真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女子学生 危険な遊戯“あそび”」(昭和54/製作:幻児プロダクション作品 昭54.10/配給:ミリオンフィルム/監督:中村幻児/脚本:吉本昌弘/企画:才賀忍/撮影:久我剛/照明:森久保雪一/助監督:岡孝通/編集:酒井正次/音楽:山崎憲男/記録:平侑子/撮影助手:渡辺秀一・倉本和人/照明助手:宮沢学/録音:ニューメグロスタジオ/効果:ムービーエイジ/現像:ハイラボセンター/出演:日野繭子・朝霧友香・坂下めぐみ・外波山文明・矢野健一・杉崎宏・尾形秋夫・加倉井和也・市村譲)。出演者中、矢野健一から三人は本篇クレジットのみ。企画の才賀忍は、中村幻児の変名。
 東西大に通ふ女子大生のマキ(日野)と、同棲相手で未だ予備校生のタカオ(加倉井)が駅前にて軽目の痴話喧嘩。二人で同じ電車に乗る、駅のホームに憂歌団起動。タカオが代ゼミに向かふ、往来にタイトル・イン。とはいへ、もしくはモラトリアム。予備校をバッくれたタカオが、青電話をかける画でクレジットは俳優部に突入、一方マキはキャンパスに。鏡に映つた、女の下半身に中幻クレ。尻に手を伸ばす指が矢鱈細く白く、予想外の百合かと面喰らひかけたところ、単に加倉井和也の指が馬鹿に綺麗なだけだつた。
 配役残り、濡れ場の火蓋を切る坂下めぐみは、タカオが自宅に連れ込む浮気相手のタエコ。マキとも旧知の、少なくともタカオとは高校の同級生。この人は、あるいはこの人も浪人した末、結局短大に進んだ口、マキも現役生ではない模様。翌年監督デビューする、市村譲はマキの浮気相手、教授としか呼称されない、多分英文科。互ひの生活に対する不干渉を宗に、マキとタカオはある程度融通無碍な関係。更にマキが教授から得た要は愛人料で、二人暮らしを賄ふ生計、月々幾らふんだくつてるのよ。バンダナに長髪、のち市村教授(仮名)からはインディアン扱ひされるフラワーな外波山文明は、マキとタカオに加へタエコも常連のバー「ひげ」のマスター・キンちやん。アホみたいに若い、アホとは何だ。公開年が、最早四十五年前ともなる冷酷な現実にクラクラ来る。昭和さへ遠く、なりにけり。「君みたいな娘には、滅多にお目にかゝれないよ」。朝霧友香は助教授ならぬ譲教授(だから仮名)が、常套の口説き文句で劇中マキ以外に手をつける、女学生B。尤も名前の重さは兎も角、マキは知らなかつた噂される<パイプカット>を繋ぎこそすれ、所詮一戦交へると御役御免の朝霧友香が要は絡み要員に過ぎず、実質三番手のきらひは否み難い。その他「ひげ」の客で、女二人含め若干名投入される。その中本クレのみ隊は、マキを雑に口説きがてら、服の上からオッパイも突く坊主頭と、クライマックスの遊戯“ゲーム”に、タカオと教授にキンちやん以外で参加するもう二人か。マキが一貫して口にする用語が“ゲーム”である以上、公開題も読み仮名は“ゲーム”とふるべきであつたとしか思へない。
 ちぐはぐなビリングの火に油を注ぎ、ポスターも日野繭子より更に大きく朝霧友香が飾る。何時の時代の、何処の会社。御多分に漏れずミリオンも大らかかへべれけな、中村幻児昭和54年最終第十三作。
 タカオとの仲いゝ小競り合ひの最中、マキが覚えた嘔吐の発作は悪阻で、妊娠二ヶ月だつた。その旨告げられると、切札たる事実を何故かか意地悪く秘しつつ、“処理”の用語も平然と口にする教授に対し、タカオは父親すら問はず手放しに喜んだ。胎児込みでマキを間に挟んだタカオと教授に、今度は逆にタカオを巡るマキとタエコ。二つの三角関係が六芒星を成す構図を、下手にカットを割らず、台詞にも頼らず。フレームの端で日野繭子に顔色を静かに変へさせる、キレッキレの演出で加速しながらも。かといつて、ドラマを物語るのにうつゝを抜かし、ピンクの本義を疎かにするでなく。酔ふと戯れに「ひげ」で脱ぎ始め、偶さかにキンちやんとも寝る。マキの奔放な造形の下駄も履き、案外従順な裸映画といふ印象がひとまづ強い。それでゐ、て。正しく全てを引つ繰り返す、衝撃の告白でタカオ―と観客ないし視聴者―の度肝を抜くや、ビクワイエットの仕草で微笑む日野繭子の、画期的にスマートなショットを叩き込んだ上で、鏡の中カラカラ回る、ベッドメリー挿んで暗転終。一瞬の隙を突き丸め込む、クラッチ技にも似た鮮烈な結末が出色。サクッと快い余韻は、小屋で観てゐたならなほ格別であつたらう。


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