Box of Days

~日々の雑念をつらつらと綴るもの也~ by MIYAI

Mist the Mind

2007年09月02日 | diary
 昨日、ポールの『Band on the Run』を聴いて、ポールの詩集『Blackbird Singing』をぱらぱらと読んでいた。そして、この人のあまりのタフさに思いを馳せ、改めて胸を突かれたりした。

 ビートルズ末期、4人の財産を守るためとはいえ、ポールは、これまで辛苦を共にしてきたメンバーを訴えた。このときポールは、ビートルズだけでなく、生涯の親友もいっぺんに失ったわけで、それがどれほどつらいことだったかは、想像に難くない。「人生で最悪の時期だった。僕は神経衰弱寸前で、いつ倒れてもおかしくない状態だった。なにもやる気になれず、髭もそらず、髪もぼさぼさで、起きればすぐにウイスキーに手をのばしていた」という。そんな状況でよく音楽をつづけられたなぁと思うのだけど、きっと音楽がポールを癒したのだろうし、なによりポール自身が心の強い人だったからだと思う。

 きっと、派手なことはしたくなかったんじゃないかな。はじめはひとりでスタートし、次にふたりになり、それからグループを組んで、バスに乗り込んでツアーに出た。マスコミはそんなポールのことを嘲笑したけれど、ファンはちゃんと理解して、ついていった。あれだけの才能をもった人が、これだけ地道に、一歩一歩を踏み締めるようにして、前にすすんでいったなんて、僕にはちょっと信じられない。でも、それができたのは、ポールの音楽への愛情が、とても純粋なものだったからだと思う。

 そして、名作『Band on the Run』に辿り着くわけでね。ビートルズ解散後、ポールは文字通り、なんの助けも借りず、音楽の力だけで周囲を黙らせたわけでね。結局、これがポール・マッカートニーのやり方なんだよなぁ、と思ったりする。

 2002年に来日したときのことを思い出す。チケットは余っていると言われていた。でも、初日が終わった後の、観客の高揚した顔を僕は忘れない。ネット上をかけめぐった絶賛の声を僕は忘れない。そして、最終公演までつづいた当日券売場の長蛇の列を、僕はけっして忘れない。蓋を開けてみれば、全公演フルハウスだった。ポールは、たった1回のライヴで、自分を取りまくすべてをきれい変えてみせた。1度観に来た人をリピートさせ、「もう声が出ない」と決めてかかってた人達をライヴ会場まで引っ張り出した。すべては、たった1回のライヴでだった。

 同時に、昔となにも変わってないんだなぁとも思った。ポールはずっとそんな厳しい道を歩いてきたんだなぁと。そう思うと、余計にリスペクトは強まった。そんな道をいつも笑顔で歩いてきたポールに、ただただ胸がいっぱいになった。

 どうすれば、こんなに強い心を持てるのだろう?少しでもこの人に近づけたら…と思う。

 「ミスト・ザ・マインド」は、詩集『Blackbird Singing』の中の一遍。とてもポールらしいユーモアと強さと切なさに溢れている。

 深い霧の雫で
 心を包み込め
 岩の上
 津波のように滑り、そして
 陽気な騒ぎに溺れて
 僕はひとりじゃないと言ってくれ

 カーペットを通して鼻歌
 下生えをつっつく
 ののしって叫ぶ
 ダニというダニに向かって
 夢を紡いでくれ
 僕を笑わせるために

 そして、ゲラゲラ笑いながら
 山を降りる
 高原の滝
 愛を探して