社長の独り言

資産運用コンサルタントの社長日記です

傍目八目

2007-05-29 08:49:43 | 日常
宋文洲さんの「傍目八目」から面白いコラムを
紹介します。


20年前、来日したばかりの時、日本はカラオケの全盛期でした。
マイクを握って酔いしれるサラリーマンの姿を見て「恥ずかしくないか」
と私は思いました。当時の中国では娯楽が少なく、
音楽に合わせて歌うのは俳優でないといけないと思っていました。

 カラオケの店に連れて行ってくれた知人に
「これを中国に紹介するときっと流行るよ」と言われましたが、
「中国の文化には、きっと合わないでしょう」と考えもせずに答えました。

 その3年後、中国の生まれ故郷に帰省する機会がありました。
そこで見たのは、村の人たちがカラオケに興じている姿でした。
小さな子供が簡易なカラオケセットで親と一緒に歌っているところを目撃すると、
何ともなしに裏切られた気分になりました。
「冷たいご飯の塊など、中国人はわざわざ買って食べない」
と思っていたのですが、上海ではおにぎりがすっかり人気製品になったのを、
昨年知りました。


中国の知人に見られた「かつて日本のサラリーマン」

 先日、中国銀行の知人と雑談しました。
「次にどんなところに転職するつもりか」と彼に尋ねたところ、
「退職までここで働くよ」と意外な答えが戻ってきました。
彼は起業も経験し、転職も経験したやり手です。
まさかこのまま中国銀行にとどまることはない、と思っていました。

 私が「信じられない」という顔をしているのを見ながら、
彼はゆっくりとしゃべり始めました。

 「ここの給料はそれほど高くはないが、手当てが充実していて、
場合によっては給料よりも額が多くなることもある。
また自分のような営業職は、営業利益の数パーセントを
特別ボーナスとしてもらえる。去年購入した自宅の頭金には、
このボーナスを当てた。でもそれだけが今の仕事を続ける動機ではない。
退職金は勤続年数に比例してどんどん上がる仕組みなので、
退職まで勤めないと損だから…」


年収で3倍の差をつける終身雇用はあるのか

 まるでどこかの国でよく聞くような話でした。
辞めないことだけで社員も会社も得するならば、
終身雇用を採用するのは自然な結果です。
ですが「辞めないだけで得するシステム」をもはや維持できなくなったから、
日本の終身雇用の中身は抜本的に変わろうとしています。

例えば、ある日本の会社は、終身雇用を維持しつつ
年収に大きな差をつける仕組みにしました。
この会社の経営者は著名な方です。
この会社では同年代でも最大3倍の年収の差をつけるケースがあるそうです。
これで終身雇用は成り立つのでしょうか。

 3倍の差をつけられても辞めない社員は、
企業にとって都合のよい格安労働力です。
よく思い出していただきたいのですが、旧来の終身雇用には
「給料は勤務年数を基に査定する」という「年功序列」の前提がありました。
「辞めないだけで得するシステム」が終身雇用の醍醐味でした。

 リストラですっかり企業への忠誠心を薄めた
社員たちのモラルを回復しようと多くの経営者は終身雇用を口にしますが、
それはもはや昔の終身雇用ではなく、「勝手に首にしないよ」
という程度のリップサービスです。


カラオケは文化で普及するのか

 30年前までの中国は、日本よりも強固な終身雇用制が敷かれていました。
当時の国営企業は絶対社員を解雇しないどころか、
職を勝手に変更することは国の政策によって禁じられていました。
こうした事情を考えると、私が最近、会って話をしてきた
中国銀行の知人が仕事を替えないのは「中国の文化」なのでしょうか。

 文化とは悠久なもので、長く人々の思考や行動様式を支配するものです。
すぐに変化してしまうものは、文化とは言えないでしょう。
経済と文化は切っても切れないものですが、経済と文化は別物です。
カラオケが中国で普及したのは、中国の文化が変容したというよりは、
経済の発展として見るべきでしょう。

 経済行為を文化論で解釈することは時折ありますが、
ほとんど後づけで強引なものです。日本でも中国でも、
その他の国でも、雇用形態を文化としてとらえるのは、
本質を見誤ると思います。

 終身雇用は日本の文化だとして、社員を低コストで働かせるのは
文化ではなく経済性の追求以外の何者でもありません。
それを文化という美的な感覚の言葉で表現するのは、偽善ではないでしょうか。