昔にみた映画とは、また違う。逮捕後の犯人を取調べる場面が重視されている。また、作曲家の作品そのもの、自供に追い込む取調べの刑事の生い立ちが語られ、父親が書いた絵とその裏に書かれた文章の力が語られる。
筋は知っているし、既視感があって、比較しながらみているのだが、それでも感動する。名作といわれる所以だろう。いろいろな描き方が可能なのである。
松本作品は、社会、人生の営みを題材にしているから、夢物語ではないし、ノンフィクションの香りさえある。
松本氏は、生前何処へ行っても、そこにいる人に、詳細な質問をしていたらしい。作家の姿勢が作品にそのまま現れている。現実に根ざしている作品であり、高邁な哲学を語るというのではないが、新しい分野を切り開いた作家である。
どこかで、読んだことがあるが、三島由紀夫などは、松本作品を、文学とは認めていないと言っていたらしい。
「金閣寺」をガマンしながら読んだが、作品の雰囲気は、確かに全然違う。松本作品は身近であり、生活に近いが、金閣寺にはそんな感じはない。特段の感動もない。しかし、そこにも「世界」がある。
結局は、どちらもいいと思う。片方だけでは、寂しい。いろいろあってうれしいのである。贅沢なものである。