プロメテウスの政治経済コラム

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日航社内報で「沈まぬ太陽」批判 小倉寛太郎さんのこと 分裂・差別の労務政策は日航経営危機の根源

2009-11-05 21:50:22 | 政治経済
経営危機の再建にゆれる日本航空が、同社をモデルにした公開中の映画「沈まぬ太陽」(山崎豊子原作、若松節朗監督)を社内報で取り上げ、「当社を取り巻く厳しい経営状況が世間の注目を浴びている」なかで「企業として信頼を損なうばかりか、お客さま離れを誘発しかねない」と批判しているらしい(「時事通信」11月3日)。
JALは、映画化にも難癖をつけ、一度頓挫したが、角川ヘラルド映画製作によって08年夏にも公開されるはずが1年以上延び、今回、若松節朗監督・角川映画製作でやっと公開となった。残念ながら、私はまだ映画を観ていない。3時間22分の大作という。
映画の公開について、JALは、大マスコミに宣伝をしないように圧力をかけているらしい。マスコミの宣伝が抑えられているのはそのためという(「金曜アンテナ」『週刊金曜日』2009・10・23)。
政財界と癒着し、社員を分裂・差別で支配するのが、JALの昔からの抜き難い体質である。職場の社員が、一体感やチームワークを失っている会社の業績が向上するはずがない。小倉寛太郎さんは、そのことを身をもって示し、山崎豊子さんが“鬼の取材”(小倉さんの弁)をして、小説『沈まぬ太陽』が完成したのだった
社内報で映画を批判し、大マスコミに圧力をかける今も変わらぬJALを知ったら、小倉さんは、呆れ悲しむことだろう。もっとも、いつも自然体で堂々と生き抜いた小倉さんは、何があっても動じることはないだろうが・・・。

 日本航空の客室乗務員でつくる日本航空キャビンクルーユニオン(CCU)の組合員165人が賃金・昇格差別を受けたとして救済を申し立てていた事件で、東京都労働委員会は4日、不当労働行為と認定し、同社に対して差別是正と陳謝文の交付などを命じた(「しんぶん赤旗」2009年11月5日)。
2009年10月現在、日本航空インターナショナルには、地上職や整備職、パイロットや客室乗務員などの職種別に、会社側1組合、反会社側7組合の合計8つの労働組合がある。会社側、いわゆる御用組合が「JAL労働組合」(JALFIO、全日航)」である。「JAL労働組合」が管理職や一部社員から提供されたものを含む客室乗務員のプライバシーに関する情報(住所や生年月日のほか、思想、病歴、家庭環境、性格、容姿など約150項目)を収集・管理していた2007年の事件は記憶に新しい。
CCUの組合員に対する会社側と御用組合が一体となった差別攻撃は旧日本エアシステム出身者の冷遇ぶりに現れている。同社では日本エアシステム(JAS)と合併した2006年、JAS客室乗務員を日本航空の賃金体系2職級(低位)と3職級(高位)に振り分けた。ところが、3職級に格付けされたのは、御用労組のJAL労働組合(JALFIO)では90%にのぼるのに対し、CCU組合員はわずか27%。その結果、基礎賃金分だけで年間40万円もの格差が発生。責任者の資格を持ちながら賃金は低位で昇給もない有様である(「しんぶん赤旗」同上)。
賃金・昇格差別によって、労働者を支配するのは、JAL(そして多くの日本の大企業)の悪しき伝統である。

 『沈まぬ太陽』の主人公、恩地 元は、巨大企業・国民航空で労働組合委員長を務めていた。職場環境の改善のため会社側と闘った結果、恩地を待っていたのは懲罰人事ともいうべき海外赴任だった。パキスタンを皮切りに、イラン、そして路線就航もないケニアへ、転々と赴任を強いられていく。会社側は、本社勤務と引き換えに、恩地に組合からの脱退と謝罪を迫るが、恩地は任地での職務を全うすることで自らの信念を貫き通そうとする。
恩地 元の原型となったのが、元日本航空労組委員長の小倉寛太郎(おぐら ひろたろう)さんである。小倉さんによると、山崎豊子さんの取材申し込みに対して、「山崎先生の小説の題材には不適当だと思います」と最初は断ったそうだ。そしたら、「それは小説家であるわたしが考えることです」と言い、小倉さんが、「小説というのは、何かおもしろいこと、特別なことが題材でなければ・・」と言うと、「いや、あなたは特別な、非常に珍しい経験をしておられます」、「30年間、自分の信じたことを曲げないで生きて来られた」という。小倉さんがなおも、「僕は普通に生きてきた」「誘惑や脅迫に負けなかったことは、民主主義と人権感覚が確立されている、たとえばフランスのレジスタンスの人びとでは当り前でしょう、それが珍しいというのだったら、珍しがる社会の方がおかしいんです」と抵抗すると、山崎さんは「そうです。その社会がおかしいんです。そのおかしい社会をわたくしは描きたい。それにあなた協力してください」と説き伏せたそうだ(小倉寛太郎『自然に生きて』新日本出版2002)。

 小説に描かれた昭和30年代、日本の大企業は、労働者階級をいわゆる「企業社会」に統合する過程を歩み始めた。定年まで面倒見る、そのかわり企業に忠誠を誓い、「過労死」も厭わず、企業の発展に身も心もささげることを強要することとなった。労働者の権利や自立した人格を主張する労働者は会社の敵であり、会社の発展を願う労働者の敵として分断・差別する。労働組合も会社のいいなりにならない労働者を排除し、第二組合、御用組合が主流となる

小倉さんによると取材の途中で、山崎さんのスタッフが「ねえ先生。もうこの話やめましょうよ。これを小説にすると、まず会社に憎まれ、自民党ににらまれ、運輸省に恨まれる。」というと、山崎さんは「正論が正論として通る世の中にするために、わたしはこの小説をどうしても書きます」といったそうだ(小倉 同上)。
映画「沈まぬ太陽」の若松節朗監督は、「今、こういう映画を作らねばいけないと思った」と言い、利潤第一の大企業、それに結託する政財界。「今を生きている人たち、自分を変えたいと思っている人たちに響いてくれたら、すごくうれしいですね」と語っている(『しんぶん赤旗 日曜版』2009年11月1日号)。
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6 コメント

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Unknown (ひとし)
2011-07-21 03:46:47
自分に都合が悪いことは全て消すんでしょうがw

こいつが組合の実力者として横暴にふるまっていたころに重大事故を引き起こした、

「K機長」

はい、こいつは組合が強引に機長に復職させたわけですね。

組合員が人殺しをしようがしらんぷりと、ああそうですか。
Unknown (Unknown)
2011-08-15 09:05:15
改めて社会の仕組みというのが分かりました。世の中の会社のほとんどがそうではないか?勿論、政界と付き合っていることはないが…。小倉さんには頭が下がるし、自分もそういう生き方がしたい。けど通用できず潰されそう。潰されて会社を辞めた人もいます。
Unknown (あ)
2011-09-17 09:00:23
悪いけど、今の労働組合は日本のガンだと思います。
Unknown (Y.T)
2013-05-10 22:11:20
>これを小説にすると、まず会社に憎まれ、自民党ににらまれ、運輸省に恨まれる。

この一文にJALのみならず日本の体質というものがにじみ出ていますね。
曲解で「小倉氏は悪者」と決め付けるコメントを見るに、
今後も日本でまともな労使環境なんて期待できないんでしょうね
Unknown (Y.T)
2013-05-10 22:14:58
>これを小説にすると、まず会社に憎まれ、自民党ににらまれ、運輸省に恨まれる。

この一文にJALのみならず日本の体質というものがにじみ出ていますね。
曲解で「小倉氏は悪者」と決め付けるコメントを見るに、
今後も日本でまともな労使環境なんて期待できないんでしょうね
逆じゃなかったか? (らむぜ)
2013-07-18 18:26:10
 OBの文章によれば逆ですがね 

羽田沖「逆噴射事件」の悪夢

 40年近く自らが勤めた企業を定年退職後12年もたって、批判しなければならない事実は悲しく胸の痛む現実であるが、ことは大勢の人命にかかわるととなので触れておきたい。
 106人の死者と461人の負傷者を出した05年4月のJR西日本福知山線の尼崎・列車暴走事故のあと、真っ先に連想したのが82年2月のいわゆる羽田沖の日航機「逆噴射事故」の悪夢だった。
 尼崎事故では、「日勤教育」と称するJRの強圧的な懲罰教育によって心理的に追いつめられた運転手が運行の遅れを取り戻そうと、結果的に列車を暴走させ大惨事を引き起こした。「日勤教育」の実態が報道されるにつけ、かって「マルセイ」と呼ばれた「生産性向上運動」がそのまま引き継がれていることに驚きを覚えた。
 当時、日航でも労働組合を分裂させ、会社の思い道理にならない組合の組合員を脱退させて御用組合を育成するための重要な手段となったのが、JR西日本の「日勤教育」そっくりの「生産性教育」だった。
 そのなかで、精神を侵されていった一人が「逆噴射事故」を起こした片桐機長で、「羽田空港が共産勢力に支配され、着陸すると逮捕される」などとありえない妄想に襲われ着陸直前にエンジンを逆噴射、操縦桿を押し下げて海上に墜落し、24名の死者と149名の負傷者を出した異常な事故である。同機長はそれ以前にもモスクワ線への乗務を「共産主義者に逮捕される」と嫌がっていたことが報告されている。

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