ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『くちびるに歌を』

2015-01-22 19:57:55 | 新作映画
----『くちびるに歌を』って
昨夜観たばかりだよね。
こんなに早く話してくれるニャんて…。
ニャんだか昨日からとても興奮しているみたい?
「うん。
今年は1月から
しゃべりたい日本映画が多すぎて…。
またまた、溜まってしまわないうちにと思って…」

----確か、最初はそう乗り気でもなかったのに、
ツイッターで見かけたのがきっかけだったよね…?
「そう。
そこには、主演の新垣結衣が本来の良さを出している…。
そんな感じのことが呟かれていたんだ。
新垣結衣って、正統派の美人で、
でも決定打に欠けている。
最近はそんな感じがしていたんだ
『フレフレ彼女』だとか『トワイライト ささらさや』とか、
コミカルな作品への出演も多く、
少し芯が弱いような…」

----でも、今回は違っていたと…。
「うん。
とにかく笑顔がない。
いつも不機嫌そうに腕を組んでいて
人を睨んで見ている。
彼女が演じるのは
お産のため休職に入る音楽教師・松山(木村文乃)の代わりに、
臨時教師として故郷の五島列島にある中学に戻ってきた柏木ゆり。
ピアニストとしても名声を確立している彼女は、
この仕事が意にそぐわないものらしく、
松山が担当していた合唱部の顧問をしぶしぶ引き受けるものの
『ピアノは弾かない』と言ってみんなを戸惑わせる」

----ふうむ。プライドってヤツかニャあ。
「ぼくも最初はそう思って観ていたんだけどね。
なんて自尊心が高い、いや高慢なんだろうって。
しかし、そこにはある理由があったんだ。
そして映画は、その彼女が『ピアノを弾かなくなった』ことと呼応する形で、
男子が嫌いな合唱部の部長ナズナと、
ひょんなことから合唱部に入ることになった、小柄でおとなしく友達がいないサトル。
このふたりの物語が語られていく。
ナズナは、母親が亡くなってから父親が女を作り家を出てしまっている。
一方のサトルは、工場で働く自閉症の兄を迎えるために自分の時間が持てないでいる。
と、簡単にその環境を書いたけど、
ふたりの心が、
この映画のモチーフとなっているアンジェラ・アキの『拝啓~ 十五の君へ~』を通奏低音に
“生きること=生まれてきたことの意味”、
その肯定に向けて感動の世界を紡ぎあげていくんだ

----ちょ、ちょっと待って。
その歌、あまり好きではなかったのでは?
「確かに。
どうも狙いすぎている気がして…。
この年になると、このストレートさはさすがにちょっと気恥ずかしく。
でも一度だけ感動したことがあって
それは原恵一監督のアニメ『カラフル』
確か、あのときも中学で合唱部が歌っているのが流れるという感じだったけど、
もともとはこの歌って
合唱コンクールで歌う中学生のために書き下ろされた曲だったんだね。
ぴったりとハマるはずだ。
さて、物語の主軸ばかり話したけど、
それだと、ただ原作を読めばいいということになる。
でもぼくがこの映画を好きなのは、
これまでの映画には見られない“ある勇気”を持っている、
そこがいちばんだな」

----その“勇気”って?
「それはね。
自閉症、知的障害を抱えた人の描き方。
日本映画って、難病についてはよく素材にするくせに、
障害、とりわけ知的障害に関しては
おっかなびっくりのところがあった。
まあ、それは分からないわけでもなく、
よく知りもしないくせにという批判を遠ざけるためもあるのかなと…。
ところがここでは、
他の人に言った言葉をまねるとか、
一度聞いた言葉を繰り返すとか、
毎回、定時を気にするとか、
ぼくが出会った知的障害の人たちの特性、個性といったものが
臆することなく描きこまれている。
で、何が嬉しいかって、
それが、他の人の人生を助ける…
そう、生きる希望と勇気の推進力となっているんだ

----へぇ~っ。
それは観たくなるニャ。
「確かに、
これは感動のヒューマンものではある。
でも、それがやはりぼくの心の琴線に触れるわけだから、
それはそれでいいのだと思う。
映画としても、
先生がピアノを弾く時の壁に書かれた標語からのフォーカス移動とか、
いいなあと思う部分は随所に。
クライマックスでは、そこにいる人すべてが合唱するという
大団円の構造を生むし…。
別れのシーンでは『フラガール』に匹敵するカメラの横移動。
そのとき、先生に生徒たちが投げかける言葉が最高!」

----それはさすがに秘密だよね?
「もちろん。
ほんとうに
ボロ泣きしたポイントは、
これでも避けて喋ってきたからね。
実を言うと、
そこがもっともテーマに近いんだけど…」





フォーンの一言「アンジェラ・アキの『手紙』、今歌詞を読むとほんと泣けるのニャ」身を乗り出す

※監督は三木孝浩『陽だまりの彼女』に続いてヤられた度

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