美術の旅人 Voyageur sur l'art  

「美術」との多様な出会い。見たこと、感じたこと、思ったこと。

北前船船主の町橋立に泊まった

2011-09-21 11:05:51 | レビュー/感想
日の出前の暗闇の中で目を覚ました。篠突く雨の音に混じってかすかに笛や太鼓の音が聞こえる。初めは幻聴かと思ったが、だんだん近づいて来て、音の輪郭がはっきりしてきた。もうこうなると寝てられない。傘をさして夜明け前の薄暗がりの中、外に飛び出した。音のする場所に着いて見ると、なんと獅子舞の集団であった。しかし、小さいときに正月に見慣れた赤い獅子と比べるとその図体のでかいこと。聳えたつカヤの先頭には、まるで狩野永徳の屏風絵から飛び出したような大きな獅子頭がゆれている。それを小学生と思しきシャンガン(白髪まじりのドレッドロックス連、モデルは源平合戦篠原の戦いで白髪を黒く染めて出陣し討ち死にした老武者斎藤実盛ではないか?)を冠った棒ふりが打ち据えているところだった。あたりがすっかり明るくなってやっとこれが橋立の町の一軒一軒を巡り歩いている、門付の集団であることが分かった。

「東北炎の作家復興支援プロジェクト」の第3ステージはここ加賀市内で始まった。東北の作家の逗留場所として奥様が北前船船主のご子孫という宮本氏から橋立の持ち家2棟をご提供いただいた。ご好意に感謝多々。九谷焼を始めとした加賀工芸の精華を育てた旦那衆の太っ腹な精神に触れたようで嬉しかった。私が泊まったのは、北前船船主の豪壮な屋敷が点在する歴史的景観保存地区の中にあって、宮本氏が老後の隠居宅として古民家を移築して建てた質素なしつらえだがこれまた趣きある家であった。台風の影響で雨脚が強くなる中、大伽藍が黒々と影を投げかける古寺の横、雑草に覆われた階段を懐中電灯の光を頼りにこの家に案内された。人が実際に居住し特有の習俗を持って昔ながらの暮らしを営む。その濃密な空気の中になんの予備知識なく投げ込まれる。こういう旅のかたちは昔から好きであった。

大聖寺のギャラリー萩での展示番を終えて、夕闇の中、橋立に戻った。途中、門付達の集団に再び出あった。早朝から一日中家々を回り舞い続けていたためであろう。その上に、振る舞い酒が重なってか、シャンガンに折伏される前から重い獅子頭を支える若衆はふらふらの態であった。

むざんやな 兜のしたの きりぎりす     松尾芭蕉

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