アブソリュート・エゴ・レビュー

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太陽にほえろ! ジーパン刑事編(その1)

2006-08-05 09:29:45 | テレビ番組
『太陽にほえろ! ジーパン刑事編(DVD Box 1&2)』

 マカロニ編に続き、ジーパン編を全部観た。やっぱり松田優作はカッコイイ。

 マカロニの後任として登場するジーパンだが、まず印象的なのは何といってもあの突き刺すような鋭い目だ。異様なまでに鋭い。そして長い手足と豪快なアクション。精悍な野獣そのものである。

 マカロニが青臭いながらもどこか飄々としていて、何をやっても憎めない愛嬌があったのに対し、ジーパンはもう少し内向的なところがある。常に眉間に皺が寄っているあの不機嫌そうな表情のせいというのもあるが、松田優作本人の持ち味もあるだろう。ちょっと人見知りというか、人に馴染むのに時間がかかり、屈託を心に秘めてしまうようなところがある。初登場の『ジーパン刑事登場』では、ヘマばかりするのでみんなにコンビを組むのを嫌がられ、部屋に一人残って落ち込んでいるのをお茶汲みの久美ちゃんに「かわいそう」と言われるなんてシーンもある。しかしそういう微妙な繊細さがまた、ジーパンの人馴れない精悍な野獣のようなムードを助長している。単にワイルドな能天気バカではない、魅力ある個性だ。

 それからなんといってもアクション。マカロニ時代と比べると明らかにアクションシーンが増えた。スタッフも派手なアクションをジーパンの売りにしようとしたのだろう、空手の有段者という設定を活かし、ジーパンが豪快に暴れまわるシーンが多い。単に多いだけじゃなく、スローモーションやアングルにも凝って、アクションのかっこよさを見せてやる、という気合いが伝わってくる。マカロニの頃はこんなことはなかった。マカロニは別に格闘に強い刑事じゃなかったが、ジーパンは明らかに強いのである。

 ところで『太陽にほえろ!』といえば刑事が走らされることで有名だが、走りっぷりも刑事それぞれで面白い。マカロニは普段あんなにかっこいいのに、走る姿は意外とカッコ悪い。両腕がふらふらして、なんか「女の子走り」みたいなのである。ゴリさんや殿下は悪くはないがまあ普通。ボンの走りもイマイチだ。やはり両手がふわふわして収まりが悪い。スコッチの走りは実にキビキビしていてなかなかかっこいい。クールでやり手というキャラクターに合っている。しかし、走る姿のかっこよさナンバーワンはなんといってもジーパンである。もう他の刑事達とはまるで違う。あの精悍さ、ワイルドさ。ジーパンがバッと走り出し、音楽が流れてくるだけでもうメチャかっこいいアクションシーンになってしまうのである。いやー、やっぱり役者のカリスマというのは重要なんだなあ。

 このジーパンの個性を反映して、エピソードの雰囲気もマカロニの頃とはだんだん変わってくる。マカロニ編が青春ドラマ的で、懸命に刑事としてまっとうしようとしながらも傷つき、その痛みをブザマにさらけ出すマカロニという構図だったのに対し、ジーパンはそこまで傷みをさらけ出さない。もちろんドラマ的には失敗したり落ち込んだりするのだが、最終的には自ら克服して落とし前をつけていく、というパターンが多い。後期になってだんだんジーパンがたくましくなっていくと余計それがはっきりする。マカロニが青春スターだったのに対し、ジーパンはアクションヒーローなのである。

 しかし後の松田優作を知っていて見ると、ジーパンというキャラクターは結構新鮮だ。松田優作演じるヒーローといえば傍若無人、人を人とも思わないデカイ態度、そして刑事にしろ殺し屋にしろとにかく凄腕、というのが定番だが、ジーパンは新人であるが故にヘマが多く、先輩刑事の言うことに従順、時には説教され、落ち込んだりする。しかし松田優作本人の個性であるハードボイルドで「凄腕」的雰囲気もチラホラ見え隠れするので、そのミスマッチ感が妙に面白かったりする。しかしジーパン編最終回『ジーパン・シンコ その愛と死』のクライマックス、単身の銃撃戦から殉職への流れは、もうまぎれもなく「あの松田優作」そのものである。

 印象に残るエピソードも多い。マカロニ的な「裏切られ、傷つく」青春像をひきずった登場直後の『汚れなき刑事魂』『どぶねずみ』、松田優作+桃井かおりのカップルが独特のムードを醸し出し、新宿という街の虚無が描出される『新宿に朝は来るけれど』、ジーパンが拳銃の名人に手ほどきを受ける『最後の標的』。ジーパンは最初拳銃を持たない刑事という設定だったが、『海を撃て!ジーパン』から拳銃を持つようになり、ますますハードボイルド・ヒーローとして完成されていく。それから、ジーパンの親父と知り合いだったというとぼけた泥棒じいさんとの交流が楽しい『おやじに負けるな』、偏屈なおばあさんとジーパンのやりとりがいけてる『金で買えないものがある』(このおばあさんのキャラクター最高)。ここらへんになるとジーパンもすっかり馴染み、松田優作のもう一つの持ち味であるコミカルさも時々見られるようになる。ゴリさんとジーパンのコミカルな掛け合いもお約束みたいによく出てくる。

(明日へ続く)


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