Box of Days

~日々の雑念をつらつらと綴るもの也~ by MIYAI

『Red Rose Speedway』

2003年12月15日 | old diary
 『Red Rose Speedway』を聴く朝である。

 ビートルズのメンバーで誰が好きか?とたまに訊かれる。僕はほんとに全員が好きなので、これにはとても答えられない。するとごくたまに「誰のソロが一番好き?」と訊ねられることがある。これまた4人とも好きなのできついのだが、この場合は「対外的回答」として「ポール」と答えるようにしている。

 理由は、ポールが一番頑張ってると思うから。他の3人がある時期を境にシーンから距離をおき、気がむいたときに新曲を出すというスタンスになっていったのに対して、ポールだけは走り続けた。1970年生まれの遅れてきたビートルズ・ファンである僕にしたら、それはなによりありがたいことだった。コンスタントなアルバムの発売、ヒット・チャートを賑わして常に話題を提供してくれたし、なにより3度も日本ツアーをしてくれた。ポールのおかげでたくさんの忘れられない想い出ができた。それらは僕の中で本当に特別な意味をもっている。それなのにポールを選ばないのはどうかな、と思うわけだ。

 そう答えると、今度は「どのアルバムが好き?」ということになる。「そんなもん決められるわきゃねーだろ」と思いつつも、気のいい僕はそんなこと言わない。ちゃんと「対外的回答」として、『Red Rose Speedway』と答えるようにしている。

 理由はポールのヴォーカル。よく聴くとすごくトンがってる。ビートルズ後期やウイングス全盛期の自信に溢れた時代も素晴らしいけど、『Wild Life』と『Red Rose Speedway』での、巨大な敵を向こうにまわしてひとり立ち向かっていくような歌声には身震いさえする。手立てもないままに、でも前に進んでいくしかないんだ、という強烈な決意。ここには上昇気流をつかもうと手を伸ばすポールがいる。そして、それらと背中合わせの孤独もまた宿しているのだ。張り上げた声はどこか脆く切なく、逆にバラードは不敵に響く。そのまだまとまり切らない八方破れな魅力は、『Ram』にも『Band on the Run』にもないこの時期だけのものだ。ポールは戦っていた。溢れる才能と音楽への愛情だけを武器に、まさに世界を黙らせようとしていた。これをかっこいいと呼ばずして、なにに感動すればいいと言うのか。

 ポールのソロ時代についてとやかく言う人がいたって僕は気にしない。「まぁ、そこに座ってこれでも聴けよ」と、「When the Night」をかけるだけである。