ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ウトヤ島、7月22日

2019-03-05 23:36:29 | あ行

マジでトラウマ映画。

でも、監督への取材と、もうひとつの映画で、その意味がわかった。

 

「ウトヤ島、7月22日」72点★★★★

 

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2011年、7月22日。

 

ノルウェーのウトヤ島に

サマーキャンプに集まった若者たちは

政治を語り、ナンパをし、思い思いに楽しんでいた。

 

しっかり者の姉カヤ(アンドレア・バーンツェン)も

反抗期の妹を気遣いつつ、キャンプを楽しんでいる。

 

そんなカヤのもとに

オスロでテロが起こったと親から電話が入る。

「ここは安全よ」――そう答えたカヤ。

 

だが、次の瞬間、

何かが爆発したような音に続き、大勢の若者たちが走ってきた。

 

「逃げろ!」――

わけもわからぬまま、建物の中に避難したカヤだったが――?!

 

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2011年、7月22日。

ノルウェーのオスロと、ウトヤ島で起きた連続テロ事件。

オスロで8人が、そしてウトヤ島で69人が犠牲になった大事件ですが

ワシも知らなかったし

日本ではそんなに報道されていないと思う。

 

そんな事件を

「おやすみなさいを言いたくて」(13年)、そして

「ヒトラーに屈しなかった国王」(16年)のエリック・ポッペ監督が、

映像化したものです。

 

ウトヤ島の事件に的を絞り、

実際に島で72分間続いた銃撃を、そのままに72分間ワンカットで描く、という

超・すごい映画で

 

正直、見た直後は「うーむむむ・・・・・・」と複雑な心境になった。

だって、かなりトラウマなんだもの。

それほどに、怖い。

 

ウトヤ島に集まっていた若者たちは

なにもわからないまま、狭い島の中を逃げ惑う。

観客も若者たちと一緒に

Tシャツ一枚で、その最中に置かれるんですね。

 

そのリアルさがあまりにもすごくて

(特に、とどろく銃声がめちゃくちゃ怖い!)

事件の凄惨さ、残酷さは確かなんだけど

この手法が、どういう意味になるんだろうと、首をひねってしまった。

本気でトラウマになりそうなんですよ。

手法のイメージとしては、ちょっと

「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」を想起させもするような。

 

しかし。

2つのことから

この映画の真の意味が明らかになり

見る意味と価値があることを認識し直しました。

 

まず一つめは

Netflix配信の、名匠ポール・グリーングラス監督による

「7月22日」という作品。

まさに同じ題材を描いているんですが

描き方がまったく違う。

 

 

こちらはウトヤ島での出来事は10分ほどで、その後は犯人が「なぜそれをしたのか」そして

生き残った若者の葛藤と闘いに焦点を当てているんですね。

これも見応えあるので、おすすめ、なのですが

たしかに「事件の心への焼き付け方」では

断然、本作に軍配があがる。

 

さらに「7月22日」のなかでも

犠牲者の遺族たちが、犯人との裁判に挑む弁護団に言うんです。

「(もう伝えられない、死んでしまった彼らに変わって)

あそこで何があったかを、伝えてほしい」と。

 

それを伝える、この映画の意味を改めて感じた。

 

そして二つめは

エリック・ポッペ監督へのインタビュー。

やはり生存者がみな「あの体験を、語りたい」と協力してくれたこと、

そして監督自身が戦場カメラマンでもある、という経験に

この映画が立脚しているとわかります。

(監督の体験を基にした「おやすみなさいを言いたくて」はおすすめ!)

 

インタビューはおなじみ「AERA」にて

3/11発売号に掲載される予定でございます。

 

ぜひ、映画を体験し、

その意味を感じ取っていただければと思います

 

★3/8(金)から全国で公開。

「ウトヤ島、7月22日」公式サイト


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