Box of Days

~日々の雑念をつらつらと綴るもの也~ by MIYAI

It's Hard to be a Saint in the City

2006年01月21日 | diary
 俺はレザーの肌をもっている
 まるでコブラのように精悍で硬質だ
 生まれたときの俺は青く老け込んでいたが
 超新星のように爆発したんだ
 俺はマーロン・ブランドのように太陽の中を歩き
 カサノバのように踊る
 ブラックジャックとジャケットを身につけ
 髪にはグリースを塗りつけて
 まるでさかりのついたハーレーダビッドソンのようだ
 通りを踊るように歩いていくと
 街の鼓動が聞こえてくる
 女達が一瞬ひるみながら、ささやく声が聞こえてくる
 「ねぇ、あの人素敵じゃない」
 街角に立つ足の悪い男が叫ぶ
 「ダンナ、5セントお恵みを」
 ダウンタウンのガソリン・スタンドで働く奴らは口さがない
 都会で聖者になるのはたいへんだ

 今も輝きを失わないストリートのファンタジー。ロマンティックな妄想が、鮮やかなイメージを伴い、言葉が次から次へと溢れ出す。ブルース・スプリングスティーン、22歳。まだ時間以外になにも持っていなかった頃の、心の記録でもある。

 スプリングスティーンの才能を認め、契約を交わしたのは、同じくボブ・ディランを発掘したことで知られるジョン・ハモンドだった。コロンビア・レコードにある1室でのこと。大袈裟な言葉で売り込みをするマネージャーのマイク・アペルにスプリングスティーンは言った。「マイク、もうやめてくれ。それより、俺にギターを弾かせてくれよ。俺に歌わせてくれないかな」。そして、スプリングスティーンは、この曲=“It's Hard to be a Saint in the City”を歌った。つまりはそういう事だし、そういう曲なのだと思う。

 「自分になにかできる力があるのはわかっていた」と、スプリングスティーンは言う。「音楽で伝えたいことがいっぱいあったし、ものすごく野心をもっていた」と。この曲には、そんな若きスプリングスティーン特有の吹き出すような熱がある。同時に、放射される無邪気なイマジネーションには、その裏返しとしての、自分の思い通りにいかないことに対するフラストレーションが見え隠れする。周囲で起きていたありとあらゆる出来事が、このとんでもない才能をもった若者の感覚を刺激し、彼の体温を上げていったであろうことが、この3分ちょっとの歌から強烈に伝わってくる。

 時間はくさるほどあった。でも、暇だったわけじゃない。22歳のブルース・スプリングスティーンには、やりたいことも、やるべきことも、十分すぎるほどあったんだと思う。