Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

愛の妙薬

2013年02月10日 | 音楽
 今回はドイツ旅行の記録を書くべきだが、新国立劇場の「愛の妙薬」を観て、これがひじょうによかったので、先にその感想を。

 なんといっても、ネモリーノを歌ったアントニーノ・シラグーザがすばらしい。以前よりも少し声が太くなった気がするが、ともかく相変わらずだ。ロッシーニやドニゼッティを歌ったら、今、世界でも指折りの歌手の一人だと思う。それにこの人には根っからの茶目っ気がある。それが舞台では楽しい。

 もう一人、感心したのは、指揮者のジュリアン・サレムクールだ。軽い音で、しかも痩せていない音、そして弾みのある音だ。オーケストラは東京交響楽団。先日の「タンホイザー」とはまるで別のオーケストラだ。外国に出かけてもベルカント・オペラでこれだけの音――あえていえば、これほど繊細な音――は、めったに聴けない。

 サレムクールは、その名はよく目にしていたが、聴くのは初めて。こんなにいい指揮者だったとは――。1969年生まれ、ダン・エッティンガーと同世代だ。ベルリン国立歌劇場(リンデン・オーパー)で「音楽総監督助手兼カペルマイスター」のポジションにある。音楽総監督とはバレンボイムのこと。バレンボイムの片腕なのだろう。

 以上の二人――シラグーザとサレムクール――は、この公演で、取り換えのきかない、絶対的な存在だった。

 もっとも、他の歌手が弱かったわけではない、むしろ高レベルだった――そのことが公演の水準を上げていた。アディーナを歌ったニコル・キャベルは第2幕最後のアリアで力量を発揮した。ドゥルカマーラのレナート・ジローラミは声も演技も十分。ベルコーレの成田博之は外人勢に交じっても立派な声。ジャンネッタの九嶋香奈枝も健闘した。

 そして、これは皆さんのいうとおりだが、合唱がすばらしい。たしかに、外国の合唱とくらべて、ソノリティのきめの細かさと透明感では、頭抜けている。

 このプロダクションは2010年の初演、今回は再演。わたしは初演のときも観たが、あのときは指揮者のテンポとリズムが重かった。今回初めてこのプロダクションの真価が現われたのではないだろうか。終始、途切れることなく、笑いが仕掛けられている。初演のときにはこの仕掛けが生きなかった。演出はチェーザレ・リエヴィ。演劇畑の人らしく細かな作りこみだ。明るくポップで、奇抜な舞台も楽しい。それも今回の演奏を得て初めて生きてきた。
(2013.2.9.新国立劇場)
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