デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ローランド・カークとジミ・ヘンドリックスの接点

2012-09-09 08:08:43 | Weblog
 ジョン・クルース著「ローランド・カーク伝 溢れ出る涙」(河出書房新社刊)は、カーク本人の発言はもとよりカークと交流があった多くの人たちの貴重なインタビューを元に盲目のリード奏者の素顔を浮き彫りにしている。著書からはジャズ・プレイヤーは勿論、ロック・ミュージシャンにも注目されていたことがわかり興味深い。カークと共演を望んでいた人は多く、ギタリストのジミ・ヘンドリックスもそのひとりだった。

 そのヘンドリックスが擦り切れるほど聴いたレコードがあるという。「リップ・リグ&パニック」である。ジャッキ・バイヤード、リチャード・デイヴィス、そしてエルヴィン・ジョーンズという曲者をバックに得意の多重奏法を駆使した65年の作品で、針飛びでもして同じ部分をトレースしているのかと錯覚する息継ぎなしのロングソロが圧巻だ。サイレンやホイッスル等、カークの演奏にはどんな音が入っていても驚かないが、タイトル曲はグラスが割れる音が入っているので印象が強い。著書にはそのグラス音にも触れているが、カークの指示で実際に割ったのはプロデューサーのジャック・トレイシーで、完璧なクライマックスを創り出すためだったという。

 このアルバムはほとんどがカークのオリジナル曲で占められているが、スタンダードからはトミー・ドーシーの十八番「ワンス・イン・ア・ホワイル」が選曲されている。クリフォード・ブラウンを聴いて一度は演奏したいとカークが語った曲だ。レコードではA面2曲目のトラックで、オリジナル曲に挿まれた収録になるが、これが違和感がないどころか、レコード片面がひとつの組曲かとさえ思えるほど馴染んでいる。珠玉のスタンダードをそこに配することでオリジナル曲を同化させ、またそのスタンダードを引き立てる効果はアルバム構成の手法として持ち入れられるが、当然、カークのように美しい曲を書くというのが前提だ。

 「ワンス・イン・ア・ホワイル」の前と後には、「No Tonic Press」と「From Bechet, Byas, And Fats」が収められている。プレスとはレスター・ヤングで、後者はシドニー・ベシェ、ドン・バイアス、そしてファッツ・ナヴァロ、カークが敬愛する偉大な先輩たちだ。グロテスクジャズとも言われたカークの原点はタイトルにまでした巨人であり、ワイルドマンと呼ばれたジミ・ヘンドリックスも基本はブルースである。伝統を尊重する音楽は常に新しい。
コメント (18)
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