パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

運命、という錯覚

2008-06-09 21:28:32 | Weblog
 秋葉原で……引っ越しておいてよかったなあ。

 実際のところ、去年あたりから、秋葉原のあちこちでわけのわからない、変な事件が結構頻発していた。歩いていてもどこがヤバいのかわからない、のっぺりした街なのだが、近年の秋葉原には犯罪者を引き付ける何かがあるのかもしれない。

 それにしても、犯人は、「人が沢山いるから」ということで秋葉原を選んだようだが、だったら、渋谷を通ってきたというから、渋谷でもよかったはずだ。なんで秋葉原でなければならなかったのだろう?

 そんなことを考えると、犯人が、渋谷でも新宿でも、犯人の住む静岡でもなく、「秋葉原で殺る!」と決めたとき、今回殺された7人の人の運命も決まってしまったような《錯覚》に襲われる。

 というのは、一昨日、古本屋で岩波文庫の「アラビアンナイト」の1巻~3巻を買って読んでいるのだが、その第16夜あたりの話だ。

 ある金持ちの商人に男の子が生まれたが、占星術師が、この子供は15歳でカシブという男に殺されて死ぬ運命にあるという。その日は、ある前兆によって知られる。それは、磁石でできた島の天辺にそびえる銅像が海に落ちたら、その日から数えて40日目だという。

 そして、ある日、その磁石島の銅像が海に落ちた。

 そこで商人は、かねて、秘密の無人島に作っておいた地下室に、15歳にならんとする息子を40日分の食料とともに送り込んで、危機をやり過ごそうとした。

 ところが豈図らんや、この無人島で有り様を見ている男が一人いた。それは、銅像を海に落としたカシブで、その後、件の島に漂着していたのだ。

 カシブは、秘密の地下室に潜り込み、少年を見つけ、話を聞くと、自分がこの少年を殺す運命にあることを知る。しかし、カシブは、少年のあまりの美しさに心を奪われ、自分がこの少年を殺すはずはないと思い込み、自分の正体を隠したまま、40日間をその少年と過ごす(うふふ)。

 さて、40日を過ぎようというその日、もう大丈夫だと安心した少年は、喉が乾いたので西瓜を食べたいといった。カシブはそれを聞いて、ベッドの上に立って包丁を手にとったとき、なんと、少年がふざけて男の足をくすぐった。

 くすぐられて驚いたカシブは、包丁をもったまま少年の上に倒れ込み、少年の胸深く、包丁を突き刺してしまった。

 ……という話。

 ちなみに、「アラビアンナイト」というと、どうしてもバートン版が有名で、以前、少し読んだことがあるのもバートン版(大場正史訳)の角川文庫だったが、実はバートン版は、一部「抄訳」といってもよいところがあり、より完全なものは、マルドリュスという、エジプト人でフランス語にも堪能な学者が、フランス語に訳した「マルドリュス版」なのだそうで、岩波文庫はこのマルドリュス版である。

 奥付を見てみたら、全部で26巻もある。「三国志」が10巻だったから、かなり長いなー。でも、バートン版よりさらに面白そうなので、とりあえず、1巻~3巻を読みながら、残りは、折々古本屋で探すことにしよう。