ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

象は静かに座っている

2019-11-01 20:39:07 | さ行

巨大にして、強烈な234分!

 

「象は静かに座っている」75点★★★★

 

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時代と共に炭鉱業が廃れた

中国の小さな田舎町。

 

青年チェン(チャン・ユー)は

親友の妻の部屋で目覚める。

が、そこに親友が戻ってくる。

そして親友はそのまま、窓から飛び降りた。

 

団地に暮らす老人ジン(リー・ツォンシー)は

同居する娘夫婦に、老人ホームに入れられそうになっている。

 

団地の高校生のブー(ポン・ユーチャン)は

学校一凶悪なシュアイに絡まれている。

 

ブーの同級生のリン(ワン・ユーウェン)は

トイレの水漏れと、散らかった部屋、

だらしのない母親にうんざりしている。

 

出口のない、ふさがった現実をさまよう、4人の運命が

あることから交差する――。

 

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タル・ベーラを師と仰ぎ、

本作完成後に29歳で命を絶ってしまった

フー・ボー監督のデビュー作にして遺作。

 

混沌と哀しみに満ちた世界をあまりにも鋭く、的確に捉えていて

静かなのに、強烈。

驚嘆の234分でした。

 

 

高層団地に暮らす少年、少女、老人。そして青年。

4人の運命があることから交差する話で

 

廃れ行く町、世界のなかで

少年も少女も未来を見いだせず、

大人も彼らに、なんの希望も示せない。

 

そんな世界を生きなければならない

彼らの、いや、我々誰もに通じる苦しみ、もがきを

師匠譲りの長回しや、ラフなようで精密に練られた構図で描いているんです。

 

例えば

手前の人物に浅くピントがあっていて

少し奥にいる人物の表情がまったく見えなかったりすると

実にもどかしく、不安な気分になる。

 

そんな感覚を観客と登場人物が共有することで

観客を物語の一部に引き込んでいく。

 

ラストへの収束も見事で、

この不機嫌ですさんだ世界に放たれた叫びが、

いつまで心にこだまするような感じ。

 

そしてこんなに才能ある監督もまた

こんな世界の絶望の淵に、ふと引きずられてしまったのだろうか?――と考えずにいられない。

残念でなりません。

 

 

本作はフー・ボー監督亡き後、

さまざまな映画祭でも絶賛されており、

タル・ベーラ監督はトロント映画祭で、この映画について取材を受けたそう。

「彼は両方の端から、彼というろうそくを燃やしていたのだ」

「彼をちゃんと守れなかったことに、責任を感じている」という言葉に涙が出てしまった。

 

発売中の『キネマ旬報』でタル・ベーラ監督にインタビューした際に、

フー・ボー監督との出会いなどについても伺いました。

ぜひ、映画と併せてご一読くださいませ。

そして、この映画がいつまでも、みなさんの心に残ることを願ってやみません。

 

★11/2(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「象は静かに座っている」公式サイト


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