アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

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シャルビューク夫人の肖像

2006-10-01 00:56:48 | 
『シャルビューク夫人の肖像』 ジェフリー・フォード   ☆☆☆★

 前にこの作家の『白い果実』というのを読んだことがあり、なかなか個性的で面白い幻想小説だったのでこれも買ってみた。

 まず文章が非常に平易で読みやすいのに驚いた。『白い果実』が山尾悠子訳というか、訳文を自分の文体に書き換えたほとんど創作訳みたいなものだったらしいので、こっちが著者本来のスタイルなのだろう。しかしまあ、いかにも普通である。『白い果実』の文体が結構好きだった私にはちょっと物足りない。しかし読みやすさはこちらの方が上だ。

 19世紀末のニューヨークで、画家ピアンポが大金とひきかえにシャルビューク夫人の肖像画制作を頼まれるが、肝心のシャルビューク夫人は屏風の向こうに隠れたままで、姿を見ずに会話を交わすだけで描けといわれる。無茶である。この無茶な設定でどう物語を広げていくかが作家の腕の見せ所だが、ジェフリー・フォードはなかなか多彩なというか、波乱万丈のプロットを展開してみせる。私は、画家と屏風の向こうに隠れた貴婦人が肖像画制作という特殊な「場」を借りて瞑想的な会話を繰り広げる、どちらかといえば静的な、アントニオ・タブッキ的な小説を予想していたのだが、実際はかなりダイナミックな小説だった。

 ピアンポと夫人の屏風越しの会話では、夫人が主に自分の生い立ちや家族のことを語る。大富豪のおかかえ占い師だった父親は雪の結晶を観察して未来を予知する「結晶言語学者」だった、というあたりはもろ幻想小説風のプロット。そこに両目から血を流して死ぬ、という奇病の流行がからまってくるが、これが実はシャルビューク夫人ゆかりの男の復讐行為だった、という展開になりこれはミステリ的、冒険小説的である。ピアンポがシャルビューク夫人の死んだはずの夫に襲われるなんてアクション・シーンまである。さらにピアンポには女優の恋人がいて、シャルビューク夫人に惹かれるピアンポに計略をしかける、なんてロマンス系のプロットまであり、もう盛り沢山である。もちろんシャルビューク夫人の正体、その姿(はたして美女なのかバケモノなのか)の謎もあるし、全体を通しての本来のテーマ、果たしてピアンポは肖像画を描けるのか、もある。鍋焼きうどん並みの豪華さだ。

 結末もスリリングに盛り上がり、ミステリ的などんでん返しもあり、でウェルメイドな娯楽小説の様相を呈する(まあどんでん返しは大体予想がつくけれども)。だからこれは幻想文学と娯楽小説の中間ぐらいに位置する小説だと思う。映画化なんかされたら楽しそうだ。山尾悠子みたいなピュアな幻想譚を予想しているとちょっと違う。

 しかし雪の結晶で占いをする「結晶言語学」、父と娘が発見する完璧に同形のあり得ない二つの結晶=双子と、それがもたらす力と不幸、シャルビューク夫人が語る残酷なおとぎ話「愉快な仲間」など、神秘的で美しいモチーフも非常にバランス良くちりばめられて、幻想小説としてもなかなか上質だと思う。衝撃的とは言わないが、端正でクラシックだ。ちょうど本書の表紙を飾るサージェントの絵のように。

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