ハブ ア ナイス doi!

いつまで続くのかコロナとの戦い。
全て解放されて、もっと、もっと
心から楽しまないとねえ。

旅する親父

2013年07月30日 21時00分25秒 | 生活

親父は毎日旅をしています。

満身創痍の身体を抱え、
そぎ落とされた筋肉に鞭打って、
91年間のたくさんの思い出とともに暮らす
親父の日々は、まるで命と語らいながら旅する日々のようです。

時折、血尿が出て泌尿器科に走ったり
夜中に低血糖で救急車で運ばれたりという
スペシャルデーはあるものの
おおむね、一日は
陽が東から上って西に沈むように
起きて、生きて、寝てと淡々と過ぎていきます。

朝イチには、玄関先に出て椅子に座り
神社の大きな楠の命に増幅された
朝の木漏れ日の力を、
両手で受け止めるような姿で日光浴をさせます。

こうすることで、一日の始まりの
リズムを作っているのです。

夜は寝て昼は起きるという
睡眠のリズムを整えるためには
どんな薬よりも、これが効果的かもしれません。
おかげさまで、最近ようやく
昼夜の区別がはっきりしてきました。
睡眠のリズムも整ったようです。

人間て、葉緑素はないけど、
きっと体、いや心のどこかで
光合成をしているのに違いない
とその姿を見ていて思います。

その日光浴の姿はあたかも古木のごとく
自然と同化してそこに佇んでいます。
頭にセミでもたからないか心配なくらいです。

ここがそんな親父の日光浴の定位置。



そして日光をしこたま浴びた後も、
すぐに家に引っ込まず、
すだれを降ろして、
西太后よろしく垂簾聴政ならぬ
垂簾聴村を実行しており、
「○○さんもデイサービスに通い始めたな」
とか「提灯上がってるから、もうすぐ盆踊りやな」
「提灯下ろしたから、盆踊り済んだんやな」
などと、わずかの間に
結構村の情報を仕入れています。
一方、夏にもかかわらず
「今日は温いな」とか言ったりして
正気と混沌が入り混じっています。
不思議の国を旅しています。

朝イチのそんな儀式が終わりますと、
着替えをさせ、次は毎日の点滴に出発します。

夏場は体力も落ち、
水分も誤嚥が怖くてあまり摂ろうとしないので
体力維持のために
最近は手足のむくみの状態を見ながら
毎日点滴に連れて行ってます。
まるで、僕らがジムへ通うような感覚です。
健康づくりという面から見ても
目的はさほど変わりはせんがね。

デイサービスのない日は、
午後からはできるだけベッドから出て、
椅子で本でも読むようにしつけています。

子どもの頃、夏休みの一日の過ごし方の指導では
「朝の涼しいうちに勉強しましょう」
だったけど、どっちみちエアコンを入れるのだから、
親父の場合は
「熱い午後にエアコン入れて読書しましょう」
ということになりますね。

そんな読書では
最近は旅の本にも興味があるようです。
きっと、薄くなった思考の中で、
風のように大空を飛び、
大海原を航き、山をかけまわっているのにちがいありません。

自分自身も歳を取った時に、
自由に旅する世界を
自分の中に持っていたいものだと思います。

そして、身体はやや弱ってはいるものの
食欲は旺盛にあります。

たまに当番で味噌汁や簡単な食事を作ってやると、
息子の手料理と知ってか知らずか、
おいしいおいしいといって食べてくれるのですが、
こちらが食べてみたら味が薄すぎだったりすると
それはどうも不憫でなりません。
たとえそれが味覚の衰えからくる
誤解であったとしても、です。

食後の薬は、毎回山ほど飲んでいます。
半年前くらいまでは自己管理できていたのですが、
最近は薬の種類が増えてきたこともあり、
こちらで管理をしているので、
忘れずに飲めているのはいいけれど
こちらとしても大変なのです。
何せ自分の薬でさえ、飲み忘れたり
毎日習慣のようにしてるから、無意識に飲んでいて
昼頃になって飲んだかどうかわからなくなって
混乱したりしているくらいですからね。

宵は犬とテレビ鑑賞です。
この前は選挙にも関心を示していました。
以前は自〇党の地元幹事までしていたのに
近ごろはどこまでわかっているのかよくわからなくなっている。
AKBの総選挙のときも、
「選挙の紙届いてたか?」
などといったりしているくらいなのである。

野球は阪神ファンです。

阪神戦はよく見ているようですが、
翌朝「どっちが勝った」と尋ねると
「さあ」とわからないことがほとんどだから、
がっくしとなります。

オールスターなんかだと
いろんなチームの選手が出てきて
さぞかし頭に中に???が充満したことでしょう。

風呂は週3回のデイサービスで入れてもらっているので、
家では入りません。
ていうか、家の風呂はなかなか
高齢者には文字通り敷居が高い。
なのでテレビを見つつ、10時にもなろう頃には
もうほとんどオネムの時間なのです。

電気を消して、酸素チューブを点検して
はい、ポテチン。

こうして親父の一日の旅が終わります。

長寿という神様に抱きとめられて
淡々と暮らす親父を見ていると
命って何なんだろう、
幸せっていったいなんだろう、
豊かな人生てどういう人生なんだろうと
ついつい考えてしまう今日この頃です。