アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

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震度0

2008-08-18 23:50:36 | 
『震度0』 横山秀夫   ☆☆☆

 横山秀夫の文庫が出ていたので購入。面白さとしてはまあまあレベルかな。飽かずに読めるがさほどの感銘はなく、ミステリとしてはシャープさに欠ける。本書の読みどころはひたすらN県警内部のパワーゲーム、これに尽きる。が、パワーゲームといってもスケールは小さい。

 震災は単なる背景でしかない。震災の朝、真面目で信望篤かった警務課長・不破が失踪する。こりゃえらいことになった、と本部長はじめ幹部6人が額を集めて対策会議を開く。と同時に、お互いに協力しあう気など微塵もない6人のパワーゲームが幕を開ける。まず、警務課長の失踪はことによっては大スキャンダルであり、N県警を揺るがす事態になるかも知れない。キャリアの本部長と警務部長にとっては大打撃、他のみんなも火の粉をかぶることになる。そこへ持ってきて本部長は不破に内々に頼んでいた秘密があり、なんとしてもこれを明るみに出したくない。刑事部長は内定している天下り先がなくなる心配、交通部長は同期内競争の逆転のチャンスとばかりに形勢を伺う。ほぼ全員が入手した情報を隠し、保身のために利用しようとする。会議では鉄面皮でシラを切るか、「生意気いうな」「怠慢だ」「隠蔽しやがって」など罵詈雑言の嵐、主導権の奪い合い。いやーひどい。唯一まともなのは準キャリの警備部長・堀川ぐらいだ。彼だけはまじめに震災を心配し、大義のために動こうとするが、彼の影は薄い。

 この腐敗したパワーゲームの趨勢を愉しむのが本書の醍醐味であって、それ以外にはない。おかしいのは、幹部夫人たちの中にまで駆け引きがあること。みんなキャリアの警務部長夫人のご機嫌を取ろうとして神経をすり減らし、他の夫人に自分の方が「上」であることを示そうと躍起になる。いやまったくご苦労さんという他ないが、世の中にはこういうことに血道を上げている人たちが本当にいるのだろうか。いるのだろうな。

 不破の失踪の真相は最後に明らかになるが、真相そのものもそれが解明される経緯も、わりとつまらない。それよりもやっぱり幹部達のそれに対するリアクションの腐敗っぷりが眼目のようだ。かたや震災で何千人という人々が死んでいるのに、N県警幹部連中は保身と出世のことしか頭にない。そこに強烈なアイロニーが生まれる。

 しかし幹部の一人、生活安全部長の倉本は一体何なんだろう。こいつだけはパワーゲームに参加しない。参加せずに、もっとヘンなことをやるのである。最初は無口で男前というから渋いキャラかと思ったら、一番のアホだった。
 

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