オバサンは熱しやすく涙もろい

とてつもなくミーハー。夢見るのはお気楽生活

「パンズ・ラビリンス」

2007-10-08 13:46:14 | 映画・DVD【は】
  

監督:ギレルモ・デル・トロ 

出演:イバナ・バケロ、セルジ・ロペス、マリベル・ベルドゥ、ダグ・ジョーンズ、アリアドナ・ヒル、アレックス・アングロ 他

2006年、メキシコ/スペイン/アメリカ作品


以前「エドゥアルド・ノリエガが出ているから」という理由で見た同監督作品「THE DEVIL'S BACKBONE」。
これも内戦下のスペインが舞台だったが、やはり犠牲になっていたのは罪もない子供たちだった。
そしてラストでは子供たちは自らの足で立ち上がり、自らの手で武器を取ることによって大人への階段をあがっていったのだが、あの映画にはまだ救いが感じられた。

だが、この映画はどういったものか。


1944年のスペインが舞台である。
内戦は終結していたが、それでもまだフランコ政権に対し、抵抗運動を続けるものたちがいた。
山間部にたてこもった反政府ゲリラを鎮圧するため派遣されたのが、ビダル大尉。
彼は自分の戦う土地で子供を産ませるために、体調の思わしくない臨月の妻を無理矢理呼び寄せるという身勝手で冷酷無比な男だった。

妻の連れ子のオフェリアは、そんな義父を受け入れられず、また、体調のすぐれない母親の姿に不安を覚えずにはいられない。

とある夜、オフェリアは寝室に現れた妖精に、森の奥にある迷宮へと案内される。
そこには不思議な姿をした「牧神」のパンがおり、オフェリアに「あなたはこの地下王国のプリセンスである」と告げる。
そしてさらに
「すっかり人間になってしまっていては王国に迎えることができない。王国に迎える資格があるかどうかを試すために、3つの試練を与えましょう」
と言い、その試練がなんであるかが記された大きな本を差し出すのであった。
悪夢のような現実の世界から逃避し、迷宮に希望を見出そうとしたオフェリアは、試練に立ち向かうことを決心するのだが・・・。



過酷な運命から逃れるために、自分自身の中に迷宮の世界を作り上げたオフェリア。だが、その迷宮も決して美しい世界ではなかった。
オフェリアが迷宮の世界へ逃避するのと併行して、現実ではビダル大尉が残虐な行為を繰り返す場面が映し出される。
残酷な描写をつきつけられ、あまりの惨さに私は何度も目を覆った。
映画を観る前にプログラムを購入しざっと目を通したのだが、内戦直後から翌年にかけて、一日に250人もの捕虜が処刑されたそうだ。
殺された捕虜たちの恐怖や苦痛を思い、胃が締め付けられるほどキリキリ痛んだ。
今まで、こんなに痛い思いをしたダーク・ファンタジーは知らない。
だがこれはダーク・ファンタジーでありながら現実でもあるのだ・・・。

人を嬲り殺すようなビダル大尉でも、父の形見の懐中時計を肌身離さず持ち歩くという、人間らしい弱い面ものぞかせる。
彼は自分の命が危険にさらされる時、その懐中時計にそっと手を触れるのだ。
そして自分の最後を息子に伝えたいという父親らしい気持ちも持ち合わせていた。
一体どんな狂気が彼を残忍な行為へと導いたのか。

オフェリアに対しては可哀想にという思いとこれで良かったんだねという安堵感とがない交ぜになり、涙が溢れて止まらなかった。
ギレルモ・デル・トロ監督は一人の少女の生き方を通すことによって、戦争の愚さを強く訴えることに成功していると思う。
そして戦争をモチーフとした映画というだけではなく、みごとにダークファンタジーと融合させ、完成度の高い作品にしあげている。

子供たちが空想の世界にひたるのは悪いことだとは思わない。
だが、それが悪夢が充満した現実から逃れるために残された、たった一つの手段だったとしたら、あまりにも悲しいではないか。
コメント (30)
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