『The Brood』 David Cronenberg監督 ☆☆☆★
クローネンバーグ監督の初期作品『The Brood』をDVDで鑑賞。邦題は『ザ・ブルード/怒りのメタファー』と分かりやすい副題がついている。なかなか評価が高いようなので観たいと前から思っていたが、ようやく観ることができた。
これをクローネンバーグの最高傑作という人もいるようだが、私はそこまでとは思わない。初期だったら『スキャナーズ』の方がいいような気がするし、『戦慄の絆』『ザ・フライ』の方が完成度は高いと思う。しかし、この人の映画はどれをとってもクローネンバーグとしかいいようがない。異様だ。だからこの人の作品に凡作はない。この映画も例外ではない。独特の殺伐とした、どよーんとした世界が展開する。
冒頭からもう異様。舞台の上で、男二人が向き合い、片方が片方を罵倒している。父親と息子らしい(正しくは父親役と息子役、ということが後で分かる)。息子は泣き出し、体にできた腫瘍のようなブツブツを見せる。なぜか父親は喜び、二人は抱擁する。観客は「おお」とどよめき、「天才だ」なんぞと呟いている。一気にクローネンバーグのねじれた世界に突入だ。
要するにこれは精神療法の話で、ラグラン博士は人間の怒りを腫瘍のような肉体的なものに転換して治療するサイコプラズミクスという、わけのわからないクローネンバーグ的研究にいそしんでいる。主人公フランクの妻ノーラはこの治療を受けているが、腫瘍からフリークスが生まれ、それが彼女の怒りに応じて人殺しをするようになる。
フリークスは防寒服を着た子供の姿をしている。こんなものが恐いのかなと思っていたら、結構怖かった。これが猛り狂った猫みたいに「フーッ!」なんていいながら、金槌のようなものでポカポカ殴りかかってくるのである。大人だって血まみれになって殺されてしまう。このフリークスは世の中が白黒に見える目を持ち、歯がなく、生殖器がなく、へそもない。
誰かの怒りが具象化して人を襲うというのは他でもありそうだが、そこに肉体的な異変を絡めるのがクローネンバーグだ。決してあいまいなファンタジーにならず、観客の生理感覚を直撃してくる。途中で喉に異様なできものができた男が出てくるが、クライマックスで現れるノーラの肉体変異はそうとうグロい。おまけにノーラが腫瘍をばりばりと破り、中からフリークスを取り出し、ぺろぺろ舐めるのである。戦慄の出産シーンだ。思わず「ぐおお」と唸ってしまった。
更にクローネンバーグ映画の特徴は、メインとなるアイデア以外にも色んなよじれた感性、ディックやバロウズにも通じるナンセンスと紙一重の発想を見せてくれるところにある。本作だと例えば元患者だった男がうわごとのように語る「リンパ系には心臓がないので常に動き回っていなければならない」理論や、精神治療の「中毒」になってしまい、誰彼構わず「おれの父親になってくれ」と懇願する男などが面白い。
予想通り後味悪いエンディングもこの監督らしい。怖さという意味では最近の強烈なホラーには及ばないが、世界がよじれていくようなこの異様な感覚は他の監督の作品では決して味わえない。万人にお薦めはしないが、クローネンバーグ・ファンなら見逃せない作品だ。
クローネンバーグ監督の初期作品『The Brood』をDVDで鑑賞。邦題は『ザ・ブルード/怒りのメタファー』と分かりやすい副題がついている。なかなか評価が高いようなので観たいと前から思っていたが、ようやく観ることができた。
これをクローネンバーグの最高傑作という人もいるようだが、私はそこまでとは思わない。初期だったら『スキャナーズ』の方がいいような気がするし、『戦慄の絆』『ザ・フライ』の方が完成度は高いと思う。しかし、この人の映画はどれをとってもクローネンバーグとしかいいようがない。異様だ。だからこの人の作品に凡作はない。この映画も例外ではない。独特の殺伐とした、どよーんとした世界が展開する。
冒頭からもう異様。舞台の上で、男二人が向き合い、片方が片方を罵倒している。父親と息子らしい(正しくは父親役と息子役、ということが後で分かる)。息子は泣き出し、体にできた腫瘍のようなブツブツを見せる。なぜか父親は喜び、二人は抱擁する。観客は「おお」とどよめき、「天才だ」なんぞと呟いている。一気にクローネンバーグのねじれた世界に突入だ。
要するにこれは精神療法の話で、ラグラン博士は人間の怒りを腫瘍のような肉体的なものに転換して治療するサイコプラズミクスという、わけのわからないクローネンバーグ的研究にいそしんでいる。主人公フランクの妻ノーラはこの治療を受けているが、腫瘍からフリークスが生まれ、それが彼女の怒りに応じて人殺しをするようになる。
フリークスは防寒服を着た子供の姿をしている。こんなものが恐いのかなと思っていたら、結構怖かった。これが猛り狂った猫みたいに「フーッ!」なんていいながら、金槌のようなものでポカポカ殴りかかってくるのである。大人だって血まみれになって殺されてしまう。このフリークスは世の中が白黒に見える目を持ち、歯がなく、生殖器がなく、へそもない。
誰かの怒りが具象化して人を襲うというのは他でもありそうだが、そこに肉体的な異変を絡めるのがクローネンバーグだ。決してあいまいなファンタジーにならず、観客の生理感覚を直撃してくる。途中で喉に異様なできものができた男が出てくるが、クライマックスで現れるノーラの肉体変異はそうとうグロい。おまけにノーラが腫瘍をばりばりと破り、中からフリークスを取り出し、ぺろぺろ舐めるのである。戦慄の出産シーンだ。思わず「ぐおお」と唸ってしまった。
更にクローネンバーグ映画の特徴は、メインとなるアイデア以外にも色んなよじれた感性、ディックやバロウズにも通じるナンセンスと紙一重の発想を見せてくれるところにある。本作だと例えば元患者だった男がうわごとのように語る「リンパ系には心臓がないので常に動き回っていなければならない」理論や、精神治療の「中毒」になってしまい、誰彼構わず「おれの父親になってくれ」と懇願する男などが面白い。
予想通り後味悪いエンディングもこの監督らしい。怖さという意味では最近の強烈なホラーには及ばないが、世界がよじれていくようなこの異様な感覚は他の監督の作品では決して味わえない。万人にお薦めはしないが、クローネンバーグ・ファンなら見逃せない作品だ。