Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

デューラー展

2010年11月08日 | 美術
 国立西洋美術館で開催されている「アルブレヒト・デューラー版画・素描展」。金曜日は夜間開館日なので、仕事の帰りに寄ってみた。ガラガラの館内だったので、ゆっくりみることができた。版画は小さくて、かつ細密なので、これは助かった。

 展示はデューラーが重要と考えていた主題である「宗教」「肖像」「自然」の3セクションで構成されていた。

 最初の「宗教」では、「聖母伝」、「大受難伝」、「小受難伝」(以上いずれも木版画)および「銅版画受難伝」の各連作が展示されていた。個々の作品も面白かったが、木版画と銅版画(この場合はエングレーヴィング)のちがいも、まざまざと感じられた。またバッハの「マタイ受難曲」や「ヨハネ受難曲」が、200年以上も前からのイエスの受難物語の連作という伝統に連なることもよくわかった。

 次の「肖像」はさらに面白かった。ザクセン選帝侯フリードリヒ賢明公のような要人の肖像もさることながら、デューラーの周囲にいた人文主義者たちの肖像が、当時の闊達な精神風土を伝えていた。同セクションの流れのなかに収められている風俗的な作品も面白かった――たとえば「頭蓋骨のある紋章」など――。

 ここまで意外に時間がかかったため、最後の「自然」は駆け足になってしまった。このセクションが本展の白眉だった。なかでも最後の最後に展示されている、いわゆる三大銅版画といわれる「騎士と死と悪魔」「書斎の聖ヒエロニムス」「メレンコリア」は、緊密な構図と繊細さ、あるいは陰影のグラデーションといった点で、ため息が出るようだった。さらにはそれらの3点に比肩すると思われる「アダムとイヴ」や怪異な「ネメシス(フォルトゥーナ〈大〉)」もみごたえ十分だった。

 さて、閉館時間の夜8時になったので、後ろ髪をひかれる思いで展示室を出た。出口の売店では図録を買うことができた。土日はその図録をみてすごした。たいへん面白かった。デューラーの版画は、細かく描き込まれたさまざまな形象の意味を知り、作品解釈の研究成果を学ぶことが必要なので、こういう図録は必携だ。まだ拾い読み程度だが、ずいぶん教えられた。

 本展はオーストラリアのメルボルン国立ヴィクトリア美術館のコレクションから多数出品されているが、上記の三大銅版画をはじめとする重要作は、ありがたいことに、国立西洋美術館の所蔵品だ。私たちは今後も、日本にいながらにして、デューラーの最高傑作にふれる機会があるわけだ。
(2010.11.5.国立西洋美術館)
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