ある記憶

遥か遠くにいってしまった記憶たち

ちあきちゃんパート2

2007-11-06 23:50:54 | 
寄宿舎のY先輩。2つ上で、飲兵衛のくせに哲学的ナルシスト。
飲み出すと手が焼けてしょうがない。けれど、なぜか僕はそのY先輩に気に入られ可愛がられていた。
Y先輩は、どっからちあきちゃんとの一件を知ったのか、今日、その店に行くぞ!
と突然言い出してきかない。僕も、まんざらでもなかったので、渋々を装いつつ、
その「ポパイ」というDJパブに赴く気持ちになった。

女の子は、そんなにも短期間に変わるものかな・・・。何で?
高校の先輩とつき合ったことが契機なのか。その秘密の、証拠のひとかけらでも、
手がかりがつかめれば、それでよかった。恥を忍んでも行く価値があると思った。
けれど、心のどこかで、ちあきちゃんと新しい何かが始まることを期待していたのかも知れない。

地方都市とはいえ県庁所在地であるその街の、特に中心的なその繁華街は、
景気よさそうなおじさんやおばさん、そして同じような年齢の学生や若者で、
とても華やいでいる。けれどもその影に、何かいまひとつ踏み込めない、
踏み込んでしまったら中々帰ってこれないような、見えない怖さを潜めている
ようにまだ若い僕には感じられた。
コンパだ合コンだと、何度かきた空間ではあるが、
いつもそうした臆病風が身の回りに付きまとっていた。

「よーし。行くぞ~」本音ともおどけとも、よくわからないY先輩の叱咤激励。
思い切って、重厚な扉を押して中に入ると、流行のハードロックが大音量で
部屋にあふれ、各テーブルは、比較的若い、同年代の学生と思しき青年たちが、
男女入り乱れて言葉さえ聞き取れないような喧騒がそこにあった。

先輩と席について、バランタインか何かのボトルを入れた。
ちあきちゃんにもらった名刺と一緒に、ボトルの割引券があったためだ。
適当に、ポテトやらチキンやらを頼んだ。

「ちあきちゃんて、どのこだ」
「あそこでしゃべっている女の子か?」

Y先輩の指差すほうを見ると、派手な衣装に、ケバイ化粧の若い女性が、
一生懸命、なにやら流行っているロック歌手の紹介やミュージックシーンについて
の解説を、休むことなくしゃべっている。
受験勉強で、相当視力を退化させた僕には、すぐには彼女と判別がつかなった。
しかし、良く見ると、案の定、ちあきちゃんに間違いないとすぐに確信した。

「そう。あれがちあきちゃん・・・」

Y先輩は、「よし。次の曲がかかったら行くぞ」
「お前、オレのこと紹介しろよ」
その気があったのか、単なる気まぐれか、全然僕にはわからなかったが、
とりあえず僕は、「はい」とそれに応じた。
どうなるんだろう・・・。実は、心臓がとてもドキドキして、手に汗がべとついて、
お絞りで顔を思いっきり拭いた。

そして、次の曲がかかった。
確か、ローリングストーンズの「ミス・ユー」だったと記憶している。








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