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-初 任 務-
数日後、戦乙女騎士団に出動命令が下った。しかも、シグルーンより直接の命令である。
だが、団員の多くはその任務内容の詳細を聞いて拍子抜けした。
「家畜が行方不明になる」
──と。かつてのアースガルとクラハサードの国境付近にある村々で、家畜が行方不明になる事件が頻発しており、切羽詰まった住民からの陳情があったのだという。
「それは、獣の仕業ではないないのですか? 果たして獣退治tが騎士団の仕事なのでしょうか?」
団員からそんな不満の声が上がった。しかし実際の所、原因が獣ならばその対処は狩人に依頼すればいいというのも確かだ。
「それについては命令を出したお姫さんに聞いてくれないかなぁ……」
セシカも団員達の不満は尤もだと思うが、それを自分に向けられては堪ったものではない。それに──、
「ただね、それこそ獣の仕業ならば日常茶飯事っしょ。それなのにあえて騎士団に命令が下ったということは、何か意味があるんじゃない?」
そんなセシカの指摘もあながち間違いではあるまい。そしてなによりも、次期女王候補・シグルーンの勅命である。団員達は従うしかなかった。
「そんな訳で、直ちに遠征の準備に取り掛かってね。場合によっては長期間の遠征になるだろうから、そのつもりで」
翌日、セシカ率いる戦乙女騎士団17名は、馬車に乗り出立した。
早朝に王都を出立した戦乙女騎士団は、その日の夕方には目的地の村に到着する。
ウルトと呼ばれるその村の人口は数十人程度で、明らかに家畜である牛や馬などの家畜の数の方が数十倍は多い。
何処から見ても平和な農村であった。
「のどかだねぇ~」
馬車の外の風景を眺めながら洩らしたそんなセシカの独り言に、
「帝国侵攻の際には、略奪行為もあったと聞きますがね」
「……ウチは参加してないかんね?」
「だからと言って、同じ帝国軍に所属していたという事実は変わりません。村民にその素性を知られたとしたら、さぞかし嫌われるでしょうね」
団員の1人が難癖を付けてきたことにより、セシカはのどかな気分が霧散していくのを感じた。
彼女の名はリリィ・シュマイア。セシカに敵愾心を燃やす団員の中心人物の代表格である。貴族出身で気位が高く、セシカのことを下賤な庶民と見下しているフシがある。
まあ、セシカにしてみれば、このように直接突っかかるくるだけ、コソコソと隠れて嫌がらせをしてくる連中よりはマシであったが。
それにリリィの言葉は事実であるだけに、ある種の忠告ともとれる。ただ、あの戦いで命を落としたのは──、
「でもアースガル兵よりも帝国兵の方が死者数は多いかんね。それで侵略行為の免罪となる訳じゃ無いけれど、全員が好き好んで戦争に参加している訳じゃない。そんな者達まで一緒くたに『悪』と断じるような言い方はやめてくれないかな? ウチだって、仲間をベルヒルデに殺されている!」
馬車内の空気が凍り付いた。あの戦争では、不本意に徴兵された末に戦死した庶民も多い。そしてその家族は当然数倍の数に上る。結果的にはアースガルよりも大きな被害を受けたクラサハードの民の方が、強い反発心を持っているというのが現実である。しかし──、
「帝国が攻めてこなければ、必要のなかった殺生です!」
珍しく気色ばんで反論するセシカの様子に、リリィはややたじろぐが、かつての騎士団長の名前を出されては引く訳にもいかない。
「……それを言われると弱いんやけどねぇ。だからウチも、クラサハードの人達も我慢しているんよ。だけど我慢の限界があるというのも理解して欲しいかな。君達もアースガルを内戦状態にしたいなんて思って無いっしょ?」
「なっ!?」
聞きようによっては反乱も辞さないとでも言うかのようなセシカの言葉に、リリィ以下他の団員達も動揺した。
「でも、そんなことにならないようにする為に、お姫さんはウチを起用したのだと思っている。クラサハード人というだけで、不当な扱いを受けることが無い国だということを証明する為にね。そんなお姫さんの意向を無下にしないでもらいたいかな?」
「くっ……」
リリィもシグルーンの名を出されると弱い。彼女はまだ何かを言いたげに口を動かしたが、言葉にするのは抑えた。しかしその鋭い視線はセシカを見据えたまま、怒りを紛らわせる為か、頬の脇のに流れる金髪の房を指で弄んでいた。
セシカは居心地の悪さを感じながらも、窓の外に視線を移して、それを誤魔化すのであった。
次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。
-初 任 務-
数日後、戦乙女騎士団に出動命令が下った。しかも、シグルーンより直接の命令である。
だが、団員の多くはその任務内容の詳細を聞いて拍子抜けした。
「家畜が行方不明になる」
──と。かつてのアースガルとクラハサードの国境付近にある村々で、家畜が行方不明になる事件が頻発しており、切羽詰まった住民からの陳情があったのだという。
「それは、獣の仕業ではないないのですか? 果たして獣退治tが騎士団の仕事なのでしょうか?」
団員からそんな不満の声が上がった。しかし実際の所、原因が獣ならばその対処は狩人に依頼すればいいというのも確かだ。
「それについては命令を出したお姫さんに聞いてくれないかなぁ……」
セシカも団員達の不満は尤もだと思うが、それを自分に向けられては堪ったものではない。それに──、
「ただね、それこそ獣の仕業ならば日常茶飯事っしょ。それなのにあえて騎士団に命令が下ったということは、何か意味があるんじゃない?」
そんなセシカの指摘もあながち間違いではあるまい。そしてなによりも、次期女王候補・シグルーンの勅命である。団員達は従うしかなかった。
「そんな訳で、直ちに遠征の準備に取り掛かってね。場合によっては長期間の遠征になるだろうから、そのつもりで」
翌日、セシカ率いる戦乙女騎士団17名は、馬車に乗り出立した。
早朝に王都を出立した戦乙女騎士団は、その日の夕方には目的地の村に到着する。
ウルトと呼ばれるその村の人口は数十人程度で、明らかに家畜である牛や馬などの家畜の数の方が数十倍は多い。
何処から見ても平和な農村であった。
「のどかだねぇ~」
馬車の外の風景を眺めながら洩らしたそんなセシカの独り言に、
「帝国侵攻の際には、略奪行為もあったと聞きますがね」
「……ウチは参加してないかんね?」
「だからと言って、同じ帝国軍に所属していたという事実は変わりません。村民にその素性を知られたとしたら、さぞかし嫌われるでしょうね」
団員の1人が難癖を付けてきたことにより、セシカはのどかな気分が霧散していくのを感じた。
彼女の名はリリィ・シュマイア。セシカに敵愾心を燃やす団員の中心人物の代表格である。貴族出身で気位が高く、セシカのことを下賤な庶民と見下しているフシがある。
まあ、セシカにしてみれば、このように直接突っかかるくるだけ、コソコソと隠れて嫌がらせをしてくる連中よりはマシであったが。
それにリリィの言葉は事実であるだけに、ある種の忠告ともとれる。ただ、あの戦いで命を落としたのは──、
「でもアースガル兵よりも帝国兵の方が死者数は多いかんね。それで侵略行為の免罪となる訳じゃ無いけれど、全員が好き好んで戦争に参加している訳じゃない。そんな者達まで一緒くたに『悪』と断じるような言い方はやめてくれないかな? ウチだって、仲間をベルヒルデに殺されている!」
馬車内の空気が凍り付いた。あの戦争では、不本意に徴兵された末に戦死した庶民も多い。そしてその家族は当然数倍の数に上る。結果的にはアースガルよりも大きな被害を受けたクラサハードの民の方が、強い反発心を持っているというのが現実である。しかし──、
「帝国が攻めてこなければ、必要のなかった殺生です!」
珍しく気色ばんで反論するセシカの様子に、リリィはややたじろぐが、かつての騎士団長の名前を出されては引く訳にもいかない。
「……それを言われると弱いんやけどねぇ。だからウチも、クラサハードの人達も我慢しているんよ。だけど我慢の限界があるというのも理解して欲しいかな。君達もアースガルを内戦状態にしたいなんて思って無いっしょ?」
「なっ!?」
聞きようによっては反乱も辞さないとでも言うかのようなセシカの言葉に、リリィ以下他の団員達も動揺した。
「でも、そんなことにならないようにする為に、お姫さんはウチを起用したのだと思っている。クラサハード人というだけで、不当な扱いを受けることが無い国だということを証明する為にね。そんなお姫さんの意向を無下にしないでもらいたいかな?」
「くっ……」
リリィもシグルーンの名を出されると弱い。彼女はまだ何かを言いたげに口を動かしたが、言葉にするのは抑えた。しかしその鋭い視線はセシカを見据えたまま、怒りを紛らわせる為か、頬の脇のに流れる金髪の房を指で弄んでいた。
セシカは居心地の悪さを感じながらも、窓の外に視線を移して、それを誤魔化すのであった。
次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。