橋本治とナンシー関のいない世界で

「上野駅から夜汽車に乗って」改題
とうとう橋本治までなくなってしまった。
平成終わりの年にさらに改題してリスタート。

9・11に思う 国際社会のスケープゴート・アフガニスタンにそろそろ平和を

2010-09-12 09:11:49 | 中東・アフガニスタン
今日は9年目の夏。日本ではもう12日になったが、ニューヨークはまだ11日の夜だ。数時間前、CNNでは追悼式典をやっていて、オバマやミシェル、あのブッシュ夫人までスピーチしていた。アメリカでは9・11を前にグラウンドゼロ近くのビルの中にモスクを造るかいなかが連日ニュースを席巻していてデモも行われていた。中間選挙への思惑もあるのだろうが、アフガニスタンで戦渦に怯える人々のことを思うと、NYの人には悪いが、いかばかりかと思えた。
アフガニスタンには更に増派が行われることになっていて、事態は泥沼化するばかりなのだ。

そんな中、日本では先日、アフガニスタンで武装勢力に拘束されていたフリージャーナリストの常岡浩介さんが解放され帰国した。
今回は、やはりアフガニスタンについて考えたい。

常岡さんによれば、犯人はタリバンではなく、クンドゥズのラティフ司令官とタハールのワリーという、現地の腐敗した軍閥集団だという。
さらに、その軍閥ラティフは、ヒズビ・イスラミ(イスラム党)の中で、カルザイ大統領の顧問であるサバアウン大臣の部下にあたり、政府の人間として堂々と暮らしているらしい。

つまり、政府関係者が、日本人を拉致して日本政府を脅したという事。

軍閥って何?という方に一応簡単に説明すると・・・
アフガニスタンではソ連のアフガン撤退以降、タリバンが登場する以前から、各地域に軍閥が群雄割拠する内戦状態だった。強盗やレイプを行うものもいて治安は悪かった。軍閥は山賊みたいなもんだ。そこにタリバンが登場して厳しくとりしまり、一気に人心をも掌握し権力を奪取したわけだ。治安はよくなったが、あまりの制裁の厳しさに人権侵害との声が上がる。
両者どっちもどっちなんだが、9・11のテロとの関係から、タリバンのみが悪者になった。タリバンに敵対して戦った軍閥の悪行は見過ごされ、米軍の攻撃開始当初は英雄視さえされた。タリバンがいなくなった後、こうした軍閥が集まって暫定政府が作られ、政府のポストはこうした軍閥の幹部が占めることになる。

常岡さんは、犯人グループが日本大使館に連絡した際、電話で話したそうだが、
「犯人はタリバンだと言え」と言われていたそうだ。常岡さんは、その通りに言いはしたが、一方で、彼らに分からないような日本語で、彼らがタリバンではない旨をなんとか伝えた。
それでも、「犯人はタリバン」とメディアで報じられたのは、本当の事が報じられると常岡さんが言う通りにしなかった事がバレて、命が危険に晒される可能性があったからだろう。事実は知らないが、普通に考えたらそうだ。

そして、犯人が「政府と関係がある人物」であったことが、日本政府が身代金を払う事無く、常岡さんの解放につながった理由でもあるように思う。

日本政府は、アフガニスタン政府に5年間で50億ドルもの支援を表明しているのだ。アフガン政府にとって日本を怒らせてなんら良い事は無い。
「常岡さんが殺されたら、政府の関係者が日本人を拉致したとばらして、支援ストップするぞ」とカルザイに伝えれば、カルザイは当然、犯人グループに常岡さんを解放するよう圧力をかけるんじゃないだろうか。今頃ラティフはこっぴどくどやされているに違いない。
私の勝手な想像ではあるが。

とはいえ、今回の常岡さんの証言で、アフガニスタン政府がいかに腐敗しているかということがわかったわけだ。

これまでも、情報としては、アフガン政府が腐敗しているという話はぽつぽつ報じられていた。私がかつて担当したテレビ番組で、専門家にそういう話をしてもらったこともある。しかし、世の中の「タリバン=悪者」というイメージが大きすぎて、アフガン政府内部では腐敗した軍閥が跋扈し、彼らが「タリバンの名を語って」悪事の限りを尽くしているということは、なかなか周知されなかったのも事実だ。
現在、麻薬となる芥子の生産は世界の9割がアフガニスタンで行われているが、この麻薬の栽培は、タリバンが支配していた時期には数分の一に激減していた事は、国連の調査でも明らだ。これは当時政権を掌握したタリバンが麻薬栽培を撲滅しようとした結果だ。なのに欧米のメディアは、現在の麻薬栽培の犯人がタリバンであるかのように報じている。
そうした現地状況への無理解と、米軍の空爆などで家族を失う人が増えて反米意識が高まるに連れ、タリバン自体もどんどん強硬になってきて、問題の解決を遠ざけている。

常岡さんは、タリバン幹部のザイーフ師と何度も会見しているが、そこでザイーフ師は、政治腐敗や麻薬ビジネスの復活の問題の根源は(アメリカによる)占領だと語っている。ザイーフ師はさらに、復興支援の名の下に多くの国や団体がアフガニスタンを訪れているが、占領という現実を追認・正当化し延命させるような支援を認めないとも語る。(常岡さんの日記「The Chicken Reports」’10年3月23日今年のザイーフたん より)これ、とりあえずは出て行けってことだろう。

上記のサイーフ師の話は、今年3月に行われた常岡さんとの会見で語られたものだが、常岡さんはこの1年前にもザイーフ師に取材しており、私が当時働いていた番組にも売込みがあった。私は、是非にとり上げるべきだと主張したが、制作費がないということなどを理由にスルーされた。それは報道局の他の番組でも同様だったようで、結局、ザイーフ師取材は放送されなかった。
今年の常岡さんの日記を読んでも分かるが、彼は決してタリバンに肩入れしているわけでもなく、批判すべき部分は批判している。決してタリバン寄りの番組にはならなかったはずだ。

マスメディアがこんな状況で、本当のアフガニスタンの状況が伝わるわけもない。

イラクからアメリカの戦闘部隊が撤退した今、アフガニスタンは世界最大の戦闘地域と言っていい。しかし、タリバンの支配地域はすでに全国の8割以上と言われている。アメリカは泥沼化する状況に疲弊し、早く出て行きたいのが本音だろう。そして、周辺の中国やインド、ロシアなどの諸国は、そんな疲弊したアメリカ撤退後を虎視眈々と狙っている。
実は、今年に入って、アフガニスタンにはレアメタルが1~3兆ドルも埋もれているということが報道されている。
カルザイ大統領は訪日した際に、「日本は巨額の支援をしてくれているので、アフガニスタンに眠る資源を優先的に開発する権利がある」というようなことも日本政府に語ってもいる。

もし、この資源埋蔵の話が事実だとしたら(ペンタゴンがそう言っているのだが、ペンタゴンだけに裏が無いとも限らない)、一見、日本にとっていい話のようにも思える。しかし、この利権を奪い合い、腐敗したアフガン政府はさらに腐敗し、当然のごとく、タリバンとの和解も困難になり、さらに利権をめぐっての軍閥同士の対立も激しくなるのではないか。もちろんその向こう側には大国の影が見える。そうなると日本も資源開発とか軽々しく言ってられないだろう。

また、そもそもタリバンを生み、そして今、国内にタリバンが勢力を広げているパキスタンが、大洪水に見舞われいまだに復旧のメドが立たないことも、このアフガニスタンの問題に影響を与えると思われる。

どっちにしろ、政府が腐敗から脱し、さらにタリバンも含めた国内の和解をもたらすための方程式はあまりに複雑過ぎるのだ。

しかし、状況がどんなに複雑だろうと、国際社会にはアフガニスタンに平和をもたらす責任がある。

ソ連のアフガン侵攻以降、戦闘によって荒れ果てた大地の上で、干ばつに見舞われながら、軍閥同士の内戦、つづく911後の多国籍軍とタリバンの戦闘、そして現在、政府軍も加わって戦闘は激化の一途をたどり、アフガニスタン国民の中では、平和な時代を全く知らない世代が大勢を占め始めている。

彼らは、国際社会のスケープゴートだ。

私が中学校に上がる年、モスクワ五輪があった。ブラウン管の中で、ソ連のアフガン侵攻に抗議して五輪をボイコットした日本の代表選手が肩を落とす姿を憶えている。
マラソンの瀬古利彦は絶頂期だったし、女子バレーも強かった頃だ。当時の私は、その向こうにあるアフガン侵攻の意味なんて分かっていなかったけれど、あのソ連の侵攻によって、それまで緑豊かだったアフガニスタンの大地は、干ばつの続く荒れた大地に変わった。ソ連がカレーズと呼ばれる地下水脈を埋める作戦を行っためだ。

テレビの仕事をしていたとき、過去の映像素材を検索すると、ソ連の侵攻以前、天皇陛下が皇太子時代、美智子妃といっしょにカブールを訪問している映像が見つかった。町には新しい団地が立ち並び、緑豊かな風景だ。70年代までは、旅番組などもアフガンに取材に出かけている。取材車は、雪をかぶった山を目指して緑の間の一本道を走っていた。

タリバンが大仏を破壊したあのバーミヤン。
中華料理屋バーミヤンの桃のマークを思い出して欲しい。
あのバーミヤンはシルクロードの「桃源郷」だったのだ。

私たち日本国民の税金50億ドルは、アフガニスタンの平和のために提供されるはずだ。しかし、今回の常岡さんの拉致で政府の腐敗があらためて明らかになった。日本政府は、その使い道の監視など、支援の仕方はあらためてよく検証すべきだ。
アフガニスタンに対する日本の支援パッケージの実施状況(外務省)
政府の腐敗とかいうことを考えると、この中にある警察官の給与とか、微妙なんじゃないかと思う。

いっそのこと腐敗した軍閥につながる政府など通さず、ぜーんぶ、中村哲医師がやっているような一般市民が行うインフラ事業に直接投資してはどうか。もちろんお金の使い方に政府は一切口出さないで。
NGOなどからは、常に、復興支援のお金の使い道が現地の実態に合っていないとの批判の声が聞こえる。ここでも「ひも付き」の弊害があるのだ。
政府は、現地を知る人の声に謙虚に耳を傾け、少ない財源から拠出される私たちの税金を本当に役に立つ形で使って欲しい。

今月24日に、日本国際ボランティアセンター(JVC)が、アフガニスタン現地スタッフによる現地報告会を行う。
JVCアフガニスタン現地報告会の詳細はこちら











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