アブソリュート・エゴ・レビュー

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孤狼の血

2018-12-28 23:22:52 | 映画
『孤狼の血』 白石和彌監督   ☆☆☆☆

 日本版ブルーレイを入手して鑑賞。いやー濃い映画だ。昭和っぽい猥雑さがムンムン立ち込めている。でも面白かった。『日本で一番悪い奴ら』と雰囲気も内容もよく似てると思ったら、同じ監督だった。この猥雑さ、ギラギラした感じ、昭和の匂いなどが共通している。

 要するに二つの暴力団と警察が三つ巴になって仁義なき戦いを繰り広げる、一大抗争のお話である。昔のヤクザ映画の系譜を蘇らせたと評判のようだが、私は高倉健さんや松方弘樹が出ていた昔のヤクザ映画を観たことがないので、比較検討はできない。似たジャンルで思い浮かぶのは、北野監督の「アウトレイジ」シリーズぐらいだ。まあ表面的には似ていて、この映画の推薦コメントでも古舘伊知郎の「『アウトレイジ』に対する東映の答え」というのがあって、なるほどそういう位置づけか、と思ったりもした。

 ただし、言うまでもないが、本作と『アウトレイジ』は似て異なるものだ。ヤクザという題材は共有でも、同ジャンルの映画というのもはばかれるほどに違う。『アウトレイジ』はやはり北野監督独特の感性に貫かれた映画で、ドライで、空虚で、徹底してアイロニックだが、この『孤狼の血』はウェットで、情緒的で、粘着的である。要するに、北野監督の映画が過去の日本映画から脱却したモダニズムであり、そのための異質感を常に漂わせているとしたら、本作は従来の日本映画の伝統の中にある。この映画の持ち味である昭和っぽさというのは、そういうことでもあるはずだ。

 さて、話はまあ簡単にいうと悪徳刑事・大上(役所広司)と新人刑事・日岡(松坂桃李)のコンビが、広島県の架空の町・呉原市を舞台に、ある経理マンの失踪事件を機にシマ争いを激化させる加古村組と尾谷組の抗争に巻き込まれていく、というか、進んで首を突っ込んでいく、というものである。基本的に物語は日岡刑事視点で描かれるので、まずは悪徳刑事・大上のとんでもなさがクローズアップされる。取り調べ室で女性の関係者をいきなりヤッてしまったり、パチンコ屋で日岡をけしかけてヤクザにケンカを売らせたりする。しまいには放火までする。こんなところは『日本で一番悪い奴ら』の延長線上みたいで、観客は「ひでえなこりゃ」と思いながら観ていくことになるが、『日本で一番悪い奴ら』と違って、実は大上刑事は無茶はするが人情味豊かなイイ刑事だった、という方向に展開していく。まあ、パターンですね。

 私は予告編を見て、「警察は何やったってええんじゃ」という役所広司のセリフですっかり本物の悪徳刑事なんだと思っていたので、これにはちょっと拍子抜けした。完全なピカレスクものだと思っていたのである。だから容赦ない三つ巴の悪の迫力、という点ではちょっとトーンダウンを感じたが、その代わりに勧善懲悪のテイストが導入され、より安心して楽しめる娯楽映画になった。

 そんな中でもストーリーはかなり緩急巧みで、松坂桃李の新人刑事も、ただのおぼこい新人かと思っていたらそうではなかった、という意外なウラが用意されているし、終盤では思わぬ変貌を遂げて物語を牽引する。物語の転がし方は練られていて、小気味よい。原作がいいのかも知れない。当然ながら全篇バイオレンスで彩られているが、クライマックスでは特に強力なバイオレンス・シーンが用意されていて、盛り上がる。それまで抑えに抑えていた江口洋介の見せ場である。

 バイオレンスに加えて少々グロい描写もあるが、それがこの映画のえげつないまでの迫力を支えている、とも言える。いきなり冒頭で、ヤクザたちがリンチしている相手に豚の糞を喰わせる描写がある。実に汚い。それをちゃんと見せてくれるのがこの監督のサービス精神なのだろうが、個人的にはそんなの別に見せてくれなくてもいい。それから、大上が刃物を使ってヤクザのあそこに入れている真珠を取り出すシーン。ここでも「うわ、ここまで」というぐらいギリギリまで見せてくれる。まあこういうグロ描写も、この映画の中ではいいスパイスになっていると思いますよ、多分。

 では、もう一方のエロスはどうか。『日本で一番悪い奴ら』もかなりエロかったし、真木よう子も出ているしで、そっち方面も少々期待してしまったが、そういうのはほとんどありませんでした。真木よう子さんは『ゆれる』ではメッチャ思い切りよく脱いでいらっしゃったが、最近はビッグになったので、もうそういうのはやらなくなったのでしょうか。

 役者は石橋蓮司とかピエール瀧とか中村獅童とか、『日本で一番悪い奴ら』や『アウトレイジ』シリーズと似たようなメンツが出てくるので、既視感もあるが、その一方で竹野内豊や江口洋介がヤクザというのは新鮮で面白かった。主演の役所広司は、本当に手堅い役者さんだなあとつくづく思う。好人物をやらせてもうまいし、こんなドロドロの役をやらせてもキッチリかんどころを押さえてくる。もはや日本映画界において、「この人出しとけば間違いない」的存在になっている。日岡役の松坂桃李もなかなか良かった。前半は新人刑事らしい初々しさと色気があり、終盤には大きく変貌してストーリーを盛り上げていく。

 かなり楽しめたので、ちょっと昔のヤクザ映画も見てみようかな、という気になっている。


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