『名短篇、ここにあり』 北村薫・宮部みゆき編集 ☆☆★
洒落たタイトルに惹かれて買ってきたアンソロジー。先週末二日で読了。収録作品は以下の通り。
「となりの宇宙人」半村良
「冷たい仕事」黒井千次
「むかしばなし」小松左京
「隠し芸の男」城山三郎
「少女架刑」吉村昭
「あしたの夕刊」吉行淳之介
「穴 -考える人たち」山口瞳
「網」多岐川恭
「少年探偵」戸板康二
「誤訳」松本清張
「考える人」井上靖
「鬼」円地文子
結論からいうと、完全にタイトル負けしている。「名短篇、ここにあり」と大見得を切られてこれじゃあまりにも物足りない。実際のところは「奇妙な味」系の軽めの短篇を集めたアンソロジー、と思ってもらえばいい。とにかくこのタイトルは変えるべきだ。読書の愉しみを知り始めた中高生が「よし、ひとつ名短篇と言われるものを読んでみよう」と思って本書を手に取ったら、短篇小説というのはこの程度かと拍子抜けして、読書離れしてしまうかも知れないじゃないか。
まず「となりの宇宙人」でずっこける。巻末の対談で宮部みゆきと北村薫がさかんに「笑っちゃうね」を連発しているが、私はほとんど笑えなかった。とぼけた味わいはあると思うが、これを名短篇と呼ぶか。「冷たい仕事」は着想は面白いがあまりに他愛なく、「むかしばなし」はオチがある古臭いスタイルのホラー風短篇、「隠し芸の男」はげっそりするようなサラリーマン哀歌である。
このへんですでに買ったことを後悔し始め、読むのを止めようかどうしようか迷ったが、次の「少女架刑」で多少盛り返し、「あしたの夕刊」でようやく読み応えのある短篇に当たってホッとする。その後の「穴 -考える人たち」はどうってことないシュールな作品だが、文体や世界は独特だなと思っていると、次の「網」でまたがっくり来る。
私見では、収録作の中で特に優れているのは「あしたの夕刊」「考える人」の二篇。この二つは名短篇の名に値する。少し落ちて次点が「少女架刑」「誤訳」の二篇。他はそれぞれの作家のファンが読めばよいと思う。
「あしたの夕刊」は締め切りを目前にした小説家が主人公の短篇だが、エッセー風に始まって最後は非現実の世界に入っていく。途中で林不忘の小説のあらすじが紹介され、その後その作品に似たことが小説家の身に起きる。虚実入り乱れる感じが快感で、タイムパラドックス的なロジックの遊びも面白い。『樹影譚』に通じるものがある。「考える人」も井上靖本人と思われる「私」が主人公のエッセー風の話だが、「私」がミイラ、つまり即身仏を見る話で、このミイラが考える人のポーズをしているのである。ミイラのことを書け、と変な男に迫られる冒頭から面白いし、ミイラと私はまぎれもなく「対面」したのだ、と感慨を抱くところには不思議な説得力がある。ミイラの伝記をみんなで考える終盤もいい。この二つは傑作だ。
「奇妙な味」アンソロジー、みたいな無難なタイトルだったら平均的なレベルで☆三つというところだが、大きくタイトル負けしているので辛めの☆二つ半。そして以後、北村薫・宮部みゆき編集アンソロジーには警戒することとする。
洒落たタイトルに惹かれて買ってきたアンソロジー。先週末二日で読了。収録作品は以下の通り。
「となりの宇宙人」半村良
「冷たい仕事」黒井千次
「むかしばなし」小松左京
「隠し芸の男」城山三郎
「少女架刑」吉村昭
「あしたの夕刊」吉行淳之介
「穴 -考える人たち」山口瞳
「網」多岐川恭
「少年探偵」戸板康二
「誤訳」松本清張
「考える人」井上靖
「鬼」円地文子
結論からいうと、完全にタイトル負けしている。「名短篇、ここにあり」と大見得を切られてこれじゃあまりにも物足りない。実際のところは「奇妙な味」系の軽めの短篇を集めたアンソロジー、と思ってもらえばいい。とにかくこのタイトルは変えるべきだ。読書の愉しみを知り始めた中高生が「よし、ひとつ名短篇と言われるものを読んでみよう」と思って本書を手に取ったら、短篇小説というのはこの程度かと拍子抜けして、読書離れしてしまうかも知れないじゃないか。
まず「となりの宇宙人」でずっこける。巻末の対談で宮部みゆきと北村薫がさかんに「笑っちゃうね」を連発しているが、私はほとんど笑えなかった。とぼけた味わいはあると思うが、これを名短篇と呼ぶか。「冷たい仕事」は着想は面白いがあまりに他愛なく、「むかしばなし」はオチがある古臭いスタイルのホラー風短篇、「隠し芸の男」はげっそりするようなサラリーマン哀歌である。
このへんですでに買ったことを後悔し始め、読むのを止めようかどうしようか迷ったが、次の「少女架刑」で多少盛り返し、「あしたの夕刊」でようやく読み応えのある短篇に当たってホッとする。その後の「穴 -考える人たち」はどうってことないシュールな作品だが、文体や世界は独特だなと思っていると、次の「網」でまたがっくり来る。
私見では、収録作の中で特に優れているのは「あしたの夕刊」「考える人」の二篇。この二つは名短篇の名に値する。少し落ちて次点が「少女架刑」「誤訳」の二篇。他はそれぞれの作家のファンが読めばよいと思う。
「あしたの夕刊」は締め切りを目前にした小説家が主人公の短篇だが、エッセー風に始まって最後は非現実の世界に入っていく。途中で林不忘の小説のあらすじが紹介され、その後その作品に似たことが小説家の身に起きる。虚実入り乱れる感じが快感で、タイムパラドックス的なロジックの遊びも面白い。『樹影譚』に通じるものがある。「考える人」も井上靖本人と思われる「私」が主人公のエッセー風の話だが、「私」がミイラ、つまり即身仏を見る話で、このミイラが考える人のポーズをしているのである。ミイラのことを書け、と変な男に迫られる冒頭から面白いし、ミイラと私はまぎれもなく「対面」したのだ、と感慨を抱くところには不思議な説得力がある。ミイラの伝記をみんなで考える終盤もいい。この二つは傑作だ。
「奇妙な味」アンソロジー、みたいな無難なタイトルだったら平均的なレベルで☆三つというところだが、大きくタイトル負けしているので辛めの☆二つ半。そして以後、北村薫・宮部みゆき編集アンソロジーには警戒することとする。
に、爆笑したわけです。
ほんまこれひどい!!!
北村薫のミステリーアンソロジーに裏切られた
ことはなかっただけに、これはイタかった…
ちくまは「文学の森」で良いアンソロジーを
作ってるんだから、こんなとこで失敗しないでほしい。
そして、こないだちくま文庫から出た宮部・北村選の『読んで、「半七」!』…
もう頼むから普通に小説書いててくれ、という感じです。小説家としては一級なんだから…!
これはかなり期待はずれでした…。
それぞれいいアンソロジーも出している人達なのに、どうしたんでしょうね。ネタ切れってわけでもないだろうし。