デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

フレディ・ハバードのバックラッシュ

2009-01-11 09:29:16 | Weblog
 昨年暮れに亡くなったフレディ・ハバードを2度聴いている。最初は72年にジュニア・クックが参加したクインテットで、次は10年後の女満別空港跡地ジャズ・フェスティバルでエルヴィン・ジョーンズをバックにしていた。10年前と変らぬビッグ・トーン、一音でそれとわかる個性的なヴィブラート、正統派ジャズ・トランペッターの手本となるフレーズ、どれをとっても完成されたものであり、その完成は10年前、いやデビューしたころからの完成であった。

 60年にリー・モーガンの後を受けて3管ジャズ・メッセンジャーズの一員になって以来、ブルーノートに残した自己のアルバム、ハンコックやショーターと確立した新主流派時代、そしてVSOP、いつもジャズ・トランペット界の花道を歩いてきたプレイヤーだ。リーダー作とサイド参加作品を合わせるとゆうに100枚を超えるアルバム群は、現代ジャズ史を遡るうえでポイント毎に重要な意味を持っている。ハードバップからモード、フュージョンと変り続けるジャズシーンで常に第一線に立つのは容易ではないが、クリフォード・ブラウン流のよく歌うプレイと豊かなフレーズ、そして何よりも完璧とさえいわれたテクニックがあったからこそであろう。

 66年に録音された「バックラッシュ」は、ハバードがジャズ・メッセンジャースから独立後に結成した自身のグループ唯一のアルバムで、タイトル曲は当時流行りのジャズ・ロックと呼ばれた作品だ。ジャズ・ロックのアルバムといえば全曲8ビートになりがちだが、このアルバムはボサノヴァを入れたり、美しいメロディを持つ「リトル・サンフラワー」も収録した意欲的な作品になっている。優秀な作曲家としてのハバードを聴くことができるし、カテゴリーに囚われない柔軟な音楽性も知ることができるだろう。トランペットという楽器の機能を最大限に生かした抑制の効いたハーフ・ヴァルヴや切れ味の鋭いハイトーンは、多くのトランペッターが模倣するも誰一人ハバードを超えたプレイヤーはいない。

 バックラッシュとは機械用語で、ねじや歯車の運動方向に意図して設けられた隙間をいう。この隙間によってねじや歯車が自由に動くことができるのだが、ハバードはハードバップとモードの歯数の違う歯車を安定したスピードで回し、その隙間を自由に歩んだ人である。享年70歳。合掌。
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする