したい。2階には避難はしごが必要ではないだろうか?できればAEDもあった方が良い。

Oさん:みなさんが言う通りだと思う。災害時の情報源は大事なので、ラジオがあると安心。

Sさん:小学校に行くまでの道が狭い。5,6人の人数で移動するのは問題なくても、実際の災害時にはいろんな人が避難していると思うので、そうした状況で訓練できると良いと思う。列に割り込んでくる人もいるかもしれないと思った。大勢の人にまぎれないように、集団行動をとることが大切。

Jさん:地震がおさまって2階の人に声をかけた時に、Sさんの声が分からなかった。返事は大きな声でしてもらわないと、大丈夫かどうかわからない。全員がちゃんと揃って一緒に避難できるように、任務を全うできた。

責任者、進行Kさんより・・・当初は地域の総合防災訓練参加予定であったが中止となり、いろいろな変更があった中での避難訓練であった。お互い協力し合いながら、集団で行動できたことが良かった。また、一人一人が振り返りの言葉を持っていた。指示がなかった点に関しても、自ら帽子を用意するなど、それぞれの入居者が、問題意識を持って考えて行動されていた。訓練は単発ではなく、定期的に何度も重ねることが実際の行動能力となると考える。返事が聞こえなかったということに関しては、返ってこなかったことを責めるばかりでなく、自分の声が届いていたか、相手にとって聴きとりやすい声であったか、相手が部屋の中で声が出せない状況ではないのかまで、配慮できることも必要であることを確認し合った。

 グループホームを開所してはじめての防災訓練でしたが、入居者全員が積極的に取り組みに参加されたことや、振り返りの時間では自分の意見を自分の言葉ではなされていたことがとても印象的で、「手応えありの防災訓練」となりました。

※ちなみに、防災訓練の実施要項や報告書は、進行役のKさんがまとめてくださいました。その資料をもとに文章をアレンジメントさせていただきました。

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ひとりじゃない、就活講座 ~「語らい」の大切さ~

2016-09-04 10:11:39 | 日記
 かつてひきこもりの支援をしていた頃、「ひとりじゃない、就活講座」というものをひきこもり状態にある若者たちと一緒につくりました。

 その講座に参加された若者たちは、「仕事の経験がない」「面接試験に行く勇気がない」「頭で考えすぎて一歩踏み出せない」「人前で緊張しやすい」「コミュニケーションが苦手」「就職活動に行き詰まっている」「履歴書の空白部分を面接官に説明できない」「自分が誰からも必要とされていない」「社会の役に立っていない」など、「自信のなさ」「不安」「怖さ」を抱え、「就労」へ一歩踏み出せないでいる人たちでした。

 就労の願いがあるにもかかわらず、若者たちは勇気を持って踏み出せません。若者たちが「社会と自分をつなぐ」道筋を描くことができないのは、「ありのままの自分」を受け止められつつ(承認欲求を満たされつつ)、「もう1人の自分」(「そんな自分を変えてみなよ」)を生み出すために共に学び、共に闘う他者と出会い直すなかで、若者たちが抱える「躓き」や「弱さ」とを共感し、お互いがつながり合える「居場所」がないからです。

 そう思っていた私は、その頃、定期的に面談に来られていた若者たちに声を掛け、「ひとりじゃない、就活講座」を結成します。

 「ひとりじゃない、就活講座」は「働きたいけど、働けない若者」が活動を通して出会った仲間(信頼できる他者)との関係性で「欲求する主体」を獲得し、若者たちが「就労へ向かった自治的集団」を組織し、「信頼できる他者」とともに「社会を制作する活動」に取り組んでいく活動でした。

 この活動を通して、ひきこもりの若者たちに教えていただいたことは、エンパワーメントの大切さでした。「脊髄損傷患者のための社会参加ガイドブック」の中で、エンパワーメントとは「人々が本来持っている生きる力や主体性を取り戻し、できる限り自立し、自分たちの問題を自分たちで解決していける力を高めていこうという考え方」であると書いています。また、エンパワーメントには、4つの次元があると言っています。

 1つめは「自己信頼」です。障がいを負ってしまった自分に再び自信を持ち、自分を信頼できる存在であると感じられるようになること。そのためには、自分の気持ちを受け止め、共感してもらい、わかってもらえたと感じることが大切だと言っています。
 2つめは「相互理解」です。同じような問題を抱えた人々との出会いや語らいの大切さです。問題を持っているのは自分だけではないことや、お互いに助け合えることを知ることになります。
 3つめは「権利の発見と主張」です。自分の置かれている状況と周囲の環境との関係や、社会、組織との関係を考え、そこで侵害されている自分の権利に気づきも主張すること。
 4つめは「社会への働きかけ」です。同じような権利侵害や差別を受けている人々の権利を守るために、仲間や考えを同じくする人々と協力して社会に働きかけることの大切さです。
 エンパワーメントは社会的弱者という立場から自分らしさを取り戻し、自分自身を解放し、人間回復をめざしていく考え方です。

 ひきこもり状態にあった若者たちは、まさに「ひとりじゃない、就活講座」でエンパワーメントを獲得したのだと思います。

 ひきこもり状態にある若者のほとんどが自信を失っています。その自信を取り戻す作業として「自己信頼」の次元がありますが、そのためには、「自分の気持ちを受け止め、共感してもらい、わかってもらえたと感じること」が大切でした。また、同じような問題を抱えた人々との出会いや語らいを通した「相互理解」の大切さです。「問題を持っているのは自分だけではないことや、お互いに助け合えることを知ること」によって、若者たちにパワーが生まれてきたのです。「ひとりじゃない」と思えるようになり、ひきこもり状態にあることによって侵害されている自分の権利について気がつきます。また、同じようにひきこもり状態に人たちと共に社会に働きかける力が生まれてきました。要するに、「ひとりじゃない、就活講座」に参加することを通して、自分らしさを取り戻していったのだと思います。

 この「ひとりじゃない、就活講座」では、若者たちが就活をするために必要な企画をつくっていくのですが、その中に「アルバイト体験談」や「現役女子大生における就職体験談」という企画がありました。体験者の「語り」を通して、「より良い生き方」(「こんな生き方があってもいいよね、こういう生き方もできるよね」)を仲間とともに語り直す取り組みでした。

 当時、私はここに「語り(ナラティヴ)」の可能性があると感じたことを覚えています。つまり、①自分の物語を語ることで、物語の再構成が可能となる(自己発見の場)、②自分の語った体験談を聴いてくれる相手がいる、③自分以外の視点が加わり、自分ひとりでは気づかなかったことに気がつく、④参加者の質問に応答することで「新たな発見」が生まれる、⑤自分の体験(過去)にも人を作用させられているという実感をもつ、などという教育的な効果ですね。

(もちろん、この取り組みが可能になったのは、「講座」内外で展開した若者たち同士の様々な「おしゃべり」や「対話」が頻繁に行われてきたからだと思います)

 若者たち自身が「孤立」と「自己責任イデオロギー」を乗り越えていくためには、若者たちが「当事者性」を意識し、若者たち自身が自分たちの活動を社会や大人に発信し、「働きたいけど、働けない」状況がたんなる「甘え」からくるものではないこと、就労のための準備として様々な活動に取り組んでいることを自分たちの言葉で伝え、訴えかけ、理解してもらわなければなりません。そうでなければ、若者たちが「社会や大人」から本当の意味での「受け入れられている感覚」を得ることができないと私は思っています。

 現在、私は福祉の現場で仕事をさせていただいていますが、現場で大切にしていることは、障がい当事者の声であり、語りです。エンパワーメントを獲得するためには、同じ境遇にいる者同士の語らいが非常に重要だと思っているのですが、福祉の現場ではそうした「語らい」の場が希薄であると感じており、私たちのグループホームでは障がい当事者同士の「語らい」ができる環境をつくることを意識しながら運営をしています。

参考文献
・山田育男「居場所を拠点とした世界づくりを地域社会に」『教育』(2010年12月号)
・山田育男「『ひとりじゃない、就活講座』活動記録」『高校生活指導』(2011年夏季号、189号)

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障がい者等の社会参加と雇用創出を ~誰もが『出番』のある社会の実現~

2016-09-03 21:49:31 | 日記
 十数年間、私は高校の教員を経験し、経済的に困窮した家庭で育ってきた生徒、不登校生徒、学業不振の問題を抱えた生徒、問題行動を起こす生徒等と積極的にかかわってきた後、ひきこもり状態にある若者や生活困窮者、障がいのある方の自立支援の仕事に携わってきました。

 私が今までかかわってきた方々は、安心と信頼に満ちた人間関係を築くことができないばかりか、心の拠り所すら見いだせず、生きづらさや働きにくさを抱えていました。また、社会関係・人間関係から排除され、自尊感情も傷つけられていました。社会的孤立は生きる力を失います。こうした人々が元気を取り戻していくには、人から大切にされる経験を持つこと、安心・安全な場所から人とつながり合える場を持つこと、自分が社会の役に立っているという充実感を持つことだと思うのです。

 私は武蔵村山市がそうしたまちであることを願ってやみません。

 武蔵村山市は「活力とみどりにあふれ 誰もがいきいき暮らすまち 武蔵村山」を目指していますが、まちに活力を与え、誰もがいきいきと暮らすには、「誰もが『出番』のあるまち」でなければならないと思います。

 老若男女、障がいのある人もない人も、分け隔てなく、お互い刺激し合い、共に価値を創造できるまちづくり(価値の共創)を目指すことが必要だと思うのです。

 市民一人ひとりが出番を持ち、人が大切にされる住まいと暮らしを守っていくために何ができるかを考えていかなければならないと思っています。

 そこで、今回、私が「社会的に不利な立場人々」の視点でまちを元気にさせる方法をどう考えているかを以下に整理したいと思っています。

 「武蔵村山市第三次障害者計画・第四次障害福祉計画(平成27年度~平成29年度)」では、身体・知的・精神障がい者の方の「仕事をする上で困っていること」の最も多い回答は「収入が少ない」という結果を出しています。精神障がい者の61.5%の方は収入に不安を持っています。「生活上での困りごとについて」では、3障がい共通で「就労の問題」を挙げています。生活上・仕事上でも障がいを持たれている方の「困りごと」は「就労の問題」にあることは深く受け止めなければならないことだと思います。その上位回答が「外出する機会や場所が限られている」です。武蔵村山市にかぎられることではありませんが、これは障がいの理解が深まっていないことの現れであり、そのことが障がい者における社会参加を閉ざしているといえるでしょう。障がい者を受け入れるまちや企業がないため、その結果として「困りごと」の上位に「就労の問題」が挙がっていると推測されます。これは全国的に共通する課題です。

 しかし、そのような中でも障がい者雇用のあり方も少しずつ変わりつつあります。それは、「障害者雇用促進法」による法定雇用率の義務化だけではありません。内閣府は「『新しい公共』を支える法人制度のあり方に関する調査」の中間報告を出しており、そこで滋賀県における「社会的事業所制度」について紹介しています。それに関連して大阪府箕面市の「社会的雇用モデル事業」、札幌市の「障害福祉サービス継続支援所」等、先駆的な取り組みも挙っています。

 「社会的事業所制度」は障がい者の経済的自立を確立するとともに、障がい者が納税者となり、社会的に自立するための支援を行うことを目的に創設されました。ここでは、一般就労では働きにくい方や、福祉的就労の対象者でしかなかった重度障がい者が労働者として働く機会を得られ、誰でも安心して働き続けられる「第3の就労の場」の創出が追求されています。また、「広義の社会的事業所」の考え方は、イタリアの社会的協同組合B型および韓国の社会的企業に学んでいるため、労働対象者は障がい者に限定していないところがユニークな視点です。障がい者だけでは労働生産性が上がらないので、現在では社会的に排除されやすい方々が働くことを目的として構想されています。そのため、ニート、ひきこもり、シングルマザー、性暴力被害者、外国人移住者および生活保護受給者等の方々が働く機会を得るようになっています。女性の雇用問題も解決する糸口にもなっています。安倍政権では女性が輝く社会を目指していますが、いまだ女性は貧困状態にあり、女性を含め、社会的に不利な立場にある方々の雇用を創出することは、武蔵村山市全体のあり方を示す大胆な提起であり、それは積極的なビジョンの発信にもつながっていくと思います。

 今まで高年齢者や障がい者等は福祉政策として位置づけられてきたケースがほとんどでしたが、積極的な労働政策として位置づけていく大胆な提起がこれからは必要となっています。またそれは、働く機会を奪われてきた当事者の方々にとっては社会に参加する「出番」を得ることにもつながり、「誰もがいきいき暮らすまち武蔵村山」をつくることになると考えます。

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