英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

世界陸上② 長距離編Ⅰ

2009-09-07 18:01:11 | スポーツ
 短距離のスーパースターはボルト。短距離と言うより、陸上競技を代表する顔ですが、男子長距離のケネニサ・ベケレ(エチオピア)も、ボルトに引けを取らないスーパースターです。スーパースターというより「王者」と言った方がしっくりします。
 世界選手権、五輪、クロスカントリーと、彼の負けたシーンを私はほとんど見たことがありません。アテネ五輪の5000mで、エルゲルージ(モロッコ)に競り負けて銀メダルだった時ぐらいです。
 ベケレを破ったエルゲルージは1500mでも金メダルで、2冠に輝いています。この時点では、ベケレはまだ若手で、中長距離王のエルゲルージに挑んで、それをエルゲルージが退けたというのが正しい表現ですね。
 このアテネ五輪の1500mでは、バーナード・ラガト(当時はケニア、現アメリカ)が銀メダルでした。ラガトは07年の大阪世界陸上では1500m、5000mの2冠に輝いています。大阪大会のベケレは10000mで金メダルでしたが、5000mにはベケレは不出場、このレースの5位ベケレは弟。
 ベケレが若手と言っても、しっかり10000mでは金メダルで、“皇帝”ゲブレシラシエ(エチオピア)は5位におわり、長距離の世代交代を知らしめています。

 ベケレと言えば、驚異的なスピードのラストスパートが有名です。北京五輪の時は、ラスト400mを53秒で走りました。100m当たり13秒前半です。しかも、4000m過ぎから徐々にペースが上がっていってのラスト1周です。
 ベケレに勝つには、ベケレのラストスパート力を削ろうと、序盤中盤からハイペースに持ち込みます。日本選手はもちろん、並みのスピードランナーでは振り落とされます。それでも、ベケレは顔色を変えず追従し、例のラストスパートで最後の直線に入るまでに勝負を決してしまいます。


 さて、今大会の10000mは、ゼルセナイ・タデッセ(アテネ五輪10000mで銅メダル。大阪世界陸上10000mでは、前半から果敢にリードするも4位。北京五輪10000mは3位から1秒遅れの5位)が、4000mから先頭を引っ張り、ペースを一気に上げます。
 4000mまでは1000m当たり2分45秒から2分35秒、400m(1周)当たり67秒が62~63秒に上がりました。
 10000mの日本記録は27分35秒09、世界記録(ベケレ)は26分17秒53です。日本記録ペースで走っても、周回遅れになってしまうだけの差があるのです。世界記録は自然条件や体調が整い、初めから記録狙いで走らないと出ないので、五輪や世界選手権では、気温が高く、勝負本位になるので、27分の頭か27分を切るくらいが優勝タイムです。日本記録ペースで走れば10位前後になります。
 今回、4000mまでは日本記録ペースで、その後は世界記録ペースに上がったわけです。
 ちなみに、日本代表の岩井選手は2000m過ぎに、唐突に、1周だけ61秒と世界記録ペースより2秒も早くなるという揺さぶりに振り落とされました。(この1周だけ、女子の3段跳びに中継が切り替わったので、61秒というのは推定です)

 さて、5000m以降もタデッセは若干ペースダウンしますが、ハイペースで引っ張ります。5000~6000mは2分38秒、6000~7000mは2分39秒、7000~8000mは2分40秒。
 6000mで岩井選手は周回遅れになり、先頭集団は6人に絞られ、6400mで4人になりました。如何にタデッセがハイペースだったかが分かります。
 7600m過ぎて、ケニヤのミカコゴ(だと思う)も遅れ始め、ついに先頭集団は3人に。
 7600~8000mの1周は64秒4とややペースダウン。しかし、次の1周は62秒1とペースアップ。ここで、マサイ(ケニヤ)が遅れ出し、タデッセとゲブレの二人に絞られる。8000~9000mは2分35秒9とハイペース。
 その後もタデッセは62~63秒とペースを緩めず、ベケレを振り切ろうと力を振り絞る。しかし、ベケレは離れない。9500mで岩井選手は2周遅れとなる。
 残り1周の直前のホームストレートではベケレのホームは少しも乱れがない。これに対し、タデッセは喘ぐように走っている。残り1周の鐘が鳴る。その音を聞き、タデッセは一瞬、落胆の色を見せる。この時点で、ベケレを引き離せなかったということは負けに等しいのだ。
 それと同時に、ベケレがスパートして前に出る。タデッセも気を取り直して追うが、差は開く一方。残り150mで勝利を確信、ホームストレートでは勝利のポーズ。伝家の宝刀をふるうまでもない完勝だった。(最後の1周は56秒2)

 強い、まさに王者の走りでした。タイムは26分46秒31の大会新記録。2位のタデッセの走りも見事でした。
 世界陸上10000m4連覇で、ゲブレシラシエに並んだ。ちなみに、実況によると、ベケレは出場した11レースすべて勝っているとのこと。


 5000m。いつもは自ら先頭に立つことのないベケレが、序盤からレースを引っ張る。これには、理由があった。
 理由の一つは、バーナード・ラガトの存在。今大会の1500mは3位と敗れたが、ラガトのラストスパートの切れは侮れない。ペースを上げて、ラガトを消耗させる狙い。
 しかし、その割にはペースが上がらない。というか、スローペースだ。
 もうひとつの理由としては、自分でレースを作って、自分の思うペースで走りたかったということが考えられる。
 ハイペースの10000mを制し、5000mの予選を走り、暑さの中の3レース目。王者ベケレと言え、完調とは考えられない。他人のペースで走る余裕がないのかもしれない。

 4000m過ぎて、ベケレは徐々にペースを上げていく。しかし、思ったほどペースは上がらず、集団もほとんど崩れない。
 残り1周の鐘が鳴る。ペースが上がっているが、いつもの爆発的なスパートはまだ掛けない。いつもなら、鐘が鳴る少し前に掛けている。ストライドは大きいが、どこか重そうだ。
 残り250mになって、ようやくラストスパート。北京五輪銀メダリストのキプチョゲ(ケニヤ)が並走し、すぐ後ろからラガトがマークしている。
 残り150mでキプチョゲは後退するが、ラガトはピタリと追走。
 ホームストレートに入り、ラガトが並びかける。
 残り80mでピタリと肩を並べ競り合うように並走する。ベケレ、抜かれまいとラガトに体を寄せる。肩を突き合わせながら、競り合う。10センチほどラガトが前に出たように見えるが、ベケレも譲らず、並び返す。また、並走。残り35mでベケレが体の厚さ分、先行する。ラガト、力尽きたのか、ピッチが落ちる。勝負あった。1mベケレが先んじてゴール。

 すごいスパート合戦だった。相当危なかった。負けてしまうのではないかと思ったが、意志の強さの勝利のように思えた。
 ベケレは北京五輪の2冠に続いて、世界陸上でも2冠を達成!
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