アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

越前竹人形

2011-08-09 10:12:15 | 映画
『越前竹人形』 吉村公三郎監督   ☆☆☆☆★

 美しいDVDパッケージに惹かれて購入。モノクロ映画である。山の中の寒村が舞台。夫婦愛の話かと思ったら、かなり残酷なおとぎ話だった。音楽など、ところどころホラー調といっていいくらいだ。DVDにポスターが同梱されているが、そこに「異常な純愛」というキャッチフレーズが書かれている。「異常な純愛」ってなんだべ? と思ったら、確かに異常だった。

 竹細工で有名なある寒村。名人と呼ばれる竹細工師が死に、息子が跡を継ぐことになった。ある雪の日、美しい女がやってきて、自分はあなたのお父様に世話になったものだ、どうか墓参りをさせて欲しい、と言う。女は墓参りだけして帰っていく。しかし息子は女のことが忘れられず、探し出して会いに行く。女は父親のなじみの色町の女だった。息子は女に、自分と一緒に住んでくれと頼む。女はそれを受け、二人の生活が始まる。息子は父親を超える竹細工師になろうと励み、見事な竹人形を作り出す。一方で、彼は女に指一本触れようとしない。自分を愛していないのかとたずねる彼女に、そんなことはない、自分は一緒に生活できるだけで幸福なのだ、だからしばらく時間をくれ、と答える。なんとなく割り切れない気持ちのまま、時がたつのを待つ女。そんなある日、亭主の留守中に客人がやってくるが、それは色町にいた頃、彼女を抱いたことのある客だった…。

 とにかく、格調高いモノクロ画面で若尾文子の美貌を堪能できる。お美しい。とくに着物姿が本当にきれい。最近の、髪を染めてて手足が細長い欧米化した体型の女優とは違う、日本的な気品溢れる美貌である。それから小さな寒村の竹細工師の家、という閉ざされた空間がいい。まわりを囲むは竹林。何か、人間界を超越したものが降りてくる感じがする。神の存在を感じる。

 それにしてもこの夫はいかんなあ。こんな美人にこんな辺鄙なところまで来て貰いながら、指一本触れようとしないとは。もったいないお化けが出るぞまったく。結婚する資格なし。おまけに、そうやって放置しておきながらストレスで勝手におかしくなってくるし。妻が水浴びしているのをこっそり覗いたりする。分からんなあ。

 まあこの夫は途中で改心するが、その後の悲劇の責任は基本的にすべてこの夫にある。彼が最初から夫らしくしていたらあんなことにはならなかったのである。

 後半、若尾文子はどんどん辛くなってくる。白い着物を着て京都をさまよう場面はまるで美しい亡者のよう。そしてだんだん怖くなってくる。別にホラー的な事件が起きるわけじゃないが、見せ方や音楽がホラー風味なのである。水の中に広がる髪の毛とか。最後の方に中村鴈治郎がちょっとだけ出てくるが、なんだか妙に太っている。いやにチョイ役だなと思っていると、結果的にものすごいインパクトを残して去る。何なんだあのおっちゃんは。すべてを見通したような、超越者的な存在感がある。

 全体に、自然がうまく象徴的に機能している映画だ。山、竹林、雪、川など。それに、ちょっとしたカットで真実をほのめかすのがうまい。たとえば若尾文子が西村晃に言い寄られる場面や、中村玉緒が喜助を説得するために嘘をつく場面などがそうだ。あからさまな表現ではなくほのめかしなので、物語の含蓄が増す。それからモノクロ映像の美しさは、さすが宮川一夫である。

 その一方で、前半の人情話的なリアリズムと、後半の、ちょっと超現実的なトーンが今ひとつアンバランスで、かみ合っていない印象を受けた。最後も唐突で、あまりに殺伐とし過ぎのように感じる。ハッピーエンドにしろとは言わないが、もうちょっと余韻を残すような、ふくよかな終わり方をしてくれれば更に良かったと思う。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿