Dr. Mori Without Borders / Mori-san Sans Frontieres

森 一仁が医学・国際政治経済金融・人文教養教育など関心問題を国際的・学際的に考える。

「先生、クローン技術のヒトへの応用についてどう思いますか?」(学生の質問に回答)

2005-05-29 00:58:23 | 基礎生命医科学:基礎医学・生物科学
専門学校生からこんな質問が来た。[引用始]> ところで少し話しは変わりますが、森先生は[クローン技術]を人に使うのはどう思います?

「森の見解:クローン技術は部分的には使用が認められる場合もあると思う。」
たとえば腎機能やら肺機能の一部を失って、肉親も無い場合などに、どうしても臓器を移植したい気持ちに駆られることがあるかと思うのです。こうした場合に、自己の細胞・組織の一部から、細胞のサイクルを初期状態にまで逆転させる最新の細胞工学の技術を使って、そこに自分の細胞から抽出した核なりDNAを入れて、操作を施して、医療に応用すると言うのは考えられなくはないでしょう。

但し個体そのものを造る事には反対です。私は生命は神様が創ったと思うし、この領域に人間が知性万能主義を振りかざして進入することは、ひじょうに傲慢ですらあると思います。こうなってくると、個体ではないから「脳」をこのクローン技術で再生して移植することはよいのか、などという問題が出てくるでしょうが、私は「脳」は個体の生命や意識そのものではなくて、個体の生命を維持する一つの神経内分泌器官と考えているので、「個体丸ごとの再生」という意味でのクローンをするのでなければ、部分的にクローン「技術」を再生医学に応用するのは、大いにこれからもあり得ることだと思います。

いずれにせよ、学際的な倫理委員会を開き、充分に時間をかけて議論をした上で最終的な判断を決定すべきだと思います。そのためには、現在から思考実験というか、あらゆるケースを想定しておくべきだと思うのです。ハーバード大学の法学大学院などのケース・スタディでは、そのようなスタイルで常に問題を先取りしていると聞きます。」[引用終]


急いでいたこともあったが、ざっとこう答えた。
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私の現在の考えは以下に。[新たなケーススタディーと考察によって記述が増加する可能性有り。]

①原則として「個体の全複製には反対」である。

②脳の一部クローンについては、意識と脳とを別個に考える観点から、可能である。

③免疫学における組織適合性の問題によって二次的に生じた問題を避けられる可能性がある。例えば親子間でMHCの適合性が合わず、臓器移植が不可能な場合がある。この場合IVF(試験管内受精)などを応用して新たに出来た子供を、先に出来た子供のため「犠牲」に成りうる「賭け」に出る夫婦などがある。
これは「人情」という観点からは「情状酌量」の余地があるとされるかも知れないが、やはり「個体の生命の尊厳性」という事を考えると俄かには首肯し難い。そうした事態を避けるためには、臓器移植を必要としている「子供」がクローン技術を応用して身体の一部を細胞レベルで摘出し、目的とする臓器へと分化させて移植させるという事はおそらく将来的に可能になるであろう。こうしたクローン技術の応用については可能である。回答メールにも書いたように、親類などから移植臓器を受けられない臓器移植希望者などがいる場合も同様である。

<参考資料>
クローンって何? (現:文部科学省/旧:科学技術庁による解説)

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