真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女ざかり、SEX満開」(2001/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:下元哲・小山田勝治/照明:代田橋男/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:森角威之/監督助手:小川隆史・斎藤勲/撮影助手:西村聡仁/照明助手:高田たかしげ・広瀬寛巳/スチール:津田一郎/現像:東映化学/録音:シネキャビン/効果:梅沢身知子/出演:佐々木麻由子・河村栞・鈴木ぬりえ・色華昇子・田鎖久美子・神戸顕一・幸野賀一・池島ゆたか・数多こよみ・田嶋謙一/SPECIAL THANKS:石動三六・しょういち・参宮橋トリオ・杉友希江・竹村七瀬・吉行由実・浅井康博)。
 十六年ぶりで、マリエ(佐々木)が東京に戻つて来る。息子の交通事故による突然の死を、別れた夫・桜木に報告するためであつた。昔馴染のオカマ・めぐみ(色華)の下に厄介になりながら、マリエは僅かな伝を辿り消息不明の桜木を探す。
 息子を喪つた母親が、別れた父親を探し歩く。といふ物語は、「オール・アバウト・マイ・マザー」(1999/西/監督:ペドロ・アルモドバル)とかいふ映画の翻案らしいが、いふまでもなく、小生ドロップアウトがさういふ女性映画を観てゐる訳がない。電気風にいふならば、禿ッ面がない。なので、その点に関しては潔く一切さて措く。
 実も蓋もなくざつくばらんに纏め上げてのけると、マリエが桜木を知る者を訪ね歩く。その過程で―マリエも一応含め―女達の、桜木の正体をそれとは知らせぬ男視点一人称カメラの濡れ場が挿入される、声ですぐその人と知れてもしまふのだが。その単調な割には贅肉も多い繰り返しで、なかなかに盛り上がらないまゝに、終にはさしたる結実も果たせずに幕を閉ぢる一作ではある。とはいへ、序盤正直本筋とは殆ど関係もないところで、池島ゆたかは決死のクロスカウンターを炸裂させる。
 東京に戻り、まづ旧知のめぐみの店を訪ねたマリエは、そのまゝめぐみ宅に寄留する格好になる。ここで何と、といふか恐ろしくも、マリエがめぐみ宅に泊まつた初めての夜、マリエとめぐみの、即ち佐々木麻由子と色華昇子によるフルコンタクトの絡みが描かれるのである。一応お断り申し上げておくが、本番といふ意味ではない。佐々木麻由子は兎も角、色華昇子に関して御紹介すると、ルックスは、まあサイケデリックなオバケのQ太郎、なモノホンのニューハーフ。本物の偽物、とでもいへば多少は詩的であらうか。恐らく、未だついてゐる(何が)。その上で、ホルモン注射でもしたのか、乳房はうつすらと膨らんでゐる。要はさういふ、さりげなく両性具有なアヴァンギャルド・オバQと、佐々木麻由子の本域の濡れ場を展開してみせたのである。たとへば前々作「痴漢電車 みだらメス発情」(2001)では、色華昇子を女と勘違ひし痴漢した幸野賀一が痛い目に遭ふ、といつた濡れ場もどきであるならば他にもなくはないものの、一通りこなす本域の濡れ場といふのは、確か後にも先にも今作きりであらう(後注:男の後門を犯す形は色々散見される)。池島ゆたかも無茶をする、と片付けるのは簡単であるが、あへて肯定的な評価を下すならば、この蛮勇が辛うじて可能たり得たのも、下元哲のカメラあつて初めてのことであらう。

 和服姿の石動三六は、めぐみの店常連の“師匠”、ファンの女の子二人連れ(何れも不明)を伴なひ来店する。田鎖久美子は、同じく店の常連・ヒロムことヒロ君。めぐみに対して、性同一性障害のおなべである。数多こよみは、ヒロ君が同伴するクミ。田鎖久美子は多分ガチのおなべであるとは思へないが、いい男ぷりを見せる。吉行由実と浅井康博は、めぐみ宅でマリエが見るテレビドラマに登場する、母親と息子のマサオ。マサオがパソコン音痴の母親に教へる手間に一旦は匙を投げつつも、考へ直して母に優しい電話を入れる、といつた件がしつかり描かれる。これは全くの横道にしか思へないが、考へてみると、時に池島ゆたかはさういふ枝葉に妙な心血を注ぐところがある。神戸顕一は、マリエが最初に訪ねるVシネ監督の小泉。プロデューサーを称した桜木に、制作費を持ち逃げされる。河村栞は、体を壊し入院してゐた桜木の、担当看護婦であつた紗織、桜木の子供を宿してゐる。紗織のファースト・カット(ここの撮影は小山田勝治)、東京の街並みを背景に、子を宿した母親としての、穏やかでありつつも力強い眼差しで遠くを見やる河村栞のショットは、必殺の威力を誇る。その一点突破で今作を傑作と評価する人のあつた場合、私自身は必ずしも与しはしないが、その映画観は支持する。鈴木ぬりえは、ヒロ君の紹介でマリエが訪ねた、AV嬢のレイラ。この人の、顔を真正面から撮るのは反則にしよう。金髪にすると驚くほど安い風貌になる幸野賀一と池島ゆたかは、レイラの撮影現場に於けるAV男優と監督。
 紗織が桜木の子を出産した後、終にマリエは桜木(田嶋)との再会を果たす。五代暁子が脚本を書いて池島ゆたかが監督した映画が、さしたる結実も果たせずに終つたとて特段驚くにも当たらないが、問題、といふか最大の疑問点は。ここからのエピローグがマリエと桜木のイメージ・シーンの濡れ場を挿みつつも、幾分以上無駄に長過ぎる。完全に、ピンク映画としてのバランスを失してゐる。どうにもこの人達の映画は、詰めが甘い例が多い。


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