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2014年5月17日(土)14:39
産経新聞
沖縄県政界の革新陣営が「自爆テロ」を繰り返している。3月の石垣、4月の沖縄両市長選で支援した候補者がいずれも敗れ、無理やり基地問題を争点にしようとしたことが大きな敗因で、自爆テロと揶揄(やゆ)される理由でもある。米軍普天間飛行場(宜野湾(ぎのわん)市)の名護市辺野古への移設に保革糾合で反対する「オール沖縄」という訴えも粉砕され、11月に予定される県知事選に向けた調整で足並みも乱れそうだ。
■ドン引きする市民
異様な光景だった。
「辺野古移設は認めない。党派を超えて(移設阻止を)進められるかが争点だ」
4月27日投開票の沖縄市長選を前に行われた公開討論会。一騎打ちとなった保守系の桑江朝千夫(さちお)氏と革新系の島袋芳敬(よしのり)氏が出席し、島袋氏は何度も辺野古移設反対を訴え、その都度、会場の前方に陣取った女性たちが大きな拍手で応じた。
ただ、多くの聴衆の表情は冷めていた。
念のために強調しておくと、普天間飛行場は沖縄市にあるわけではなく、移設先となる辺野古も沖縄市ではない。沖縄市は普天間移設問題とは一切関係ないにもかかわらず、島袋氏は争点化にこだわった。
なぜか。革新系の東門美津子市長の後継候補として名乗りをあげ、共産党や社民党などの推薦を受けたからだ。
討論を聞いていた30歳代の男性は「島袋さんは革新政党の反基地闘争に引きずり込まれている。無関係であるはずの辺野古移設反対を繰り返せば市民をうんざりさせ、ドン引きさせることが分かっていない」と話した。
■政党の操り人形
沖縄市の総務部長や副市長を歴任した島袋氏は手堅い行政マンだった。沖縄市も米軍嘉手納飛行場を抱え、防衛省と調整する機会も多く、島袋氏と接点のあった複数の防衛省幹部は振り返る。
「基地問題に熱心だという印象はなかった」
「基地に強いアレルギーがあるわけではなく、まともに話のできる人だった」
ところが、島袋氏は選挙戦に入ると革新政党の操り人形と化し、市民が論戦を最も期待していた経済振興の主張を二の次にした。
対照的に相手候補の桑江氏は辺野古移設を争点にしない立場を鮮明にし、経済振興策をアピール。高い失業率と空き店舗率は革新市政の無為無策によるものだと断じ、モータースポーツのサーキット場建設などで雇用創出と観光客増加につなげると訴えた。
「夢、希望、活力」という桑江氏のスローガンは、地元経済界の若手の結束力と「車の両輪」を成し、若年層や無党派層に浸透。劣勢をひっくり返す逆転劇で当選を果たした。
■学習効果なし
政府高官は「革新陣営は学習効果がない」と指摘する。3月2日に投開票された石垣市長選と同じ戦術ミスを犯したとみているからだ。
防衛省は石垣島への陸上自衛隊の配備を検討している。それを踏まえ、市長選で革新陣営の支援を受けた候補者は告示後、陸自配備に反対する立場を強調し始めた。沖縄市長選の島袋氏と同じように革新陣営の主張に引っ張られたのだ。
応援弁士も延々と反基地を唱え、一部は「陸自が配備されれば石垣に米軍のオスプレイも飛んでくる」とも触れ回った。
政府高官は「自衛隊も米軍もごちゃまぜにして反基地だけを争点にしようとする戦術は市民のアレルギー反応を招き、得票を目減りさせた」と分析し、沖縄市長選でも同じ轍(てつ)を踏んだとみる。
反基地を掲げる候補者を当選させ、11月の知事選に向けた弾みにし、知事選ではオール沖縄の顔となる候補者を当選させる-。
革新陣営の目標はその一点に尽きるが、石垣、沖縄両市長選で連敗したショックは尾を引きそうだ。
■同盟のジレンマ
革新陣営は知事選候補者の人選で那覇市の翁長雄志市長を本命視している。翁長氏は自民党県連幹事長も務めた保守政治家でありながら辺野古移設に反対しており、保革糾合のオール沖縄の象徴として県民に浸透しやすいと判断しているためだ。
だが、自民党幹部は「翁長氏は負ける選挙は絶対にしない。市長選での革新陣営の連敗を受け、知事選出馬には慎重にならざるを得ないだろう」と語る。革新陣営との共闘による勝算を見極める姿勢にいっそう傾くというわけだ。
逆に、革新陣営は翁長氏以外の適材を擁立できる見通しはなく、「早く翁長氏から出馬の確約を得ようと焦る」(自民党幹部)との見方がある。
国同士の安全保障上の同盟関係では、同盟により戦争に「巻き込まれる」可能性がある一方、「見捨てられる」可能性もあるというジレンマを抱える。
翁長氏は知事選で革新陣営に巻き込まれるのか、それとも革新陣営は翁長氏に見捨てられるのか、行方が注目される。(半沢尚久)