橋本治とナンシー関のいない世界で

「上野駅から夜汽車に乗って」改題
とうとう橋本治までなくなってしまった。
平成終わりの年にさらに改題してリスタート。

暑かった…ワールドハピネス2013

2013-08-17 22:17:12 | Weblog

暑い…、暑すぎる。

「自然の猛威に逆らって、ここまでして音楽を聴かねばならないものだろうか…。」正直、そんな疑問が頭をもたげた12時半。開始時点で「命あっての物種」という言葉がよぎる。そう思ってしまう程、今年の暑さは尋常ではなかった。

つまらなかったわけじゃない。というのも、楽しさは空が曇り始めた夕刻とともにやって来たからだ。それまでの炎天下の演奏は、どうしても「暑い」が先に立って判断不能。

まわりには長袖、腕袋、頭にタオル、大きな麦わらという完全防備の女性多数。見てるこっちが暑い。向こうからは異様にたるんだ日焼け肌を晒した短パン一丁のおじさん。汗といっしょに腹が垂れてる…。普段はおしゃれであろう人も、もう暑さに対してはなりふり構わずだった.

演者も還暦周辺の方多数。真っ昼間に登場した高橋幸宏の表情は主催者なのにげんなり。シンバルの上で目玉焼き焼けるよねという掴みのトーク。演者から「暑いからもう止めない?」とは言えないだろうけど、ちょっと言って欲しかった。刻苦勉励、隠忍自重とか、部活中水飲むな!的なものとは最も縁遠そうなワールドハピネスのメンバーには、あまり「がんばって」ほしくない。もちろん、本当に止められるのは嫌なんだけどね。

高橋幸宏の演奏の頃は最も暑かった時間帯だった。本当なら涼しさを届けてくれるはずの軽やかなドラムスが熱い空気の壁に阻まれて、音が風に乗り切らない。涼しげな音は、フライパンに落ちた水滴のようにすぐジュッとなって熱気に変わってた…。

 

音楽は自然の猛威に勝てるのか!

これがのっけから今回のテーマとなってしまった。

強烈な太陽に照らされて、数万人の人間が集まって、舞台には照明、PA機材、巨大なマルチビジョン。頭の中には、エレクトロニクス文明が太陽に負けた…とか、近代が生んだ文化と産業は自然を凌駕することはできはしない…とか、都会って結局何?とか、もうありとあらゆる近代批判の言葉が怒濤のように浮かんで、曲に集中してる暇がない。頭の中は周りの人には見えないからいいが、いい感じの音楽に揺れながら、実はこんなこと考えてるなんてどうかしてる。

誰のせい?それはあれだ…猛暑のせい!

今回はスチャダラパーも登場。とうぜんながらサマージャムも歌った。しかし「それはあれだ夏のせい」とか言ってられるのは、夏の暑さが尋常だった古き良き時代の話。いっしょに、それはあれだ夏のせい!と指振り上げる気力無し。

そして、今あらためて聞く「今夜はブギーバック」のバブル感。いや、そんな俺をクールに見つめるもう一人の俺的な90年代。まだ失われた実感が薄かった時代の歌。これが今の40代の懐メロなのだ。あれから失われっぱなしの日本。

おっさんになったようなならないようなスチャダラとまわりのスタンディングの群衆。久々に見たスチャダラ。ああこれが現代の懐メロ。

懐メロといえば、最後のおそ松くんバンドwithゲストの演奏はスチャダラのとはまた違った今の40代50代サブカル世代の“究極の”懐メロだった。歌は世に連れ…ってわけじゃないけど、心に残る名曲ぞろい。

矢野顕子と奥田民生がやった「ラーメン食べたい」。民生が歌詞を忘れたのはご愛嬌。矢野顕子のフォローが見られて、観客はかえって得した気分。小原礼をバックに従えて、奥田民生が歌ったミカバンドの「ダンス・ハ・スンダ」は、私にとっては今回のワーハピのベストプレイ。ボーカル奥田民生がはまりまくり。鈴木慶一、高橋幸宏と共に歌った大貫妙子の「LABYRINTH」も暮れ切った空の下で現代の幽玄。

日本の音楽もここまできたか(と、偉そうに言ってみる)。子供の頃に見たNHKの懐かしのメロディーで聞いた親の世代の懐メロとは隔世の感がある。昔も名曲はあった。でも、アレンジとか演奏とかノリとか…ここまで緻密でありながらしなやかに。その職人芸は日本の手仕事百選に入れたい。西洋の音階と楽器を使いこなして、思えば遠くに来たもんだ。この先俺たちゃどこに行く…そんな感じの現代の懐メロ。先日終戦の日、戦後68年。ホントに日本ってここまで来ちゃったんだなあ…。

現代のカリスマたちが揃った凄すぎる演奏は、天岩戸をこじ開けたどんちゃん騒ぎのお神楽で、そんな人の心を揺さぶる人気者を大昔、神と呼んだのだろうなあ…などと熱狂する群衆の中で揺れる。

 

で、結局、音楽は自然の猛威に勝てたのか…?

上記のカリスマたちの共演は夜風も吹き始め、夕闇降りた頃。もう自然の猛威に悩まされることもない時刻。じゃあ、暑い時間帯はどうだったのか…。

希望はきどらないおばさんにありました。

頭の中を埋め尽くした「暑い」という文字を一瞬忘れさせてくれたもの。それは、14時、一日で最も暑い時刻に登場した清水ミチコの笑いと毒。

今年のワーハピには、なんとユーミンも美輪明宏もドリカムも山達も参加してたのですよ!ユーミンが歌ったのは映画「風立ちぬ」で話題の「ひこうき雲」。似過ぎです。ああ、我々はベタには勝てない、思い出には勝てない…。もちろんそう思えるのは清水ミチコの芸と愛嬌があってこそ、ものまねする対象への愛あってこそ。

暑さを忘れさせるもの。暑さもここまでくると、それはクールで涼しげな音でも、暑さを凌駕するような爆裂音でもなくて、はじける愛嬌と生命力なのであると感じた瞬間でありました。

清水ミチコは続いて登場した矢野顕子と共演。矢野顕子もいつものアッコちゃんスマイル。たのしげに2人で歌う「丘を越えて」(清水ミチコは矢野顕子との共演でめっちゃ緊張してたけど、でも嬉しそうでした)。笑顔とともに風が吹きはじめました。

矢野顕子はこの暑さを、この先しばらく何があっても大丈夫と思える為の我慢大会と言ってましたが、本人は太陽にも負けてないんですよね。原始女は太陽だったを地でいく感じ。軽やかなピアノソロは、熱くてぎゅっと凝縮した高気圧のすき間を、音符たちが通り抜けて耳まで届く。そんな感じでした。

「海のものでも、山のものでも」、忌野清志郎のカバー「セラピー」、そして「いい日旅立ち」。どれも風景が見えて来る歌です。

初めて聞いた「セラピー」。人の心の中に分け入るような歌詞の歌は聞いてると自分が繭の中に閉じ込められたような気がするものですが、この歌は、その壁が透明になって、次第に融けて流れて、その先に街の風景がみえてくるような歌でした。そんな日本の風景を感じていたら、暑いけど、暑いなりに、いつのまにやらちゃんと音楽を聴いていました。

矢野顕子、はじめて外で聞いたけど、自然に溶け込む音というのがあるのだなあとしみじみしました。

自然に溶け込む音とそうでない音がある。今回のワーハピで印象に残ったことのひとつです。

あと、大貫妙子の「ファムファタル」があんなに良い曲だったと今頃気付きました。大貫さんは「細野さんの書いた」と前置きしてたけど、細野さんってホントにスゴイ。

そうそう、話題の小林克也(咲坂守)&伊武雅刀(畠山桃内)の登場に、スネークマンショーを知る人は沸いたわけですが、小林さんは、やたら「ジャパニーズジェントルマン、スタンダップ プリーズ」をくり返してました。「レディース、スタンダップ プリーズ」とも言っていた。

それはただの歌詞の一節ではなくて、現実に向けて本気でシャウトしているように見えました。もちろん他の人の歌だって、ただの歌詞ではないとは思いますが、このときの小林さんには何か切羽詰まったものを感じました。それは私が世の中に「スタンダッププリーズ」と言いたいからでしょうか。いや、自分に対して言いたいからなのかもしれない。

そんなわけで、自分でも説明し難い今回のワーハピ。

レキシも面白かったです。縄文土器、弥生土器どっちが好き? 学校時代を思い出すという意味ではこれも懐メロ?

結局、懐メロなフェスだったってこと?自分が年取ったってこと?

これだけたくさんのミュージシャンが登場すると、人によって随分見方は違うと思いますが、音楽にあんまり詳しくないけど、音楽は大好きで、いつも鼻歌歌ってる(このところ薬師丸ひろ子の歌にはまってます)私の感じた今年のワーハピです。

去年の、久々に見た岡村靖幸ほどの衝撃は無かったものの、やっぱり音楽ってすごいと思わせてくれるなんだかジワジワくるフェスでした。10月には岡村ちゃんライブ行きます!