ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

彼が愛したケーキ職人

2018-12-01 13:15:30 | あ行

少女漫画みたいなタイトルだけど

実にチャレンジングなイスラエル映画。

 

「彼が愛したケーキ職人」72点★★★★

 

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ベルリンでカフェを営むケーキ職人のトーマス(ティム・カルクオフ)。

ある日、店にイスラエル人ビジネスマン、オーレン(ロイ・ミラー)がやってくる。

それから彼は出張のたびに店に立ち寄り

「妻と息子に」とクッキーを買って帰るようになる。

 

やがて二人は愛し合うようになった――。

 

だが、あるとき突然オーレンから連絡が途絶え、

トーマスは彼が亡くなったことを知る。

 

悲しみに打ちのめされるトーマスは

愛した人の面影を追って、イスラエルへ向かう。

 

そこでトーマスが出会ったのは

愛した人の妻(サラ・アドラー)と息子だった――。

 

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まるで少女漫画かと思うタイトルと題材ですが

37歳の若手イスラエル人監督による作品。

 

無名の新人監督ながら70以上の国際映画祭で上映され、数々の賞を受賞してる。

そして

「運命は踊る」(18年)の女優さんが出てます。

この人、シャルロット・ゲンズブール似で好みなんだよねー。

 

で、映画はというと

セオリー通りではあるんだけど、丁寧な描写が切なくて

ビター甘の味わいが、規定値以上。

 

タイトルからケーキ職人が死ぬのかと思ったら

イスラエル人の恋人のほうが亡くなるんですな。

 

ベルリンのケーキ職人が

出張で来てるイスラエル人ビジネスマンと出会い、恋に落ちる。

しかし彼氏が突然亡くなってしまい

で、

ケーキ職人は亡き恋人の影を追い、

たまらずイスラエルにやってくる。

 

そこで彼は、亡き恋人の奥さんと子どもに出会う。

ちょうど奥さんはカフェをやろうとしていたところで

ケーキ職人は身分を隠して、彼らを助けるようになる――という物語。

 

しかし

ケーキ職人を雇った彼女に義兄は

「よりによってドイツ人を雇うのか」とか言うし、

ホロコーストの影、うっとうしいほどの家族のつながり、

宗教規範や、威圧的な男性の態度など

さまざまなイスラエルの事情がにじむなかで

 

異国の地に、亡き人を追ってやってきた

ドイツ人青年の、孤独な身の上と、その心中いかばかりかと、

思わず感情移入してしまうわけです。

 

監督自身がゲイであり、

この物語も、実はモデルになった実際の話があるそう。

 

イスラエル社会で「本当の自分」として生きることが

いかに難しいことか。

痛みを知る人の手は、やはりやさしく、他者をあたためるのだなと。

 

それにしても制作に、苦労はなかったんだろうか。

残念ながら直接の取材は叶わなかったけど

監督に聞いてみたかったなー。

 

★12/1(土)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「彼が愛したケーキ職人」公式サイト


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