決着がつく前に記事を書きあげようと思っていたのですが、もたもたしているうちに、里見女流名人が3連勝で防衛を果たしました。いずれの局も、清水女流六段にも勝味があり、惜敗と言っていい内容でした。それゆえ、却って、里見女流名人の強さを感じたシリーズでした。
今回の女流名人位戦で、私が取り上げたい局面は二つ(第3局を含めると三つ)。奇しくも二つとも『週刊将棋』で取り上げられた局面だった。
特に感じることが多かったのは、第二局の2手目▲6八玉(第1図)。
この手は「ゴキゲン中飛車はずし」の手である。ところが、里見女流名人は構わず△5四歩(第2図)とゴキゲン中飛車を宣言。
では、まず簡単に▲6八玉の意味を。
この手に対し、ゴキゲン中飛車を目指すなら△5四歩と突く。この時、▲2二角成△同銀▲5三角と角交換から角を打ち込み馬を作ることが出来る。△4二角(A図)と角を合わせても
2六に成り返ることが出来る。
これが3手目、通常の▲2六歩だと同じように進んだ時(B図)、
2六に歩がいるので、成り返ることが出来ない。これが、ゴキゲン中飛車が後手番の戦法と言われる所以で、先手番で同じようにゴキゲン中飛車を目指すと、△8四歩と突いていない形なので、馬作りが成功してしまう。
3手目▲6八玉(第1図)はゴキゲン中飛車を拒否した手なのである。
ただ、この▲6八玉は形を決めてしまうという欠点があるので、△8四歩と居飛車で来られた時にはやや損になる一面もある。よって▲6八玉はゴキゲン中飛車の使い手の振り飛車党にだけ有効な手だと言える。
この▲6八玉については、『将棋世界2月号』の「新・イメージと読みの将棋観」のテーマとして取り上げられている。
各棋士の回答が、将棋観が垣間見られて面白かった。要約すると、
★渡辺竜王
△8四歩と突かれたら先手の利はなくなるが、振り飛車党(居飛車を指さない)には積極的に採用すべき
★佐藤九段
居飛車で来られると少し損(作戦の幅が狭くなる)なので、採用したことはない(指そうと思ったことは何度もある)
★森内九段
居飛車で来られると少し損(▲6八玉が緩手になる恐れがある)なので、指さない
★谷川九段
居飛車で来られると苦労するはず。実戦的には有効だが、相手を見ながら指し手を変えるというのはどうか?リスクのある手なので3手目に▲2六歩と突いてゴキゲン中飛車対策を考えた方がよい
★久保二冠
本筋ではないが、対振り飛車党限定の一手として成立している。実際やられた経験はあるが怖い手ではない(△8四歩、△9四歩、△4四歩、△4二飛など多種の作戦を取り7勝2敗)
★広瀬王位
先手が損なので先手番ではこの手は指さない。後手番ならありがたい(△8四歩と突く)
この手の評価はともかく、ゴキゲン中飛車封じには有効とされていたが、何とそれを否定するかのように、里見女流名人は△5四歩(第2図)と指したのだ。
実は、この『将棋世界』の取材の後(と思われる)、2010年12月16日、A級順位戦三浦-久保戦で三浦八段の▲6八玉に対して、久保二冠は△5四歩と突いている。
△5四歩以下、▲2二角成△同銀▲5三角△3三角▲6六歩△同角▲7七桂△4二金▲2六角成△7四歩(参考図)と進んでいる。
三浦八段の▲6六歩は歩を捨てることによって6七への金の進出を可能にして7七桂の桂頭攻めへの緩和を図った手だが、単に▲7七桂と受ける手も有力で、これにも後手は桂頭を攻め、先手は8六に角を成り返る展開になるらしい。
ゴキゲン中飛車の使い手の里見女流名人はゴキゲン中飛車はずしの▲6八玉対策も研究しているはずで、当然、三浦-久保戦も知っていたと考えられる。8分の考慮での着手だった。
今回の女流名人位戦で、私が取り上げたい局面は二つ(第3局を含めると三つ)。奇しくも二つとも『週刊将棋』で取り上げられた局面だった。
特に感じることが多かったのは、第二局の2手目▲6八玉(第1図)。
この手は「ゴキゲン中飛車はずし」の手である。ところが、里見女流名人は構わず△5四歩(第2図)とゴキゲン中飛車を宣言。
では、まず簡単に▲6八玉の意味を。
この手に対し、ゴキゲン中飛車を目指すなら△5四歩と突く。この時、▲2二角成△同銀▲5三角と角交換から角を打ち込み馬を作ることが出来る。△4二角(A図)と角を合わせても
2六に成り返ることが出来る。
これが3手目、通常の▲2六歩だと同じように進んだ時(B図)、
2六に歩がいるので、成り返ることが出来ない。これが、ゴキゲン中飛車が後手番の戦法と言われる所以で、先手番で同じようにゴキゲン中飛車を目指すと、△8四歩と突いていない形なので、馬作りが成功してしまう。
3手目▲6八玉(第1図)はゴキゲン中飛車を拒否した手なのである。
ただ、この▲6八玉は形を決めてしまうという欠点があるので、△8四歩と居飛車で来られた時にはやや損になる一面もある。よって▲6八玉はゴキゲン中飛車の使い手の振り飛車党にだけ有効な手だと言える。
この▲6八玉については、『将棋世界2月号』の「新・イメージと読みの将棋観」のテーマとして取り上げられている。
各棋士の回答が、将棋観が垣間見られて面白かった。要約すると、
★渡辺竜王
△8四歩と突かれたら先手の利はなくなるが、振り飛車党(居飛車を指さない)には積極的に採用すべき
★佐藤九段
居飛車で来られると少し損(作戦の幅が狭くなる)なので、採用したことはない(指そうと思ったことは何度もある)
★森内九段
居飛車で来られると少し損(▲6八玉が緩手になる恐れがある)なので、指さない
★谷川九段
居飛車で来られると苦労するはず。実戦的には有効だが、相手を見ながら指し手を変えるというのはどうか?リスクのある手なので3手目に▲2六歩と突いてゴキゲン中飛車対策を考えた方がよい
★久保二冠
本筋ではないが、対振り飛車党限定の一手として成立している。実際やられた経験はあるが怖い手ではない(△8四歩、△9四歩、△4四歩、△4二飛など多種の作戦を取り7勝2敗)
★広瀬王位
先手が損なので先手番ではこの手は指さない。後手番ならありがたい(△8四歩と突く)
この手の評価はともかく、ゴキゲン中飛車封じには有効とされていたが、何とそれを否定するかのように、里見女流名人は△5四歩(第2図)と指したのだ。
実は、この『将棋世界』の取材の後(と思われる)、2010年12月16日、A級順位戦三浦-久保戦で三浦八段の▲6八玉に対して、久保二冠は△5四歩と突いている。
△5四歩以下、▲2二角成△同銀▲5三角△3三角▲6六歩△同角▲7七桂△4二金▲2六角成△7四歩(参考図)と進んでいる。
三浦八段の▲6六歩は歩を捨てることによって6七への金の進出を可能にして7七桂の桂頭攻めへの緩和を図った手だが、単に▲7七桂と受ける手も有力で、これにも後手は桂頭を攻め、先手は8六に角を成り返る展開になるらしい。
ゴキゲン中飛車の使い手の里見女流名人はゴキゲン中飛車はずしの▲6八玉対策も研究しているはずで、当然、三浦-久保戦も知っていたと考えられる。8分の考慮での着手だった。