Box of Days

~日々の雑念をつらつらと綴るもの也~ by MIYAI

ハッピー&アーティがやって来た!

2006年11月07日 | diary
 ハッピー&アーティ・トラウムのライヴに行ってきた。横浜と下北沢で2回。で、今も余韻に浸ってたりする。

 そろそろ30歳になろうとしていた頃、僕は音楽ファンとして、いささか袋小路にはいりこんでいた。音楽は変わらず楽しいものだったけれど、なにを聴いても新鮮味に欠け、かつてのように心の中に深くはいってこない感覚があった。そんなもどかしい状態から抜け出すきっかけとなったのが、ハッピー&アーティ・トラウムの『Happy & Artie Traum』と、2人が中心となったマッド・エイカーズの『Music Among Friends』だった(あと、ジーン・パーソンズの 『Kindling』)。

 これらのレコードを初めて聴いたときのことは、今でも鮮明に思い出すことができる。まるで扉が大きく開かれたような気分だった。スピーカーから聴こえてきたのは、僕がそれまで聴いたことのなかった、穏やかで温かみのある、毎日の生活に根づいた音楽だった。ドラマティックな要素などひとつもなく、ただ、当たり前のように音楽がそこにある。うまく言えないのだけど、このとき僕は、「これで一生音楽を聴いて生きていけるぞ」と思えた。それほどに彼らの歌は、気安く、自然で、けっして飽きることのない必然性をもっていた。そして、このときの体験が、結果的に、その後の僕の音楽指向を決定付けることとなった。

 ハッピー&アーティの音楽を説明するとき、ハッピー自身がマッドエイカーズのライナーで書いている言葉を引用するのが一番ふさわしい気がする。「自分達のため、そしてそれを聴きたいと思う人達のため、例えばパーティなどで集まったとき、ただ楽しむだけのために演奏し歌うといった、そんな歌やインストゥルメンタルを収めたレコードを作りたいと思った」というもの。それは、コマーシャルな制約から開放された、本当の意味での自由で豊かな、本物の音楽のことを意味していたのだと思う。

 ハッピー&アーティのライヴが観れるなんて、想像すらしなかった。彼らはウッドストックで今も暮らし、豊かな自然に囲まれた環境で日常生活を送りながら、仲間と一緒に音楽をやっている。それだけで十分な気がしていた。

 でも、彼らはやってきた。昔と少しも変わらない笑顔と一緒に。2人がステージに出て来たとき、僕は胸がいっぱいになってしまった。だって、演奏する前から、あのハートウォームな音楽が聴こえてくるようだったから。そして、ライヴは僕の期待をはるかに上回る素晴らしいものだった。ハッピーとアーティは、それこそ、服を着たり、食事をしたり、話をしたりするのと同じことのように、ギターを弾き、歌を歌う。そこには大袈裟な気持ちなんてどこにも見当たらない。すべてがあまりに自然で、穏やかで、温かかった。

 『Happy & Artie Traum』のレコードを僕が差し出すと、2人はそれにサインをしてくれた。「このアルバムが僕の音楽人生を変えたんですよ」と伝えたかったけど、なんとなく照れくさくて言えなかった。でも、きっと伝わったんじゃないかな。そんな気がしている。