埼玉の方から電話をもらったことがありました。
「親戚の者が三重に入院していて、胃がんなのですが、痛みと吐気で、何も口にできず、横になって寝られないようなんです。モルヒネは入っているのですが、効かないようです。胃の入り口になにか膨らんだものがあると言われていて。これから、私がそちらに伺いますから薬を出してもらいたいのですが」
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突然のことで驚きました。
三重に入院中の患者さんはもちろん診察にいらっしゃることはできません。膨らんだ物というのも何なのかはっきりわかりません。口から飲めないということは注射で症状コントロールを行うのですが、経口薬を処方してほしいとのお電話でした。もし、ご相談が必要な状況でしたら、主治医にお話頂いた後、情報提供書とCTなどの写真を借りていただき、セカンドオピニオンとして、こんな薬剤をこのように投与してみてくださいという返事を入院中の病院宛に書くことはできますとお返事をさせていただきました。
画像は見ていないので、何ともいえないのですが、多分、膿瘍または転移したリンパ腺が胃の噴門部にあり、疼痛を生じ、また、それが圧迫しているか腸閉塞等で嘔気が続いているのではないかと思いました。
このところ、何かしらの麻薬(オピオイド)が投与されていれば、それで緩和ケアは行われていると思っている医療者やマスコミの方に出会いました。麻薬さえ投与されていれば痛みは取れる、十分増やせば取れる・・と。WHOの除痛ラダーを見たことがあれば、それでは不十分であることが理解できると思います。ラダーには、非ステロイド性抗炎症薬や鎮痛補助薬を組み合わせて除痛していくことが書いてあります。
この三重の方であれば、まず非ステロイド性抗炎症薬(eq. ロピオン)を併用し、残った痛みが腹腔神経叢の痛みでないかどうか診断し、そうであれば鎮痛補助薬(eq. ケタミンかキシロカイン)を併用、さらに、ステロイドとサンドスタチンの適応がないかどうか判断、輸液量が適切かどうかを検討することができれば、かなりの苦痛は緩和されると思われました。
今日、昨日の記事にコメントをくださったemiさん。
『最期まで、本当に最期まで、痛みで叫んでいる状態でした。医師に上申しても、塩モヒの早送りとの指示だけだったように思います。私も新人時代で、その様子にとてもショックでした。いまも、忘れることができません。もっと、安楽に過ごしてもらえる方法ってなかったのかなって。正直、ターミナルの患者さんが怖くなりました。』
モルヒネだけで、痛みがとれなかった若い胃がんの女性を看護師になったばかりのころ、看取っていかれたのでしょう。医師が疼痛コントロールに熟知していないということは、患者さんだけではなく、働き始めたばかりの看護師さんにまで、辛さを味合わせてしまうということなのだと改めて感じました。多分、その若い胃がんの方も、モルヒネが効き辛い痛みの混在に対して、残念ながら医師に知識がなかったのだと思います。
緩和ケア病棟勤務歴があった医師は、流石によく皆勉強しています。
でも、一般病院の中では、その力量についてはかなり差が大きく、外科における手術数などのように指標になるものがありません。勉強してきたものが、施設を越えてコンサルテーションを受けるシステムがあれば・・と思う一方で、意図することが伝わりきれない場合の事故のリスクも高く、今は、認定看護師さんや緩和ケア医仲間や当院のレジだった医師との繋がりなどを頼りに、試行錯誤の状態が続いています。患者さんにも、emiさんにも、本当に申し訳ない気持ちで一杯です。何か今の自分にできることを見つけながら、前に進んでいけるように努力していきたいと思っています。
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今日も、お付き合いくださりありがとう。明日も、来て下さいね。
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。私も看護師としてできることを、もっともっと勉強していきたいと思ってます。なんだか、昔のことを思い出して、気持ちも初心に戻った気がします。ありがとうございました。これからもブログ楽しみにしてます。
外科医がマニュアルを見ながら出来る方法があるのか、それとも学会員になって試験を受けてようやく使えるような複雑な適応や手法があるのか、教えていただけますか。脳腫瘍の場合、患者様は意識が最終的にはないことが多いので問題になりませんが、肺や大腸癌の転移症例では術前術後の疼痛管理も必要となる可能性があります。
以下は私見ですので暴論があったらお許しください。
いくら渇望される方法論があっても、それを施行する人が限られていたら浸透しません。マニュアルがあればそれを共通語に全国レベルで緩和医療が出来るとは思いますが、それなしで知識や関心が低いといわれては少し困ります。
施行するには聞きかじりでは責任が負えないので、ぜひ啓蒙活動をお願いします。
緩和医療はもっと末期の疾患を不幸にしてわずらってしまった患者、一人一人に向き合う医療であると私は思います。
☆有賀先生、不適切ならば遠慮なく削除してください。出すぎたことを書いて、申し訳ありません。
勉強しようという原動力には何かしらのきっかけがあることが多いものかもしれません。その方の苦痛や苦悩を無駄にしないようにと。大変な思いをされたことをここでシェアしてくださり本当にありがとうございました。同じような経験を持った医療者にとって、大きな力となるのではないかと思います。
脳外科見習いさん
runaさんも書いてくださっていますが、沢山のガイドラインやマニュアルが出ています。フリーアクセスでいつでもどこでも手に入ります。また、病院機能評価を受ける病院では、その病院の緩和ケアマニュアルを作成することが必要になりますので、基本的なマニュアルを参考にして、各病院での手順書を作ってる病院も沢山あろうかと思います。
その一方で、emiさんやokaさんが書かれていることも特別なことではなく現実に起こっていることです。
それは、そうしたマニュアルをどのように使いこなすかということであったり、その手前のこともあり、我々は、互いに、そのギャップを埋める努力をしていかなければならないと思っています。分かり易い、使い易いなどには、先生方の前向きな意見が必要です。どうぞ、力を貸してくださいますように。
runaさん
コンサルテーションを始めて、学んだことがあります。ギアチェンジという言葉がありますが、これこそ、緩和ケア医に求められることなんだと思いました。経験も、考え方も、色々な医師がいます。それぞれの医師のニードにあわせられるように、いかに切り替えられるかが大切なんだと。患者さんに対して切り替え、家族にも切り替え、主治医などの医師にも切り替え、ギアはガタガタになりそうですが、サポーティブケアとしてチーム医療のノウハウは日本の医学教育にはなかったあらたな課題だと思っています。何か疲れてしまって、伝えたいことが伝えられているかよく分かりませんが、とにかく、コメントありがとう!
緩和医療の難しい点は、薬を調節して痛みをとるだけが仕事ではないところですよね。いくつもの科の壁や職種の壁、はたまた患者さんの家族との壁、いろんな壁にぶつかりながら、その壁を一つ一つ取り払っていくような仕事だなと感じたことがあります。
今は現場から遠く離れていますが、いつか、腰をすえて学ぶことができればと思います。
丁寧なお返事ありがとうございました。
コメントはご依頼にそうようにいたしました。物事を変えていくエネルギーには、怒りや落胆が背後にあることも多く、同じ経験をされている方がいることも事実だと思いました。それを一時的にも言葉にしてくださりありがとうございました。
runaさん
ホスピス創始者のシシリーソンダースさんは、先生と同じ事をおっしゃっていました。それを「橋を架ける作業である」と表現されており、いい言葉だなあと思いました。