真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「襲はれた若妻」(1989/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/撮影:図書紀芳/照明:内田清/助監督:石崎雅幸/脚本:水谷一二三/編集:金子編集室/音楽:OK企画/スチール:津田一郎/撮影助手:戸澤潤一・三栗屋博/照明助手:佐野勝巳/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:南野千夏・風間ひとみ・詠美・久須美欽一・工藤正人・青木和彦・吉岡市郎・姿良三・熊谷一佳・中村芳晴・斉藤治朗)。何某かの意図でもあるのやらないのやら、超絶中途半端な位置にクレジットされる脚本の水谷一二三と、出演者中姿良三は小川和久(現:欽也)の変名。
 舗装もされてゐない田舎道を、赤い車がブーと走るロング。南野千夏がハンドルを握り、大体運転手視点の画を暫し見せた上で些か不似合に石がデカいのはさて措き、左手薬指には人妻である旨示す指輪が。伊丹玲子(南野)が運転する車に、未曽有の無造作さで男(ビリング推定で斉藤治朗、か中村芳晴)が飛び出して来る。文字にすると本当にウワーッ!とか叫んでる、ポップな悲鳴が早速ジワジワ来る。玲子が車を止めると、ウワーッ氏―以後宇和氏―は見事にといふか綺麗にといふか、兎も角そこかしこから大流血。およそ動かせさうにもないゆゑ、玲子がお医者を呼んで来ようと車を出した繋ぎで、赤バックに書き殴つた筆致が迫り上るタイトル・イン。時代劇か西部劇みたいにペットが哭く、エキサイトメントを直撃する劇伴もいい塩梅。
 ところが玲子が医師(青木和彦/マギー司郎の二番弟子)を連れて来たところ、現場から宇和氏の姿は消えてゐた。第三者が担ぎ込むにしても、そもそも近隣に他の医療機関もなく。玲子は一旦弁護士の夫(吉岡)が待つ津田スタに帰宅、だからこの物件は築何年なんだ。伊丹には同窓会翌日の二次会で、玲子がゐたことになつてゐたのは六本木。前日の同窓会までは事実として、実際玲子は再会した古橋マモル(工藤)と一夜の過ちを犯した挙句ゐる筈もない辺鄙な土地にて、謎の宇和氏を撥ねたのであつた。
 配役残り、何故かこの頃は今より髪が薄い―不ッ思議だなあ―久須美欽一は、次の日早速玲子に電話をかけて寄こす、自称宇和氏の代理人・キヤマ、正体はノミ屋。風間ひとみは、渡された鍵で玲子が古橋を訪ねたドンピシャのタイミングで乳繰り合ふ、古橋の婚約者・河合美沙。面相は雑だが綺麗な体をしてゐる詠美は、キヤマ馴染のホステス・マリ。姿良三と熊谷一佳に不完全消去法で中村芳晴、か斉藤治朗が、キヤマ殺害事件を捜査する刑事。
 束の間の昭和に滑り込めたのか、矢張り平成が明けてから封切られたのか微妙な和久時代の、今上御大・小川欽也1989年第一作。専門職に就く富裕な夫を持つ若妻が、不在証明の成立しない交通事故を起こしたばかりに、身から出た錆といつてしまへばそれまでの、ジャンル上類型的な悶着に巻き込まれる。と、なると。粗筋だけ掻い摘んでみればあれれれれ?何処かで観た記憶も過(よぎ)るのは、決して気の所為でも迷ひでもないんだな、これが。今をときめきさうで案外ときめききれない低予算映画界のマドンナ・しじみの、持田茜名義による銀幕デビュー作「浮気妻 ハメられた美乳」(2006)と同じお話ではないか!元ネタがあつた、あるいはウワハメに際してはセルフリメイク―焼き直しともいふ―してゐたのか。これは当のしじみも知らぬにさうゐない、とエウレカしかけたところが。
 不動の玲子(が、ウワハメに於いては持田茜/以下同)を筆頭に、配役は大体同じ。夫の水上祐二(なかみつせいじ)は大学教授と、姓と職業は若干変つてゐる。古橋とキヤマも、古川信吾(ひょうどうみきひろ)と崎山晃一(竹本泰志)にマイナーチェンジ。逆に美沙(山口真里)は不変で、宇和氏は石動三六に齢を重ね、姿良三は医師にスライド。人死には発生せず、官憲は登場しない。展開の逐一はおろか個々の遣り取りも、結構そのまんまトレースしてゐる。とは、いふものの。何気にオッパイ部を揃へる三本柱は二作共通ながら、美沙役の山口真里が三番手に下がり、代つて二番手に飛び込んで来る風間今日子が、水上の不倫相手・小林麻衣に扮するのが最大にして決定的な相違点。蓋を開けてみると出々しから全く異なる物語は、百八十度のハッピー・バッドと結末も正反対。正反対どころか、カザキョンの天衣無縫な大暴れが火を噴くウワハメは、オソワカとは斜め上だか下に正反対。しじみ(ex.持田茜)初陣の原典発掘とエウレカしかけたところが、量産型娯楽映画ならではといへばいへなくもない、消費と忘却ないし通過を以て業とするポップ・カルチャーの極北で時に結実する、臆面もないリサイクル作かと一瞬思はせ、実は全然違ふ。これでなかなか一筋縄では行かない、予想外のマジックにしてやられた。要は勝手に喰ひついて、まんまと吠え面かゝされただけともいへ、今上御大、畏るべし。更に時を経た現在、現代ピンクの到達点にして、安らかで慎ましやかな桃源郷。伊豆映画を完成した功績に至る小川欽也の来し方は、矢張り伊達ではなかつた。片岡修二に書かせたものを、のうのうと自脚本と称してのける深町章とは雲泥の差である。金払ひには、禍根を残しもしてゐるやうだが。
 とこ、ろで。ウワハメは一旦忘れ、今作単体に話を絞ると。所詮は大雑把なサスペンスを馬鹿正直だか下手に追つた結果、ワンピース越しにもムッチムチな南野千夏が、シャワーひとつ浴びるでなく尺の後半は見事か無様に温存。折角無理からでも何でも伊丹との夫婦愛を再確認し合ひながら、締めの夫婦生活を堂々と歌ひ上げもせず、抱き合ひはするチューでダラダラ縺れるラストには逆の意味で吃驚した。濡れ場で大団円を偽装する千載一遇の好機であつたらうに、腰も砕けるレス・ザン・尻子玉な裸映画である。一方、ウワハメもウワハメ。風間今日子が支配する世界にラウドなグルーブが確かに轟きはすれど、何れにせよ所詮、派手にブッ壊れた展開にグルッと一周した興を覚える、ツッコミ処の範疇を半歩たりとて出でる代物ではない。二十年近くの歳月を挿んでなほ、単品同士だと仲良く精々他愛ない辺りは、あるいは他愛ない辺りが、昔も今も、和久も欽也も変らない所以。


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