カンボジア経済

カンボジアの経済について、お堅い数字の話から、グルメ情報といったやわらかい話まで、ビジネス関係の方にお役に立つブログです

アジア経済見通し2024秋 長引く不動産不況に懸念

2024年09月30日 | 経済
 アジア開発銀行(ADB)は、9月25日に「アジア経済見通し2024年9月版(Asian Development Outlook September 2024)」を発表しました。ADBでは、アジア・太平洋地域の開発途上国における2024年の経済成長見通しを、堅調な内需と輸出の継続的な増加を背景に上方修正しました。また、域内のインフレ見通しについて下方修正しました。
 アジア開発途上国の経済成長見通しを2024年5.0%(前回2024年4月予測4.9%)、2025年4.9%(同4.9%)と予測しています。アジア・太平洋地域のインフレ率は、国・地域によってかなりばらつきがあるものの、2024年2.8%(同3.2%)、2025年2.9%(同3.0%)と落ち着いてくると予測しています。
 リスクとしては、米国と中国の貿易摩擦の悪化や中国不動産市場のさらなる悪化、地政学的緊張の高まりが挙げられ、さらに、気候変動や悪天候が商品価格、食料・エネルギーの安全保障に与える影響も懸念されているとしています。
 カンボジアについては、2024年のGDP成長率を5.8%(前回5.8%)、2025年6.0%(同5.8%)と予測しています。縫製品輸出の回復等に支えられて、第二次産業の成長率は2024年8.0%、2025年8.4%に達すると予測しています。第三次産業については、観光の回復が続き、2024年5.4%、2025年5.2%の成長となると見ています。しかし、長引く不動産不況には懸念を示しています。第一次産業は、農産品の輸出の伸びに支えられて、2024年1.2%、2025年1.3%成長すると予測しました。
 物価上昇率予測については、2024年は0.5%(前回2.0%)、2025年2.5%(同2.0%)に落ち着くとしています。外国直接投資については、利益率が低下している金融業向けが大きく落ち込んでいると指摘しています。また、外貨準備は2024年6月末には200億ドルに増加すると予測しました。
 リスクとしては、中国等の主要関係国の経済成長の伸び悩み、不動産向け等の民間向け貸付の増大等を指摘しています。
(グラフは、ADBの発表より)

アジア開発銀行のサイト(和文)
https://www.adb.org/ja/news/adb-raises-economic-growth-forecast-developing-asia-and-pacific


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初のカンボジア欧州官民対話会議 投資環境改善を目指す

2024年09月27日 | 経済
 9月17日、プノンペンのカンボジア開発評議会にて、初のカンボジア欧州官民対話会議(Cambodia-Europe Public-Private Sector Dialogue)が開催されました。スン・チャントール副首相兼カンボジア開発評議会第一議長とイゴール・ドリスマンズEU大使が共同議長を務めたとのことです。会議には、カンボジア政府関係省庁、欧州商工会議所、EU-ASEANビジネス委員会の関係者等が参加しました。
 この対話会議は、すでに進出済の企業の課題の解決を図ることにより、投資環境の整備を進め、新たな投資誘致を目指すものです。カンボジアに対する欧州の投資家が直面する様々な課題に耳を傾け、解決を目指すとともに、カンボジアを投資対象として検討している欧州の潜在的投資家の信頼を得ていくことを目的としているとしています。
 スン・チャントール副首相は、会議での発言で、初のカンボジア・欧州官民対話の重要性を強調し、欧州の投資家の懸念と課題に対してカンボジア政府が真摯に取り組んでいくと述べています。また、カンボジアは世界中のすべての投資に開放されているとし、投資の円滑化や課題の解決により、EUを含む各国の潜在的な投資家を誘致すべく取り組んでいると述べました。
 これまで、カンボジア政府とこうした会議を行っていたのは、日本だけでした。日本とカンボジアは、投資協定に基づき、これまで約15年間で28回の協議を重ね、様々な課題を解決し、投資環境の整備に貢献してきました。EU諸国も日本のこうした活動をうらやましく思っていた模様で、今回ようやく初の対話会議開催にこぎつけたと見られます。EUや欧州商工会議所のカンボジア投資環境改善に向けた協力が期待されます。
(写真は、AKPより)



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LDC卒業の影響 カンボジアは大きく アジア経済研究所

2024年09月26日 | 経済
 9月19日、アジア経済研究所は、「ラオスにおけるLDC卒業の影響」と題する報告書を公表しました。著者は、早川和伸氏と熊谷聡氏です。
 報告書では、ラオスに加え、カンボジア、バングラデシュが後発開発途上国(Least Developed Country: LDC)を卒業したときの影響をシミュレーション分析しています。結果として平均的には、カンボジアやバングラデシュに比べ、ラオスはLDC卒業の影響をほとんど受けないことが示されたとしています。
 2021年11月、ラオスがバングラデシュ、ネパールとともに後発開発途上国のステータスから卒業することが、国連総会で決議されました。これらの国は2026年にLDCのステータスから卒業することが予定されています。また、カンボジアも2029年の卒業が予定されています。卒業により、各国は輸出時にLDC向けの特恵関税制度を利用できなくなり、輸出先市場で価格競争力を失うことが懸念されています。
 今回使用されたモデルは、経済地理シミュレーションモデル(IDE-GSM)です。このモデルは、空間経済学に基づく計算可能な一般均衡(CGE)モデルの一種であり、2007年に東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)の支援を受けてアジア経済研究所で開発が開始されたものです。
 分析結果は、ラオスは大きな影響を受けない一方で、バングラデシュ、カンボジアは、縫製品の輸出を中心に、GDPに下方圧力がかかるとしています。提言として、シミュレーション結果のように影響を最小化するために、FTA税率の利用を促進していくことが重要であるとしています。
 カンボジアはLDC卒業の影響を大きく受けることが懸念されており、主要輸出市場である欧米との自由貿易協定の促進や、輸出先国・輸出品目の多様化が課題となっています。カンボジア政府による地道な交渉等の努力が期待されます。

アジア経済研究所のサイト
https://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Reports/AjikenPolicyBrief/197.html


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カンボジア 災害リスク対策5か年計画を発表

2024年09月25日 | 経済
 9月2日、災害リスク削減国家行動計画2024年~2028年(National Action Plan on Disaster Risk Reduction (NAP-DRR) 2024-2028)が発表されました。国家災害管理委員会(NCDM)が発表したもので、そのビジョンは、持続可能な国家開発のための強靭で安全なコミュニティを構築するというものです。行動計画には、4つの戦略と18の優先プログラムが定められています。
 国家災害管理委員会では、カンボジアは毎年、洪水、干ばつ、強風、落雷、川岸の崩壊、火災、伝染病など多くの危険に直面しているとしています。2024年には、洪水により2万世帯以上が影響を受け、8月20日時点で2人が死亡しています。また、2万5563ヘクタールの稲作が被害を受け、165キロメートル以上の道路が洪水の影響を受けました。
 今年8月までに、600件以上の火災が記録されました。家屋624軒、市場の屋台120軒に損害を与え、15人が死亡、45人が負傷しました。また、241回の激しい嵐が記録され、強風により482軒の家屋が倒壊し、3800軒の屋根が損傷し、4人が死亡、32人が負傷しました。また、落雷被害も94回記録され、50人が死亡、43人が負傷したとのことです。
 カンボジアは、地震や台風の被害がほとんどありません。他方、プノンペンでも乾期と雨期の水位差がメートルもあり、毎年10月には国土の三分の一が水没していると言われます。災害を無くすことは難しいものの、災害の被害を計画的に削減することを目指すことはできるものと見られます。今回の行動計画が、しっかりと実施され、災害の被害が軽減されていくことが期待されます。
(写真は、AKPより。2020年の洪水の状況)



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2025年の最低賃金 208ドルで決着

2024年09月24日 | 経済
 2025年1月1日から縫製業等に適用されるカンボジアの最低賃金は、208ドル/月で決着しました。現在は204ドルで、2.0%の上昇となります。カンボジアの最低賃金の上昇は、2012年61ドルから2013年80ドル(31.1%増)、2014年100ドル(25.0%増)、2015年128ドル(28.0%増)と急激なものがありましたが、労働諮問委員会で客観的基準を使用し始めた2016年は140ドル(9.4%増)、2017年153ドル(9.3%増)、2018年170ドル(11.1%増)、2019年182ドル(7.1%増)、2020年190ドル(4.4%増)、2021年192ドル(1.1%増)、2022年194ドル(1.0%増)、2023年200ドル(3.1%増)、2024年204ドル(2.0%増)と上昇幅が落ち着いてきています。2025年の最低賃金は、世界経済の減速傾向の影響で経済に不透明感が広がっている中、上昇幅が抑え込まれたものと見られます。
 最低賃金は、政府、雇用者、労働組合の3者の代表51名が参加する労働諮問委員会で討議されてきました。9月19日の会議において投票が行われ、51票中46票が賛成した206ドルで合意し、労働大臣に答申されました。この結果を受けて、毎度おなじみの首相の鶴の一声で2ドル増額を加えることを決定し、最終的に208ドルで決着しました。なお、使用者側からの意見もあって、フン・セン前首相が始めた追加の金額は2019年までの慣例だった5ドルから、2020年は3ドルに、2021年以降は2ドルに縮減されています。
 内需振興のためにも、最低賃金の引き上げは必要不可欠ですが、急激な上昇は外国投資家の懸念となっていました。カンボジア政府では、最低賃金の検討に当って、労働生産性上昇率や物価上昇率等の客観的基準を2016年の最低賃金から使用し始めており、雇用者側も労働者側も納得感が高い決定方式が次第に定着しつつあります。
 2020年以降は、新型コロナの影響が大きく、工場の閉鎖や労働者の失業・一時帰休が大きな問題となっており、こうした情勢も反映したものと見られます。昨年と今年は、他通貨に比べてドル及びリエルが増価しており、輸出競争力を勘案すると賃金の上昇幅を抑える必要もありました。他方、2022年以降は、名目GDP成長率の伸びに賃金の伸びが追いついておらず、労働分配率が低下しているものと推測されます。カンボジア経済回復のための国内需要を喚起する観点からは、すくなくとも物価上昇・GDP成長に見合う実質賃金が確保できるような最低賃金の見直しが必要です。こうした様々な要因の間でバランスをとりつつ上昇幅を決定していくことが重要なものと見られます。



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カンボジアの若手クリエイター向け技術講習会 国際交流基金の支援で

2024年09月23日 | 経済
 9月6日、株式会社アクアスターは、カンボジアの若手クリエイターを対象としたオンライン技術講習会を8月30日に開催したと発表しました。この講習会は、国際交流基金が実施する「次世代共創パートナーシップ 文化のWA 2.0」事業の一環で行われ、プロのイラストレーターを目指すカンボジアの参加者に、日本文化の理解を深める貴重な機会を提供しました。
 当日の参加者数は62名で、講義中も参加者から次々と質問が寄せられ、熱心な姿勢が強く感じられたとのことです。
 国際交流基金は、日本ASEAN友好協力50周年(2023年)を契機に、日本とASEANの次世代の交流促進と人材育成を目的とする包括的な人的交流事業「次世代共創パートナーシップ-文化のWA2.0-」を、10年間にわたり集中的に実施する計画です。
 この取組は、JFが2014年~2023年にかけて実施したアジアとの文化交流事業「文化のWA(和・環・輪) 知り合うアジア」を発展的に継承するものであり、特にASEAN各国から期待が大きかった「日本語パートナーズ事業」を継続するものです。
 カンボジアの産業開発政策では、外資の誘致、地場中小企業の育成を重点としつつ、「イノベーション産業」の育成に取り組むとしています。カンボジアでは、中央銀行デジタル通貨バコンの導入等のフィンテック、デリバリーや配車サービスといったDXが進展し、様々なしがらみで改革が進まない日本に追いつき、追い越しつつあります。こうした中で、日本が得意とするアニメやゲームの分野でのカンボジアへの日系企業の進出が期待されるところです。今回の講習のような機会が日系企業にとっても大きなチャンスとなっていくことが期待されます。

アクアスターの発表
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000078.000055500.html


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大林組 コンストラクション国際賞を受賞 プノンペンの日本橋改修で

2024年09月20日 | 経済
 9月12日、建設会社大手の大林組は、国土交通省が主催する「第7回JAPANコンストラクション国際賞(国土交通大臣表彰)」の建設プロジェクト部門において、大林組がカンボジアで手がけた「チュルイ・チョンバー橋改修計画」が受賞したと発表しました。なお、大林組がJAPANコンストラクション国際賞を受賞するのは、今回で5年連続、6回目とのです。
 JAPANコンストラクション国際賞は、日本の優れた技術力やプロジェクト管理能力などを通じて、質の高いインフラを実現した海外プロジェクトを表彰するものです。海外における日本の建設業の競争力向上と海外進出の支援を目的に2017年度に創設されました。
 チュルイ・チョンバー橋は、1964年に日本の援助により完成し、その後の内戦の被害により不通となるも、1994年に再び日本の援助により修復(大林組施工)され、再開通しました。日本とカンボジアの友好のシンボルとして「日本橋」の愛称で親しまれており、地域住民にとって重要な生活道路である、主要国道上の橋です。
 本プロジェクトは、老朽化や交通量の増大によって著しく損傷したチュルイ・チョンバー橋の全面的な改修・補強を行うものです。近隣住民や隣接する学校などへの影響を最小限にするため、また安全・環境保護・品質管理の観点からも、日本の技術や手法、資材を採用して工事を進めました。主橋の再塗装では、旧塗装の除去で生じた研磨材を分離回収・再利用する日本の工法を採用したことで、研磨材廃棄物の削減も実現しています。
 今回の受賞では、維持管理費用を低減できる補修方法・材料を採用し、かつ効率的な施工方法の提案や関係者協議を通じて工期を短縮したことや、産業廃棄物の削減や騒音・振動・粉じん発生を抑制したこと、周辺の緑化を行ったことが高く評価されました。
 なお、大林組は、日本の円借款事業であるカンボジアの国道5号線改修工事に関して今年の「第44回エンジニアリング功労者賞」も受賞しています。
(写真は、大林組の発表より)

大林組の発表
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20240912_1.html


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シアヌークビル港コンテナターミナル拡張工事完成 100万TEUに

2024年09月19日 | 経済
 9月12日、日本からの円借款を活用して工事が進められていたシアヌークビル港の既存コンテナターミナルの拡張工事が完工し、記念式典が開催されました。式典には、フン・マネット首相、植野篤志大使他関係者多数が参加しました。式典で、フン・マネット首相は、日本の支援に対する感謝の意を表するとともに、今後の継続的な支援を要請しました。
 今回完成した事業は、カンボジア唯一の大水深港であるシアヌークビル港において、既存のコンテナバースを253メートル延長し、コンテナターミナルを拡張するものです。現在、約70万TEU/年の取扱能力を有するシアヌークビル港ですが、2023年には取扱量が約80万TEUとなっていました。取扱能力がほぼ限界に達しつつあるため、今回の拡張工事が行われたもので、拡張によって100万TEU/年に能力が拡大します。
 日本は、これまでも多額の円借款や無償資金協力で、シアヌークビル港の整備に協力してきました。シアヌークビル港の新コンテナターミナルについても、第1フェーズ向けに2017年8月に235億200万円の円借款を供与したのに続き、2022年8月に第2・第3フェーズ向けに413億8800万円の円借款を供与して、その建設を支援しています。
 日本の円借款を活用して現在工事中の新コンテナターミナル第1期は、350メートルのコンテナバースを有し、取扱能力は145万TEUとなる予定で、2026年の完工を目指しています。その後も第2期・第3期の工事が実施される計画となっています。
 シアヌークビル近郊のリアム海軍基地には中国海軍の艦艇が常駐する等、米国等を刺激する状況も続いています。カンボジアで最も重要なコンテナ港であるシアヌークビル港は、日本の継続的な支援によって、特定国の影響下に置かれないようにしていくことも重要な課題となっているものと見られます。
(写真は、シアヌークビル港湾公社のフェイスブックより)

シアヌークビル港湾公社のフェイスブック(クメール語と英語)
https://web.facebook.com/pas.gov.kh/posts/pfbid0BBGeKUJGdKB3csLiRvtrSvTqi6i4hMQCYgXaHkFwQ9J7WbsEVP5HtBm2ujZzGA96l


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米国 カンボジアの財閥に制裁 特殊詐欺関連で

2024年09月18日 | 経済
 9月12日、米国財務省の外国資産管理局(Office of Foreign Assets Control: OFAC)は、カンボジアの財閥グループであるLYPグループ(L.Y.P. Group Co., LTD)及びその総帥であるLy Yong Phat上院議員(オクニャ)、関連会社のO-Smach Resortに対し、人身売買・強制労働・特殊詐欺に関わっているとして制裁を科すと発表しました。なお、ガーデンシティホテル・コッコンリゾート・プノンペンホテルも関連企業として指定しています。
 OFACは、O-Smach Resortにおいて組織的な特殊詐欺が実行され、そのために集められた被害者は暴行を受ける等して犯行を強要され、逃げようとした2名が死亡しているとしています。
 OFACでは、「本日の行動は、人身売買やその他の虐待に関与した人々の責任を問うという厳格な方針に則ったものであり、アメリカ人を含む無数の無防備な個人を標的とする投資詐欺スキームを運営する能力を弱体化させるためのものである」としています。
 制裁は、米国内にある指定者のすべての資産凍結、指定者との米国人または米国内(または通過)によるすべての取引禁止等となっています。
 カンボジア外務省は、9月13日に今回の制裁措置について遺憾であるとする声明を発表しています。
 なお、OFACによる制裁措置の実施は、原則として米国人・米国企業に義務付けられるものですが、特定の場合には非米国人も制裁を遵守しないと罰則の対象となるケースもあるとのことです。2022年にはオーストラリアの企業が罰金刑を受けたケースもある模様です。日系企業においても米国から疑念を持たれないよう、専門家に相談する等の慎重な対応が求められるものと見られますので、十分ご留意ください。
(写真は、コッコンリゾート。2008年撮影)

米国財務省の外国資産管理局(OFAC)の発表
https://home.treasury.gov/news/press-releases/jy2576


免責事項
(1)「カンボジア経済」は、カンボジア総合研究所(以下「弊研究所」)が発行するブログです。本ブログの著作権は弊研究所に属し弊研究所の事前の許可なく複製・再配信等を行うことはできません。
(2)本ブログに掲載された内容は、執筆時における筆者の見解・予測であり、情報の正確性や完全性について保証するものではありません。また過去の実績は将来の結果を保証するものでもありません。
(3)本ブログは情報提供のみを目的としており、投資勧誘を目的としたものではありません。
(4)弊研究所は有価証券価格や為替レート等の上昇または下落について断定的判断を提供することはありません。
(5)弊研究所は本ブログの内容に依拠してお客さまが取った行動の結果に対し責任を負うものではありません。投資にあたってはお客さまご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。

   カンボジア総合研究所 CEO/チーフエコノミスト 鈴木 博


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公的債務統計報告書2024年第2四半期 債務状況は問題なし

2024年09月17日 | 経済
 9月12日、カンボジア経済財政省は、公的債務統計報告書(Cambodia Public Debt Statistical Bulletin)第23号を公表しました。2024年6月末現在のカンボジア政府の債務状況について詳細な統計により報告しています。
 2024年6月末の公的対外債務残高は、111億5748万ドル(約1兆5732億円)と2023年12月末の111億8662万ドルから0.3%の減少となっています。国別では、中国が最大で40億5724万ドル(全体の36.4%)、以下、アジア開発銀行24億2182万ドル(21.7%)、世界銀行13億5988万ドル(12.2%)、日本11億8311万ドル(10.6%)、韓国5億8117万ドル(5.2%)等となっています。
 債務持続性分析を見てみると、2024年末予測で公的対外債務の現在価値の対GDP比率は19.0%(基準値40%)、同対輸出比率29.1%(同180%)、債務返済比率(債務返済の対輸出比率)1.8%(同15%)、債務返済の対歳入比率7.8%(同18%)と、いずれも健全とされる基準値を大きく下回っており、全く問題ありません。ストレステストでも基準値を超えることは全くなく、対外債務については、カンボジアは大変な優等生ということができます。世界銀行・国際通貨基金の判定でも「低リスク国(青信号国)」に分類されています。
 新型コロナ対策や世界的インフレで多額の財政支出を余儀なくされ、また、経済状況も悪化する中で、対外債務に苦しむ途上国も見られます。また、米国の金融緩和終了に伴うドル金利上昇やドル高によって、いくつかの新興国で懸念が高まっています。既に、スリランカが破たんし、パキスタンやラオス等も厳しい状況です。しかし、カンボジアは、債務の過半が日本や世界銀行・アジア開発銀行からの譲許的借款であることに加え、債務マネジメントをしっかり行ってきたため、対外債務については概ね問題なく、急激な為替レートの変動や外貨危機の可能性も低いと言えます。いわゆる「債務の罠」に陥る可能性は現状では低いものの、特定国に偏り過ぎないようにバランスを取りつつ、引き続き公的債務を管理していくことが必要と見られます。

経済財政省のサイト(英文及びクメール語です)
https://mef.gov.kh/documents-category/publication/public-debt-bulletin/


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カンボジア 2024年8月の物価上昇率

2024年09月16日 | 経済
 国家統計庁から発表された2024年8月の消費者物価上昇率(対前年同月比)は、0.3%でした。物価上昇率は、2012年以降、安定的に推移しており、2018年1月以降は概ね3%未満で推移していました。2021年9月からは久しぶりの大幅上昇となっていましたが、2022年7月以降は低下傾向となっていました。2023年7月以降、若干の上昇に転じていましたが、今年に入り低い水準で推移しています(2019年1月1.6%、2月2.4%、3月2.3%、4月2.6%、5月2.3%、6月1.6%、7月2.2%、8月3.1%、9月1.7%、10月1.3%、11月1.8%、12月3.1%、2020年1月3.6%、2月2.7%、3月2.8%、4月1.9%、5月2.4%、6月3.2%、7月3.1%、8月2.0%、9月2.9%、10月3.7%、11月3.7%、12月2.9%、2021年1月2.6%、2月1.7%、3月2.1%、4月2.7%、5月3.0%、6月2.7%、7月3.3%、8月3.4%、9月5.9%、10月6.8%、11月7.9%、12月6.7%、2022年1月4.1%、2月6.3%、3月7.2%、4月7.3%、5月7.2%、6月7.8%、7月5.4%、8月4.9%、9月4.4%、10月3.6%、11月3.2%、12月2.9%、2023年1月3.0%、2月2.2%、3月0.7%、4月1.1%、5月0.5%、6月0.0%、7月1.9%、8月3.2%、9月3.8%、10月3.9%、11月2.7%、12月2.7%、2024年1月マイナス0.5%、2月マイナス0.3%、3月0.0%、4月0.5%、5月1.1%、6月0.7%、7月0.6%)。なお、7月と比べると8月は0.5%の上昇でした。
 ガソリン価格は、政府による価格メカニズムにより国際価格に概ね連動して動いています。7月の4300エル/リットルから、8月は4182リエル/リットルに下落しました。ディーゼルは、7月の4184リエル/リットルから、8月は3971リエル/リットルに下落しました。国際原油価格(ニューヨーク市場のWTI)は、ロシアのウクライナ侵略の影響を受けて急激に上昇し2022年3月初めに130ドル台にまで上昇した後、足元は70ドル前後で推移しています。カンボジアはガソリン類を全量輸入に頼っているため、カンボジアのガソリン価格も国際価格に連動しています。2023年中盤に上昇した後、最近落ち着いてきています。
 国際機関は、2024年のカンボジアの物価上昇率については安定的と予測しています。アジア開発銀行は2.0%、世界銀行は2.8%、IMFは2.3%、AMROは2.2%と予測しています。
(写真は、プノンペン市内のガソリンスタンド。8月28日撮影)  


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AMRO カンボジアとの年次協議報告書2024を発表 不動産不況を懸念

2024年09月13日 | 経済
 9月5日、ASEAN+3マクロ経済調査事務局(ASEAN+3 Macroeconomic Research Office:AMRO)は、2024年5月2日~13日にカンボジアで実施した年次協議の報告書を発表しました。AMROは、この地域の経済・金融の監視・分析を行うとともに、ASEAN10か国と日本、中国、韓国による外貨融通の取り決め「チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)」の実施を支援するために設立された国際機関です。
 カンボジアのGDP成長率については、2023年の5.0%から2024年5.6%、2025年5.9%と回復を続けると見ています。衣料品セクターの回復、非縫製製造業の輸出拡大、観光業の回復が、引き続き景気回復を後押しするとしています。しかし、回復の軌道は、特に不動産セクターの長期にわたる弱含みと信用力の低下というリスクにさらされていると懸念しています。
 物価上昇率は、ウクライナ危機等の影響による国際資源価格・食料価格の高騰を受けて2022年6月には7.8%まで上昇しました。その後は落ち着き、2023年には2.1%にまで下落し、2024年2.2%、2025年2.3%と安定的に推移すると見ています。
 対外収支については、経常収支(対GDP比)は、貿易赤字の大幅な縮小もあって2023年に1.3%の黒字に転じました。引き続き、2024年0.6%、2025年0.1%の黒字となると予測しています。また、2023年の海外直接投資(FDI)流入額はGDPの9.3%と底堅く推移しました。外貨準備も潤沢で、2024年末204億ドル(輸入の7.6か月分)、2025年末209億ドル(同7.1か月分)に達すると予測しています。
 リスクとしては、中国等の主要関係国の経済減速、欧米の貿易政策の転換、世界的な一次産品価格の高騰等を挙げています。また、不動産開発業者の金融危機が深まれば、銀行セクターの信用リスクが高まる可能性があると指摘しています。
 政策提言としては、財政健全化を進めつつ、開発に必要な資金を確保するための歳入を増やすことが重要であるとしています。中央銀行(NBC)の金融政策については、引き続き正常化の方向を継続すべきとしています。特に、不動産関係等の不良債権を注意深く監視し、銀行の健全性維持を図る必要があるとしています。中央銀行の規制・監視が十分に浸透していないノンバンク等による不動産向け融資については、監督を強化する必要があると提言しています。
 長期的課題として、成長を確保するために、人的資本を育成し、海外直接投資を誘致する必要があるとしています。そのためにも、物流等のハードインフラとデジタルインフラの拡充を促進すべきと提言しています。
 AMROとCMIMは、アジア通貨危機の際の国際通貨基金(IMF)の対応が失敗続きであったために、日本が主導して設立したアジア版IMFです。2016年の設立協定発効以降、活動を本格化しており、アジアの視点に立った経済分析・監視を実施していくことが期待されます。

AMROの新聞発表(英文です)
https://amro-asia.org/amros-2024-annual-consultation-report-on-cambodia


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アジア開発銀行 カンボジアの地方上水・衛生改善を支援

2024年09月12日 | 経済
 8月30日、アジア開発銀行(ADB)は、カンボジアに対し、9360万ドル(約133億円)の支援を供与することを承認しました。対象となるのは、地方上水衛生改善セクター開発プログラムで、対象9州の農村部において安全で管理された手頃な価格の飲料水、衛生サービス、衛生施設へのアクセス改善を目指すとしています。支援の内訳は、アジア開発銀行の借款9000万ドル、日本特別基金(贈与)300万ドル、技術支援60万ドルとなっています。
 カンボジアでは、水供給、衛生、衛生サービスへのアクセスが大きく改善されてきました。改善された水供給へのアクセスが2015年の77%から2020年には85%に、改善された衛生設備へのアクセスが60%から77%に、基本的な衛生サービスへのアクセスが67%から74%に改善しました。
 しかし、農村部と都市部の間には大きな格差があり、カンボジアの農村部の改善は、都市部に遅れをとっています。2020年、水道水へのアクセスは都市部80%に対し、農村部では17%でした。農村部の住民のほとんどは浄化槽とトイレを使用しており(64%)、下水道に接続されているのは6%のみとなっています。都市部の下水接続率は48%でした。
 カンボジアでは、道路や港湾、電力、通信等のインフラの改善が進められています。これと同時に。都市部だけでなく農村部での社会インフラの整備が課題となっています。アジア開発銀行や日本の支援を得つつ、カンボジア政府がこうした課題に取り組んでいくことが期待されます。

アジア開発銀行のサイト
https://www.adb.org/projects/55220-001/main


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中央銀行 不良債権対策を再導入 預金準備率の維持も表明

2024年09月11日 | 経済
 8月21日、中央銀行であるカンボジア国立銀行(NBC)は、金融機関の健全性を維持しつつ貸付を促進する政策に関する通達を発出しました。この通達では、資本保全バッファー比率を2025年末まで1.25%とする、リエル建ての預金準備率を2025年末まで7%で維持する、返済が困難になっている借入人の債務条件緩和を許可するという3政策が通達されました。
 資本保全バッファーは、自己資本の最低所要比率に加算されるもので、国際的なバーゼル規制では2.5%となっていますが、カンボジアでは1.25%となっています。今回の通達では、2025年末までこの比率を引き上げないと表明することにより、金融機関が貸付に回す資金を増やす効果があるものと見られます。
 預金準備は、預金引き出しに備えて預金の一定割合を金融機関が準備しておくものです。カンボジアではリエル建ての預金の準備率は7%ですが、これも2025年末まで引き上げないと表明することで貸付を後押しする効果が期待されます。
 返済が困難になっている借入人の債務条件緩和については、新型コロナ対策として実施されていましたが、2022年6月に終了していました。その再導入を許可したものです。詳細については、8月29日に更に通達が発出され、こちらも2025年末まで規制緩和を継続すると表明されています。
 カンボジア経済のエンジンである縫製品等の輸出は回復しつつありますが、建設・不動産不況は深刻な状況が続いています。観光業も、新型コロナの影響からの立ち直りが遅れています。こうした中で、金融機関では不良債権比率が高まってきており、新規貸し付けが伸び悩んでいました。
 カンボジアは高度にドル化した経済であるため、中央銀行が実施できる金融政策には限りがありますが、金融機関が貸付を伸ばすマインドを後押しする今回のような政策は効果があるものと期待されます。カンボジア国立銀行の地道な努力が継続されることが期待されます。
(写真は、商業銀行最大手のACLEDA銀行本店)

カンボジア国立銀行のフェイスブック(クメール語)
https://web.facebook.com/nationalbankofcambodiaofficial/posts/pfbid0vsNt14QoxNSpKaoy5nC1R3yN7s5diMhZGohVytD5MToTagmCh9SpaN7dHGfNnxNWl


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日本政府 プノンペンの送配電網整備に80億円の円借款供与

2024年09月10日 | 経済
 9月6日、プノンペンにおいて、植野篤志大使と、ソック・チェンダ・サオピア・カンボジア王国副首相兼外務国際協力大臣との間で、プノンペンで変電所及び送電線・配電線を新増設するための「プノンペン首都圏送配電網拡張整備事業(フェーズ2)(第三期)」向けの円借款(供与限度額79億8800万円)に関する書簡の署名・交換が行われました。
 借款の供与条件は、金利は変動金利(TORF+0.4%。コンサルティングサービス部分は年0.4%)、償還期間30年(10年の据置期間を含む)という大変譲許的なものです。
 プノンペン首都圏送配電網拡張整備事業では、電力需要が集中する首都プノンペンにおいて、変電所の新増設、送配電線の整備及び系統安定化装置等を導入します。2015年3月に第一期(供与限度額38億1600万円)、2018年1月に第二期(供与限度額92億1600万円)として円借款を供与しており、今回はそれに続く第三期の供与となります。
 この事業により、送変電・配電設備の容量不足が解消され、日本の約100倍以上となっている一戸あたりの停電回数と停電時間が格段に減少し、首都プノンペンの電力供給の安定化が図られます。送電ロスについても約10%削減し、気候変動緩和に資することが期待されます。また、カンボジアでは、プノンペン近郊の経済特別区を中心に日系製造業の進出が増加しており、入居する日本企業にも裨益することが期待されるとしています。
 カンボジアに進出する日系企業にとって、電力の安定供給や電力料金の水準は重要なポイントの一つとなっています。こうした課題に対応するカンボジア政府を日本の円借款が支援することは大きな意義があるものと見られます。
(写真は交換公文署名式典。AKPより)

外務省の発表
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/pressit_000001_01134.html


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