アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

狩人の夜

2007-01-11 22:52:32 | 映画
『狩人の夜』 チャールズ・ロートン監督   ☆☆☆☆

 日本版DVDを購入して鑑賞。『情婦』に出演している俳優のチャールズ・ロートン唯一の監督作品らしい。モノクロ作品で、サスペンス物といっていいと思うが、かなり独特の幻想味がある。

 公開当時は評判が悪く、そのせいでチャールズ・ロートンは二度と映画が作れなくなったが、後年カルトムービーとして評価が上がったらしい。公開時、唯一トリュフォーがこの映画を評価し、「奇抜で大胆すぎる映画」「豊かな創意にみちみちた映画」「ここには真の『実験映画』がある」と賛辞を寄せたそうだ。DVDに入っている紙でトリュフォーの批評文を読むことができる。それからマルグリット・デュラスは小説『愛人』の中にこの映画を登場させ、更にイギリスの「Time Out」誌が1989年に行った世界歴代映画ベスト100では、『市民ケーン』『第三の男』に続いてなんと第三位にランクされたというからすごい。ほんとかよ。

 モノクロの星空をバックに、女性と子供のコーラスで始まる。古いディズニー映画のような、おとぎ話的雰囲気が濃厚だ。子供と老女の顔が映り、老女が聖書を引用するモノローグから始まるのもこの映画の寓話性を強調している。物語は、まずはヒチコック映画のようにテンポのいいサスペンスものとしてスタートする。父親が子供に大金を託し、捕まって死刑になる。しばらくして怪しい伝道師が一家のもとに現れ、未亡人と結婚する。彼はあの手この手で子供から金のありかを聞き出そうとする。伝道師を演じるロバート・ミッチャムがかなり恐い。この人の目は瞳孔が開きっぱなしだ。

 ここまででも、例えば子供達の前に初めて伝道師が現れる夜、その不気味な影が壁いっぱいに映るとか、未亡人と伝道師の部屋が『カリガリ博士』みたいな独特の形状をしているとか、ところどころにリアリズムを離れた映像表現を見ることができるが、子供が義理の父親となった伝道師のもとを逃げ出す夜のシーンからその幻想的手法が全開になる。霧が漂う森、夜の川のきらめき、森の動物達、そして光の中に浮かび上がる、帽子をかぶった伝道師の悪魔的なシルエット。子供達は舟に乗って川を下る。伝道師は馬に乗って二人を追う。子供達が寝ているまぐさ小屋の窓から伝道師が見え、その歌声が聞こえてくるシーンはとても印象的だ。暁の光で地平線が幻想的に輝き、その光の中に馬に乗った伝道師の漆黒のシルエットが浮かび上がる。美しい。この映画を包む「不安なおとぎ話」的雰囲気が最高潮になるシーンだ。少年は恐怖にかられて呟く。「あいつは眠らないんだろうか?」

 その後、子供達はリリアン・ギッシュ演じる老女のもとに庇護され、追ってきた伝道師とリリアン・ギッシュの対決となる。このリリアン・ギッシュの毅然とした老女がまた非常に良い。最後はめでたしめでたし、冒頭と呼応するようなキリスト教的な老女の言葉で終わる。

 トリュフォーがその好意的な批評の中で「映画的な文体の不統一にもかかわらず……」と書いているように、ヒチコック的な前半と、どんどん幻想的になっていく後半のスタイルは確かに不統一に思える。しかしこの「不安なおとぎ話」的サスペンス幻想映画は独特の味があってかなりいける。これが監督第1作だったことを思えば、チャールズ・ロートンがこの後映画を撮り続けられなくなったのはまったく残念だ。


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