Manaboo 電子政府・電子申請コラム 

電子政府コンサルタントの牟田学が、電子政府・電子申請、その他もろもろ、気まぐれにコメントしてます。

社会保障・税に関わる番号制度の選択肢(4)、求められるグローバル社会への対応と国民の自立

2010年07月10日 | 電子政府
社会保障・税に関わる番号制度の選択肢(3)、費用は確実だが効果は活用次第の続きです。

今回は、最終回として「番号制度が必要な理由」を考えてみたいと思います。

「番号制度が必要な理由」について、例えばこんなことが言われます。

給付付き税額控除」を導入するには、所得の正確な把握のために納税者番号(個人識別番号)が不可欠である。

この主張は、正しいような気もしますが、実際にはちょっと違うなあと思います。

例えば、児童手当には所得制限があり、申請者の所得や社会保険(加入年金)の種類によって、支給される金額が変わります。

児童手当の窓口である自治体(市町村)は、通常は住民の所得を把握している(課税・納税データを持っている)ので、児童手当の申請があれば、申請者のデータをチェックして支給する金額を計算することができます。

こうしたデータのチェックは、申請者の「氏名」や「住所」などを使い、いわゆる「名寄せ」や「照合(マッチング)」といった作業によって行われます。

また、住民には住基ネット等で利用されている「住民票コード」の他にも、様々な番号が付与されており、すでに番号制度は導入されているとも言えます。

こうして見ると、既に「住民票コード」があるし、所得に応じた給付サービスも問題なく行われているのだから、新たに納税者番号や社会保障番号など作らなくてもいいんじゃないの?という気もします。

年金記録の正確な管理もワンストップサービスも同様で、新たに納税者番号や社会保障番号など作らなくても実現可能です。いずれも、番号制度導入の理由としては、ちょっと弱いように思うのですね。


●求められるグローバル社会への対応と国民の自立

以前、電子政府におけるクラウドと共通番号制度、その背景「縦割りの解消」を理解しようで次のように述べました。

「クラウド」と「税と社会保障の共通番号(国民ID)」も、「縦割りの解消」の流れにあるツール(手法)です。ですから、「縦割りの解消」を目指して「クラウド」や「税と社会保障の共通番号」を使う場合、有効に機能してくれます。しかし、「縦割りの維持」や「過度の囲い込み」のために利用する「クラウド」や「税と社会保障の共通番号」は、上手く機能しないだけでなく逆効果となるでしょう。


作者は、「共通番号(国民ID)の活用」は、日本や日本人が、インターネットで加速するグローバル社会やネットワーク社会に対応するための必要なステップだと理解しています。

前回のブログでも紹介させていただいた富士通総研の榎並氏は、「共通番号の基本的考え方」を次のように書かれています。

『共通番号とは、デジタル社会における国民と国家の間における「義務と権利」を明確化する社会契約の番号である。国民は国家に対して納税や法令遵守等の義務を負うとともに、国家によって基本的人権や生命・生活を保障される権利を有する。このような社会契約を締結した証として、各人に交付されるものと位置づけるべきである。』

社会契約に限らず、欧米人と比較すると、日本人は「契約」に対して無知であり無防備と言えるでしょう。お互いに顔見知りで信頼関係がある間柄であれば、面倒でコストのかかる「契約」などは必要ないので、「契約」に対して無知であっても問題ありません。

ところが、グローバル社会やネットワーク社会では、国も言葉も違う人たちが、コンピュータやインターネットを使ってやり取りをします。そこでは、「英語」といった共通言語が有効だったり、相手方や取引物等を確認するための「識別」が重要になり、契約等による「明確化や明文化」が必要になります。「なあなあの関係」や「つーかーの関係」などは、トラブルのもとになります。

現在でも、役所や企業において大量の情報がコンピュータ処理され、情報通信ネットワーク上で流通しています。この傾向は変わることなく、ますます加速していくでしょう。

そうした時代に、読み方も好きなように変更でき、外字といった不規則な形まで認める漢字を基礎として処理していくやり方は、まさに「なあなあの関係」であって、トラブルの原因になるばかりです。

何の根拠も無いまま、「政府に任せておけば安心」とか「政府だから年金記録を適切に管理している」といった思考も危険です。


残念ながら、グローバル社会やネットワーク社会を、日本が否定することはできません。

財政的にも厳しくなった日本では、「政府まかせ」や「政府だのみ」で国民が政府に泣きつくこともできません。

必要なのは、グローバル社会やネットワーク社会と向き合い理解して、その流れに上手く乗れる能力を身に付けることであり、国民自身が自立することです。

国民自身が自立して、政府をしっかり監視する能力があれば、「共通番号(国民ID)」を恐れることはないでしょう。最大限に活用し、その効果や利益を享受できるでしょう。

グローバル社会なんか対応できない、したくない。インターネットは怖いから使いたくない。生身の人間をコンピュータで識別したり処理するなんて許せない。そんな人たちは、「共通番号(国民ID)」を受け入れてくれないでしょう。

しかし、「共通番号(国民ID)」ごときでうろたえている人が日本人の大多数を占めるとしたら、日本はこれまで以上にグローバル社会への対応に遅れてしまうでしょう。国内の経済格差を騒いでいる間に、気がついたら海外との格差が広がっていた。。。なんてことになるでしょう。

そうした視点で考えると、日本において「共通番号(国民ID)」がどのように受け入れられて(または拒絶されて)、どのように活用されていくのか非常に興味深いところです


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