ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『ヒストリー・オブ・バイオレンス』

2006-01-27 19:03:25 | 新作映画
※映画の核に触れる部分もあります。
鑑賞ご予定の方は、その後で読んでいただいた方がより楽しめるかも。



----この映画も今年の賞レースに絡んでいるよね。
監督はデヴィッド・クローネンバーグだっけ」
「うん。彼にしては珍しい家族ドラマと言われているけど、
いやいやどうして。
トリッキーな映像や彼の十八番とも言うべき肉体の変貌こそないものの、
これはいかにもクローネンバーグらしい映画だ」

----ふうん。どういうところが?
「“日常を脅かす不穏な空気”、
そしてその中にいったん取り込まれると
そこは“逃れられない迷宮”に変わるというところかな。
『ヴィデオドローム』のSM暴力ヴィデオしかり、
『イグジステンズ』の仮想ゲーム世界しかり。
もっと言えば『ザ・フライ』だって
物質移動と遺伝子組み換えの研究という世界に、
深く入り込みすぎてしまって抜けられなくなった男の悲劇。
『スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする』も
記憶と妄想の迷宮から抜け出れなくなった男の話だ。
この『ヒストリー~』はその取り込まれ抜けられないものを
過去に自らが犯した<暴力>と置き換えると分かりやすい」

-----ニャるほどね。まずは物語を話してよ。
「インディアナ州の小さな田舎町で静かに暮らす
トム(ヴィゴ・モーテンセン)とその家族。
ところが夫トムが営むダイナーが
二人組の男に襲われたことからすべてが変わる。
突然銃を突きつけられた彼は、一瞬の隙をつき逆襲。
強盗二人を射殺し、店の客や従業員を救う」

----うわ~っ。大活躍。ヒーローだね。
でも、なぜ彼はそんなスゴい銃の腕前ニャの?
「そこなんだよね。
その危機一髪のときにトムが見せる身のこなしに、
観客はだれしもが『あれっ?』。
でも実はここが重要なポイント。
この事件でトムはヒーローとして
メディアで祭り上げられるんだけど、
彼のことをジョーイと呼ぶ黒づくめの謎の訪問者(エド・ハリス)が出現。
男は『なぜ、あんなにも人を殺すのがうまいのか、
ジョーイに聞いてみろ』と妻エディ(マリア・ベル)にけしかける。
果たして夫の過去に何があったのか?
信頼と不安の間で揺れ始めるエディ。
かくして静かな生活は音を立てて崩れはじめてゆく…」

----そうかミステリー的な要素もあるんだね。
これはオモシロそうだ。
「ぼくがこの映画をいいなと思うのは、
主人公の家族をきっちり描いているところ。
トムの息子ジャックは学校で虐められているんだけど、
いつも言葉で交わして暴力事態になることを避けようとする。
この彼の身の処し方に<平和>を重んじるトムの教育方針が伺える。
ところがそんなジャックが
ガールフレンドの名誉を傷つけられたことから暴発。
相手を容赦なく叩きのめす。
それまで彼はいかにも弱虫であるかのように描いていただけに、
ここは事態を見守るクラスメートのみならず
観客にも強いインパクトを与えずにはおかない」

----mmmm。
「このシーンは、
トムが強盗を射殺して以降の時制に配置。
つまり父親の暴力が<連鎖>したってことだね。
しかしこの息子の正義の鉄槌に対しても
トムは非暴力を主張して彼の行為を諌める。
このあたりは、
訪問者とトムの関係についての観客の混乱を誘う巧い筋書きだ。
謎野訪問者は人違いしているのではないか……とね」

----ふうむ。お話の方は分かったけど、
映像はどうなの?
クローネンバーグらしさってあった?
「映画のテーマとなっている暴力の描き方かな。
全ての暴力は突発的に起こり、
しかも銃が発射された瞬間、ピクリともしないで死んでしまう。
これはいままで多くの映画の中で
撃たれて苦しむ姿をイヤと言うほど見てきた目にとっては衝撃。
だって生命が絶たれ、
一瞬にしてモノと化してしまうんだもの」

----俳優の演技も話題になっているよね。
「エディを演じたマリア・ベルの評価が高い。
トムと『10代の頃に知り合いたかった』と
無邪気にベッドでじゃれていたのに、
夫の暴力的本質が分かってからは
そのセックスは、拒否しながらも応じてしまう荒々しいものへと変わる。
片目をつぶされ顔に傷のある男を演じるエド・ハリス、
見るからにエキセントリックなウィリアム・ハート。
俳優たちもその異様な風貌によって
映画の<異形性>を際立たせている」

----あれっ?トム役のヴィゴ・モーテンセンは?
「彼はカーク・ダグラスに似てきたね」
----誰それ?
「マイケル・ダグラスのお父さんだよ」
----よく知らないけどスゴそう。
それも<異形性>?
       (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「いびつだニャあ」なにこれ?

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14 コメント

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おはようございます (M.)
2006-01-28 08:16:24
この作品、公開はいつだろういつだろうと思っていて

待ちきれずに3月発売予定の米版DVD注文してしまいました。

そしたら日本の公開も3月予定なんですよね?(涙)

タイミングわる~と思いつつ劇場に出かけたあとには

おうちでカーク・ダグラスを愛でたいと思います。

■M.さん (えい)
2006-01-28 19:30:49
こんばんは。



うわあDVDの予約をされたんですか?

もしかしてクローネンバーグのファンですか?

この映画はなかなか緊張感の高い作品ですよ。

オープニングなんて

ワンショット・ワンシークエンス。

オープニング・クレジットの間、ずっと続きます。

期待してください。



いやあ、それにしても

カーク・ダグラスが分かっていただけるなんて。

嬉しいです。

すみません (かめ)
2006-03-11 11:24:19
誤って、2度トラックバックしてしまいました。

すみません。



日本でのこの作品の評価はどうですか?

アメリカではこの手のバイオレンス作品の割には、評判がよかったです。
えいさん、こんにちわ (隣の評論家)
2006-03-11 23:40:59
本日公開の作品は注目しているものが多いので、滅多にしない初日に2点盛りして参りました。

本作は、クローネンバーグ監督からは想像つかない「人間ドラマ」という印象で見ました。ラストの食事のシーンは、忘れられないです。

>だって生命が絶たれ、一瞬にしてモノと化してしまうんだもの

暴力描写はグロイものではないけれど、おっしゃる通り衝撃的でした。明日は「リトル・ランナー」を観に行く予定なので、記事UPしたらまた伺います。
■かめさん (えい)
2006-03-12 00:17:00
こんばんは。



日本では今日からの公開です。

試写段階では評判いいですよ。

クローネンバーグが正攻法の映画を撮ったと言われてます。

でもオープニングのワンシーンワンショット撮影からして不穏な空気が……。

クローネンバーグらしい気もします。

■隣の評論家さん (えい)
2006-03-12 00:20:54
こんばんは。



この映画、ぼくは前半の方が好きでした。

少しミステリー風味の作りになっていて……。

彼が復讐に出かけるあたりからあまりノレなかったかな。

そうそう、

エド・ハリスってこういう役がとても似合う気がします。

こんばんは (ノラネコ)
2006-03-14 22:39:42
研ぎ澄まされた、愛と暴力の物語でした。

クローネンバーグらしい虚飾を排したシンプルな物語に、キャラクターの葛藤が浮き立ちますね。

昔大学で「クローネンバーグとリンチの研究」という論文を書いたほど大好きな監督なので、久々の新作が相変わらず「らしくて」嬉しかったです。
■ノラネコさん (えい)
2006-03-15 00:48:54
こんばんは。



思わずニヤリ( ̄ー ̄)としてしまいました。

クローネンバーグにリンチとくれば怖いものなしではないですか。

80年代はこのふたりに、

脳みそグチャグチャにされてたなあ。
家族愛3本立て (にゃんこ)
2006-05-04 00:42:54
意図的にじゃないけれど、この日の1本目が

母を訪ねて(?)のビル・マーレイ・・・

まだ見ぬ息子なのに・・・父の感情がなぜか沸く

2本目がこれ^^;

そして究極の家族愛(?)しんちゃん(爆)

結果的に凄いラインナップになったと感想書きながら思ってしまいました(笑)

オープニングの胡散臭さで、魅了されて最後まで

あっというまの面白さは、観る順番間違ってなかったなぁ~

っという感じでした。

■にゃんこさん (えい)
2006-05-05 11:31:56
これはこれは豪勢な3本立てですね。



しんちゃんは、まさしく究極の家族愛。

ついに「R25」でも紹介されたようですね。

まだ記事は読んでいませんが…。

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