ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

精神0

2020-04-29 12:55:58 | さ行

ジーっと粘るカメラに様々を気付かされる。

 

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「精神0(ゼロ)」74点★★★★

 

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想田和弘監督、観察映画の第9弾。

「精神」(08年)から12年、

引退を決めた精神科医・山本昌知医師を追うドキュメンタリーです。

 

「精神」は

岡山にある精神科診療所「こらーる岡山」にカメラを向け、

そこに集まる患者さんたちの素顔を映し、

世界各国で絶賛された作品。

 

12年前といえば、「うつ」もいまほど認知されておらず

精神科=タブーの空気がまだまだ強かった時代。

でも、この映画に出てくる患者さんたちの姿は

フツーだったり、いやすごく魅力的だったりもして

「彼らと自分って、なにか違うのか?」と考えさせられたし、

身近な人の病気に向き合う際にも、すごく勇気づけられた。

 

で、今回はその「精神」で患者さんたちに数々の「金言」を授けていた

山本昌知先生が82歳でいよいよ引退する、

というところからスタートします。

 

最初は診療風景なんですが、

いや、カメラが追うものはやっぱりこれになるでしょう。

それは

診療所に隣合う自宅で暮らす

山本先生とその奥さん・芳子さんの日常です。

 

山本先生が台所に立って、お菓子の箱を開け、お茶の支度をする。

そんなごくフツーの動作をカメラはじーっとみつめる。

それだけでも、なんなんでしょうね、不思議なほど

見入ってしまうんですよ。

 

なんたって80オーバーの山本先生と奥様ですから

あぶなっかしかったり、ハラハラしたり

完全に、実家の老親を見ている気分(笑)

 

中学から一緒、高校の同級生だという二人のやりとりは

時の流れによる、ある残酷さも内包しつつも

ほほえましく、あたたかくて

思わず、頬がゆるんでしまう。

 

そして

些細なこと含め、さまざまを気付かせてくれるんです。

 

お茶を急須で入れるのは難儀で、

ペットボトルになって行くんだなあ、とか。

夫婦ってこういうバランスなんだなあ、とか。

 

ずっと仕事一筋だった山本先生を支えてきた

奥さんの知られざる苦労も明かになり

山本先生が奥さんに笑いかける表情に

悔恨の情がにじむ場面など、なんとも切ない(泣)

 

カメラはじーっと、より粘り強く、静かに。

映るのは「やがて消えていくかもしれない」もの。

 

想田作品のなかでは

「港町」(18年)に近い感覚を持ちました。

 

それにしても。

うちの両親も山本夫妻と同じく高校の同級生なんですよ。

 

しかも妻が優秀で夫は出来がイマイチだった(奥さん談。笑)ってのも

まるっきりうちの両親と一緒(笑)

で、映画を観たあと、やっぱり

実家に電話をかけたのでした。

 

AERA「いま観るシネマ」で想田監督に

インタビューさせていただいております!

「港町」のインタビューから2年。

作品に、監督自身に起こった変化についてもお話くださっております。

ぜひ、映画と併せてご一読いただければ!

 

この取材後すぐに

配給である東風さんとの「仮設の映画館」の構想を知り

「まさに、それがほしかった!」とコーフンしました(笑)

詳しくはHPをご参照ください。

 

★5/2から「仮設の映画館」で全国一斉配信。以降、東京シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「精神0」公式サイト


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