サブプライムローンに関する面白い記事です。
米国のサブプライムローン(信用力の低い個人を対象にした住宅融資)問題
に端を発した世界的な金融不安は、私の記憶する限り、
アジア危機、ロシア危機、ハイテクバブルなど
1990年代から2000年初頭にかけて起きたいずれの危機よりも深刻だ。
金融技術の発達でリスクが世界中に広く薄く分散されている分だけ、
問題の所在がはっきりせず、得体の知れない気持ち悪さがある。
もちろん、日本も対岸の火事とは言っていられないだろう。
そんな中、先頃、野村ホールディングスが米国のサブプライム絡みの
証券事業で、726億円の損失を出したと発表した。
日本の金融機関がこの問題で損失額を公表したのはこれが初めてだ。
私はこのニュースを聞いて「野村は日本の金融機関の中では
グローバル化の進んだ会社だ」と思った。
あまりに少ない邦銀の損失
損失を出した会社を褒めるのは変な話だが、現在の世界金融の実態
を踏まえれば、大手金融機関が規模の大小はともかく、
サブプライム問題に関わっていないはずはない。
米国の住宅ブームを後押ししてきたのが、ローンを証券化する仕組みであり、
サブプライムの債権は証券化を通じて、世界中の投資家に購入されてきた。
世界の流動性のうち、このところ急速に拡大してきたのは、
この証券化商品やデリバティブ(金融派生商品)など、
少ない投資で大きな取引を行うレバレッジ効果の大きいものだった。
米モルガンスタンレーによれば、1990年に世界の流動性は
5.7兆ドルの規模でしかなかったが、2006年末の時点では
これが415兆ドルに拡大している。そのうち9割はデリバティブや
証券化商品が占める。つまりグローバルに事業を展開している
大手金融機関ならば、これらの商品をポートフォリオに組み込んでいるのが、
ごく自然な姿なのだ。
野村の発表後、三菱UFJフィナンシャル・グループや
三井住友フィナンシャルグループなど邦銀大手も相次いで
サブプライム関連の損失を発表したが、いずれも数億~数十億円程度だった。
もっとも、野村は米国で住宅ローン会社からローン債権を買い取り、
投資商品に組み替えて投資家に直接、販売している立場にある。
こうした商品に投融資しているだけの邦銀大手よりも、
損失額が大きいのは当然だろう。
ただ、いずれにせよ日本の金融機関は欧米に比べると
損失額がはるかに少ないというのが、私の率直な実感だ。
「ほんとにその程度で済むのだろうか」という思いが半分。
そして、もしこの程度の損失額だとしたら、日本の金融機関は
グローバル化した現在の金融市場で孤立した存在だという思いが、半分である。
損失を出さなかったことを自慢しがちな日本の経営者
かつて日本でバブルが崩壊した時、「当社は財テクには手を出さなかった」
と胸を張る経営者がいた。今回も同様に、「
サブプライムなんて危ない橋は渡らなかった」と力説する
日本の経営者が出てきそうだ。しかし、それは見方を変えれば、
「世界の潮流から取り残されているドメスティックな金融機関」
であることを誇示しているようなものである。
欧米の金融機関の多くは、こうした金融商品で過去に莫大な利益を稼いできた。
そして今回の信用収縮で損失を出したといっても、
その多くは会社が揺らぐほどのものではない。
こうしたハイリスク・ハイリターンの商品に対し、
リスクを承知でポートフォリオに組み込んできた欧米の銀行と、
消極的だった邦銀。その結果、「損失額が少ない」と
胸をなで下ろしているのだとしたら、時代錯誤だろう。
日本人はとかく、失敗しなかったことを自慢する傾向があるが、
失敗しなかったという結果の裏には、リスクを恐れてビジネスチャンスを
逃していたという事実が隠れていることが多い
。このようにサブプライム問題からは、邦銀の国際化のレベルが透けて見える。
今後、日本の金融機関からは、サブプライム絡みの損失が追加で
公表されると思うが、その額から邦銀の国際化レベルを推し量るというのも、
面白い見方だろう。
為替は1ドル110~115円が日米双方にとって心地よい
もう1つ、最近の金融不安の関係で気になるのが、為替の動きだ。
信用収縮を背景に一時、円高が急速に進んだ。FRB(米連邦準備理事会)の
公定歩合引き下げに関係して、日本銀行が金融政策をどのように舵取りし、
それによって為替がどのように上下するのかは予想しにくい。
持論としては、円ドルレートは1ドル110~115円の間に収めるのが、
日米双方にとって都合がよい。仮に来年、民主党政権が誕生した場合、
1ドル120円台の水準になっていると、日本叩きが始まるのは免れないだろう。
米国の政治家たちにとって外交上の最大の関心事である
中国の台頭問題を取り上げるためにも、円安は放置できない状況にある。
中国の為替政策を批判すると、決まって中国政府からは
「我々を批判するくらいなら、まず先進国である日本を批判すべきだ」
と返ってくる。「円安が続く限りは、中国批判はやりにくい」と
米国の政治家は感じている。
かといって、あまりにも急激に円高が進めば、今度は日本の輸出産業が
苦しくなる。そこで1ドル=110~115円が妥当な水準と考える。
この水準なら日本の自動車部品メーカーにとっては想定レートの範囲内で
行き詰まることはまずない。サブプライム問題はある意味で日本の金融機関、
そして輸出産業の国際競争力を占うイベントになっている。
米国のサブプライムローン(信用力の低い個人を対象にした住宅融資)問題
に端を発した世界的な金融不安は、私の記憶する限り、
アジア危機、ロシア危機、ハイテクバブルなど
1990年代から2000年初頭にかけて起きたいずれの危機よりも深刻だ。
金融技術の発達でリスクが世界中に広く薄く分散されている分だけ、
問題の所在がはっきりせず、得体の知れない気持ち悪さがある。
もちろん、日本も対岸の火事とは言っていられないだろう。
そんな中、先頃、野村ホールディングスが米国のサブプライム絡みの
証券事業で、726億円の損失を出したと発表した。
日本の金融機関がこの問題で損失額を公表したのはこれが初めてだ。
私はこのニュースを聞いて「野村は日本の金融機関の中では
グローバル化の進んだ会社だ」と思った。
あまりに少ない邦銀の損失
損失を出した会社を褒めるのは変な話だが、現在の世界金融の実態
を踏まえれば、大手金融機関が規模の大小はともかく、
サブプライム問題に関わっていないはずはない。
米国の住宅ブームを後押ししてきたのが、ローンを証券化する仕組みであり、
サブプライムの債権は証券化を通じて、世界中の投資家に購入されてきた。
世界の流動性のうち、このところ急速に拡大してきたのは、
この証券化商品やデリバティブ(金融派生商品)など、
少ない投資で大きな取引を行うレバレッジ効果の大きいものだった。
米モルガンスタンレーによれば、1990年に世界の流動性は
5.7兆ドルの規模でしかなかったが、2006年末の時点では
これが415兆ドルに拡大している。そのうち9割はデリバティブや
証券化商品が占める。つまりグローバルに事業を展開している
大手金融機関ならば、これらの商品をポートフォリオに組み込んでいるのが、
ごく自然な姿なのだ。
野村の発表後、三菱UFJフィナンシャル・グループや
三井住友フィナンシャルグループなど邦銀大手も相次いで
サブプライム関連の損失を発表したが、いずれも数億~数十億円程度だった。
もっとも、野村は米国で住宅ローン会社からローン債権を買い取り、
投資商品に組み替えて投資家に直接、販売している立場にある。
こうした商品に投融資しているだけの邦銀大手よりも、
損失額が大きいのは当然だろう。
ただ、いずれにせよ日本の金融機関は欧米に比べると
損失額がはるかに少ないというのが、私の率直な実感だ。
「ほんとにその程度で済むのだろうか」という思いが半分。
そして、もしこの程度の損失額だとしたら、日本の金融機関は
グローバル化した現在の金融市場で孤立した存在だという思いが、半分である。
損失を出さなかったことを自慢しがちな日本の経営者
かつて日本でバブルが崩壊した時、「当社は財テクには手を出さなかった」
と胸を張る経営者がいた。今回も同様に、「
サブプライムなんて危ない橋は渡らなかった」と力説する
日本の経営者が出てきそうだ。しかし、それは見方を変えれば、
「世界の潮流から取り残されているドメスティックな金融機関」
であることを誇示しているようなものである。
欧米の金融機関の多くは、こうした金融商品で過去に莫大な利益を稼いできた。
そして今回の信用収縮で損失を出したといっても、
その多くは会社が揺らぐほどのものではない。
こうしたハイリスク・ハイリターンの商品に対し、
リスクを承知でポートフォリオに組み込んできた欧米の銀行と、
消極的だった邦銀。その結果、「損失額が少ない」と
胸をなで下ろしているのだとしたら、時代錯誤だろう。
日本人はとかく、失敗しなかったことを自慢する傾向があるが、
失敗しなかったという結果の裏には、リスクを恐れてビジネスチャンスを
逃していたという事実が隠れていることが多い
。このようにサブプライム問題からは、邦銀の国際化のレベルが透けて見える。
今後、日本の金融機関からは、サブプライム絡みの損失が追加で
公表されると思うが、その額から邦銀の国際化レベルを推し量るというのも、
面白い見方だろう。
為替は1ドル110~115円が日米双方にとって心地よい
もう1つ、最近の金融不安の関係で気になるのが、為替の動きだ。
信用収縮を背景に一時、円高が急速に進んだ。FRB(米連邦準備理事会)の
公定歩合引き下げに関係して、日本銀行が金融政策をどのように舵取りし、
それによって為替がどのように上下するのかは予想しにくい。
持論としては、円ドルレートは1ドル110~115円の間に収めるのが、
日米双方にとって都合がよい。仮に来年、民主党政権が誕生した場合、
1ドル120円台の水準になっていると、日本叩きが始まるのは免れないだろう。
米国の政治家たちにとって外交上の最大の関心事である
中国の台頭問題を取り上げるためにも、円安は放置できない状況にある。
中国の為替政策を批判すると、決まって中国政府からは
「我々を批判するくらいなら、まず先進国である日本を批判すべきだ」
と返ってくる。「円安が続く限りは、中国批判はやりにくい」と
米国の政治家は感じている。
かといって、あまりにも急激に円高が進めば、今度は日本の輸出産業が
苦しくなる。そこで1ドル=110~115円が妥当な水準と考える。
この水準なら日本の自動車部品メーカーにとっては想定レートの範囲内で
行き詰まることはまずない。サブプライム問題はある意味で日本の金融機関、
そして輸出産業の国際競争力を占うイベントになっている。