アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

哀しみのベラドンナ

2008-04-26 13:00:30 | アニメ
『哀しみのベラドンナ』 山本暎一監督   ☆

 私は手塚治虫のアニメ『クレオパトラ』が大好きで、昔はポニーキャニオンのビデオを持っていたが、虫プロ・アニメラマDVDボックスなんてものが出たので喜びいさんで買った。『クレオパトラ』の他に『千夜一夜物語』『哀しみのベラドンナ』が入っている。さて、『クレオパトラ』を美しい映像でたっぷり楽しみ、『千夜一夜物語』は期待外れ、『哀しみのベラドンナ』は観る気がしなくてずっと寝かせていた。手塚治虫が関与していない、しかも「アートフィルム」志向というところに嫌な予感がしたのである。

 しかし傑作という人もいるようなのでようやく観てみた。ちょうど90分の本編、たっぷり睡眠をとった休日の昼間に観たにもかかわらず、眠気をこらえるのに精一杯だった。観始めた時は全然眠くなかったのに、魔法のようにどんどん眠りの中に引きずり込まれていく。あれは一体なんだったのだろう。不思議な経験だった。

 まず『哀しみのベラドンナ』のタイトルが表示されるとともに、今聴くと昭和歌謡以外の何物でもない音楽が流れる。『クレオパトラ』や『千夜一夜物語』、それからテレビアニメの『どろろ』などでは富田勲の音楽が素晴らしく、特に『クレオパトラ』では物語のエキゾチズムとマッチした耽美的な音楽が印象的だったが、この古臭い昭和歌謡はなんじゃい。そして話が始まるが、おいおい、絵が動かん、絵が動かんぞー! なんと、静止画の上にナレーションとセリフを重ねている。こりゃアニメーションじゃない、紙芝居だ。しかも、「ジャンとジャンヌ~♪」なんて唄で物語の説明が入っとる。うーむ、これがアート志向か?

 過去のアニメラマ作品とはまったく違う絵柄だが、これは挿絵画家の深井国という人の絵柄らしい。SFやファンタジー系の本の装丁とかやってる人のようだが、よく知らない。あんまり好みの絵柄ではない。一条ゆかりを微妙に崩したような絵だ。手塚治虫の絵はみんな知ってるように丸っこくて子供っぽく、その絵でエロチズムを全開にした『クレオパトラ』はミスマッチな面白さがあったが、この絵は成人漫画っぽくて、これでエロをやられてもエロいだけで大して面白くない。

 映像の懲り方もいかにも「アートしてやるぜ」的で、静止画主体、画面の一部だけ絵を入れてあとはわざと空白にしたり、サイケな模様を入れたり、水彩画風にしたり鉛筆画にしたりパステルにしたり、とことん表現主義的だ。まあやってる方は楽しいだろうが、見ている方はつらい。大体、絵が汚い。よくこれを商業映画として作れたなあと感心する。

 それからがっくりくるのが、物語の進行はおおむね静止画バックにナレーションで説明されてしまうことだ。そして制作者が「よしここで絵に凝るぞ!」というところ、つまりジャンヌが悪魔に体をまかせるところとか、黒死病が村を席巻するところとか、そういう部分で延々と「実験的」なアニメーションを見せられる。どっと眠気が押し寄せる。言っちゃ悪いが、私にはマスターベーションにしか見えなかった。深井国さんのイラストのファンです、という人以外、なんびとにもお勧めしません。


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